Q&A3590 1回目稽留流産→2回目化学流産→3回目陰性 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 妻27歳、生理不順、AMH年齢相応:夫34歳、乏精子症・精子無力症等あり

2020年9月~2021年8月 タイミング法→全て陰性
2021年9月~2021年12月 人工授精4回→全て陰性
2022年2月 採卵(高刺激)ルトラール、レコベル注射6mg→6個採取、顕微授精後、3日目胚1個+胚盤胞5個凍結(5AB×2、4BB、5BC×2)
2022年4月 凍結胚盤胞移植1回目(自費・ホルモン補充周期5AB)移植周期生理1日目からスプレキュア点鼻薬、ユベラ、バイアスピリン、プロギノーバ服用、移植日6日前からルトラール、ユベラ、バイアスピリン、プロギノーバ服用(移植当日からは+ダグチル)→低HCGから伸びるも、心拍確認後9週で稽留流産→流産手術(1回目は不要だろうと言われたので染色体検査には出していません)
2022年10月 凍結胚盤胞移植2回目(保険適用・ホルモン補充周期5AB)移植周期生理1日目からエストラーナテープ使用、移植日6日前からルトラール服用→化学流産
2022年12月 凍結胚盤胞移植3回目(保険適用・ホルモン補充周期4BB)2回目と同様→陰性
2022年1月 着床不全・不育症検査
      ◆ERA検査:着床の窓ズレなし
      ◆子宮内フローラ検査:異常なし(ラクトバチルス99.5%)
      ◆血液検査:PAP(ADP添加・コラーゲン添加)が8の為、妊娠判定後からバイアスピリン服用予定
      その他は特に異常なし
移植した胚盤胞は1~3回目全て孵化している状態のものです。1回目は自費での移植で薬の種類が豊富でしたが、2-3回目は保険適用で移植の為、使用できる薬が限られていました。

①松林先生のブログより、流産によって変化する可能性のある項目は「着床の窓のズレ」「慢性子宮内膜炎」だと知り、どちらかを疑っておりましたが、検査結果は異常なしでした。現在の病院では”子宮内フローラ検査で異常がなければ子宮内膜炎の心配はない”という考えのようですが、安心してもいいのでしょうか。
②1回目稽留流産→2回目化学流産→3回目陰性、と段々と成績が落ちています。不妊・不育は原因不明が大半だと承知しているのですが、上記の治療歴・検査結果から松林先生が想定される原因をどんな小さなことでもいいので教えていただけますと幸いです。
③他に現時点で受けておいた方がいい検査はありますか。1回目に9週まで育っていますが、免疫系の検査(個人、夫婦)も必要でしょうか。
④残りの卵は、5BC×2個と3日目胚です。3回中2回着床はしていることと生理周期が不安定なので次回もホルモン補充だとして、胚の数は今までと全く同じ1個移植で結果が出る気がせず、胚盤胞2個移植するか迷っています(2段階移植は、できれば保険移植残り3回が終わるまでは保留の予定です)。少しでも変化をつけるべきか、ただただ1個移植で数をこなすだけでも可能性は高いのか、松林先生ならどのように提案されますか。
⑤毎回テープで内膜の厚みをしっかり育てている(10mm以上)にも関わらず、ここ数ヶ月の生理が、1日ナプキン1枚で十分足りるほどの少量で日数も2~3日ほどで終わります。”移植時に内膜がちゃんと育っていれば気にする必要はない”と言われましたが、このような状態で本当に移植に影響はないのでしょうか。
⑥年齢的に今はPGT-Aは不要と言われたのですが、染色体異常率が高いのではないかと思ってしまっています。食生活は比較的気を付けていますが、私は普段の睡眠時間が平均5時間ほどで、夫はお酒好きで毎日缶ビール350mlを8~10本飲みます。無事にそこそこのグレードの胚盤胞まで育っていたとしても、卵子の質や精子の質の問題で染色体異常率がすごく高くなっている可能性もありますか。
⑦やはりこのまま結果が出なければ、保険での治療には限界を感じるのでリプロ大阪へ転院も視野に入れています。現在の経歴で転院した場合、リプロ大阪の自費診療だと、どのような検査・治療方法・薬剤等が有効だとお考えになりますか。

 

A 

①慢性子宮内膜炎は子宮内フローラ検査では確認できません。CD138細胞の検査(リプロダクションクリニックではBCE検査)をお勧めします。また、着床の窓のズレの診断精度がERA検査では不十分との論文が最近増えています。ERPeak検査をお勧めします。
②③私は預言者でも神でもありませんので、想定するのではなく、リプロダクションクリニックで実施している着床障害関連のオプション検査を全て網羅的に実施し、全ての対策を行なって移植するのがベストであると考えています。免疫系の検査というのが曲者で、もし夫婦HLAタイピング、MLCリンパ球混合培養試験、リンパ球クロスマッチ、遮断抗体、Th1/Th2検査のいずれかをお考えでしたら、一度全否定された検査であることを忘れないようにしていただきたいと思います。私が慶應義塾大学病院の不育症外来を担当していた約30年前、私もこれらの検査を実施しておりましたし論文も発表しました。しかし、夫リンパ球免疫療法が2002年に米国FDAで全面禁止となった際に夫リンパ球免疫療法の対象者を選別する検査として用いられていたこれら全ての検査が否定されました。
④これまでの経過と現在凍結中の胚のグレードから、私は胚盤胞2個移植をお勧めします。
⑤移植周期開始時に内膜がしっかり剥がれていること(<5.0mm)、移植時に内膜がちゃんと育っていること(≧7.0mm)が重要です。月経量は関係ありません。
⑥睡眠時間が5時間は短いです。最近の論文では睡眠と妊娠成績の関連を示すものが増えています。男性の飲酒についてはあまりデータがありません。染色体異常率を知るためにPGTは一度行なってみる価値はあると思います。
⑦現在の年齢でこの治療成績は(私も)納得できません。保険治療の限界とも考えられますので、(どのような検査治療)ではなく、リプロダクションクリニックの方法で一度治療してみることをお勧めします。

 

リプロダクションクリニックで実施しているオプション検査

卵子の改善策:25OHビタミンD、テストステロン、DHEAS採血

精子の改善策:精索静脈瘤を超音波で確認、精子DFI検査

着床障害〜不育対策:甲状腺、銅亜鉛、25OHビタミンD、HOMA-R、不育セット採血、慢性子宮内膜炎(BCE)、子宮収縮検査(エコー動画)、着床の窓(ERPeak)、子宮フローラ(ERBiome)

 

睡眠と妊娠については、下記の記事を参照してください。

2023.2.9「☆睡眠の質とARTの妊娠成績

2022.7.7「睡眠障害とART治療の妊娠成績

2020.8.12「☆シフト制勤務や夜更かしで精子数が減少

2019.6.25「不眠と不妊:女性の睡眠障害は良くない

2019.3.23「夜勤で閉経が早まる!?

2018.4.12「男性は毎日8時間睡眠がお勧め

2015.6.6「職業や健康状態と精液所見の関連

2014.3.7「☆親の睡眠障害による子どもの性機能への影響

 

アルコールと精子については、下記の記事を参照してください。

2017.1.9「☆「地中海型食生活」で精液所見が改善?

2013.4.30「精液所見に影響する社会•心理•生活習慣

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。