本論文は、凍結胚移植では、胚移植時の季節に関係なく夏の採卵の出産率が良いことを示しています。
Hum Reprod 2023; 38: 1714(オーストラリア)doi: 10.1093/humrep/dead137
要約:2013〜2021年にオーストラリアのひとつのクリニックで実施した1835名、2155採卵周期、3659凍結胚移植周期を対象に、採卵時と凍結胚移植時の季節、気温、日照時間と出産率の関連について後方視的検討を実施しました。なお、気象条件は、採卵及び移植前の14日間と28日間のデータを用いました。主な結果は下記の通り。
秋の採卵日と比べ、夏の採卵日で、出産率のオッズ比は1.30(95%信頼区間1.04〜1.62)と有意に高い
採卵日の日照時間下位1/3と比べ、上位1/3で、出産率のオッズ比は1.28(95%信頼区間1.06〜1.53)と有意に高い
採卵日や移植日の気温は、出産率に有意な影響はない
移植日の最低気温が低い場合と比べ、高い場合で、出産率のオッズ比は0.82(95%信頼区間10.69〜0.99)と有意に低い
解説:人工授精やART治療(体外受精、顕微授精)の妊娠成績には季節変動があるとの報告がありますが、その結果は様々です。
①ベルギー:日照時間が長く、雨の日が少ないと出産率増加
②イスラエル:日照時間が長いと受精率や胚の質が良好になる
③イラン:秋になると受精率や胚の質が良好になる
④中国、香港、英国、米国、オランダ:夏の妊娠率が増加、出産率は増加しない
⑤オーストリア、ハンガリー:冬の妊娠率が増加
⑥カナダ、イスラエル、中国、その他:季節性の変化はないとする論文多数あり
以上の論文の多くは、移植日の気象に基づいています。しかし、最近は世界的に採卵周期と移植周期が異なるため、それぞれ分けた分析が望まれます。2022.3.27「夏の採卵が良い!?」で紹介した論文は、採卵周期と移植周期に分けて季節性変動を検討した初めての報告であり(米国マサチューセッツ州、ケッペンの気候区分Dfb)、夏の採卵が良いことを示しています(移植の時期は問いません) 。本論文は、地中海性気候(ケッペンの気候区分Csa)を持つ西オーストラリア州での検討であり(南半球での初めての報告)、夏の採卵が良いことを示しています。しかし、本研究は後方視的検討であるため、因果関係を示すものではありません。したがって、前方視的研究が必要です。また、DfbとCsa以外の気候区分にも当てはまるかどうかの検討も必要です(日本は、地域によって、Cfa、Cfb、Dfa、Dfbの4区分あります)
妊娠の季節性変動については、下記の記事を参照してください。
2022.3.27「夏の採卵が良い!?」
2020.5.14「☆秋から冬が最も妊娠しやすい!?」
2019.10.18「出生数の季節変動」
2018.1.11「Q&A1699 季節変動は?」
2015.9.19「宗教のルールによる出生数の増減」
2013.7.22「☆季節により妊娠率•流産率は違うか?」
2012.12.1「☆何月が妊娠しやすい?」