宗教のルールによる出生数の増減 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、宗教のルールにより出生数の増減がみられることを示しています。

Hum Reprod 2015; 30: 2202(ルーマニア)
要約:1905~2001年に出生した児を誕生日ごとにプロットし、宗教の違いで誕生日の偏りを調査しました。ルーマニアでは、11月12月1月の出産が少なく、毎月下旬の出産が少ない傾向があります。この傾向は、東方正教会派で顕著でした。東方正教会派では、断食期間の生活の制限が異なるLentとNativityがありますが、Lentでは断食期間の出生数が有意に低下しました。

解説:季節により出生数(妊娠率)が変動することが知られています。主に緯度、気候、日照時間が関与するとされていますが、経済的、社会的、宗教的要因(教育、人種、宗教)の関与も示唆されます。ルーマニアは、キリスト教の中で東方正教会が86%を占めます。正教会では、断食期間にある種の食べ物や飲み物を避ける習慣がありますが、同時に性行為を避けるべきとしています。このような背景のもとに本論文の検討が行なわれました。本論文は、季節性変動のみならず、宗教のルールにより出生数の増減がみられることを示しています。

正教会では、年に4回の断食期間があります。断食の期間は動物や魚の製品、オリーブ油(または全ての油)、ワイン、蒸留酒を断ちます。一方でタコや貝類などは禁止されていないため、正教徒が多い地中海地域ではこれらを使った料理が発達しています。断食は耐えるものではなく、自分の不節制を認識し、他人へ施すことで神により近づくための経験との位置づけです。なお、断食によって節約したお金は、チャリティーや貧しい方に与えられます。