黄体ホルモンは筋注と膣剤のどちらが良いか | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、黄体ホルモンは筋注と膣剤のどちらが良いかについての検討です。

 

Fertil Steril 2023; 119: 606(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.12.034

Fertil Steril 2023; 119: 616(イタリア)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.01.033

要約:2018〜2021年にホルモン補充周期で凍結胚盤胞移植を行った6905名を対象に、黄体ホルモン製剤を2群(筋注2289名、膣剤4616名)に分け、妊娠成績を後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

           筋注   膣剤   修正オッズ比(信頼区間) P値 

臨床妊娠率     60.0%   61.6%   1.07(0.96〜1.19)   NS

流産率       19.0% < 24.9%   1.40(1.19〜1.65)  <0.01

出産率       48.6% > 46.2%   0.89(0.81〜0.98)  0.02

NS=有意差なし

 

また、BMIを元にサブグループ解析結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

BMI<25       筋注   膣剤   修正オッズ比(信頼区間) P値 

臨床妊娠率     60.1%   60.7%   1.01(0.89〜1.14)   NS

流産率       17.1% < 23.7%   1.51(1.25〜1.83)  <0.01

出産率       49.8% > 46.3%   0.84(0.75〜0.95) <0.01

 

BMI≧25       筋注   膣剤   修正オッズ比(信頼区間) P値 

臨床妊娠率     59.9%   64.4%   1.21(0.96〜1.51)   NS

流産率       25.5%   28.6%   1.13(0.83〜1.54)   NS

出産率       44.6%   46.0%   1.06(0.86〜1.33)   NS

 

解説:ホルモン補充周期では黄体ホルモン製剤が必須です。しかし、黄体ホルモン製剤で筋注と膣剤のどちらが良いかについては賛否両論があります。本論文はこのような背景の元に行われた研究であり、BMI<25では筋注製剤が有意に良好であり、BMI≧25では膣剤がやや良好(有意差なし)であることを示しています。しかし、筋注製剤は、約1年前に、世界的に製造中止になってしまい、現在は使うことができません。なお、製造中止の原因は原料の枯渇ですので、製造再開することはありません。

 

コメントでは、後方視的検討であること、BMIのみをサブグループ解析に用いていることを指摘しています。その上で、ウエスト周囲径やウエストヒップ比も検討項目に加えた前方視的検討が望まれるとしてます。

 

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BMIについては、下記の記事を参照してください。

2023.3.29「☆PCOSにおけるBMIと体重減少の効果

2023.3.3「☆母体BMIと周産期予後:自然妊娠 vs. ART妊娠

2023.1.12「ART治療や母親の肥満とお子さんの健康状態の関連

2022.12.14「肥満マウスの食事療法で卵子の質が改善

2022.12.13「肥満で子宮内膜のタンパク質の発現パターンが変化

2022.12.12「肥満で卵胞液中のタンパク質の発現パターンが変化

2022.10.14「☆ライフスタイルによる体重減少の効果:メタアナリシス

2022.4.25「☆女性のBMIは異常胚とは無関係

2021.12.5「BMI増加で胚盤胞発生動態は?

2021.11.21「☆BMI高値で不育症リスクが増加!?

2021.9.28「BMI高値は受精卵の染色体異常とは無関係

2021.7.21「☆女性の肥満で流産率が増加

2021.5.5「女性のBMIは卵子に影響?着床に影響?