本論文は、ビタミンD低下と子宮内膜症に関するシステマティックレビューです。
F&S Rev 2023; 4: 1(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfnr.2022.11.005
要約:2022年3月までに発表されたビタミンD欠乏と子宮内膜症に関する29論文のシステマティックレビューを行いました。内訳は臨床研究13論文、基礎研究12論文、臨床+基礎4論文でした。8論文でビタミンD低下と子宮内膜症の有意な関連を示し、1論文のみがビタミンD増加と子宮内膜症の有意な関連を示していました。基礎研究では、ビタミンDは、細胞増殖、浸潤、劣化、炎症などの病態生理に関与することが報告されています。ここには、IL6、IL8、プロスタグランジン、MMPなどのサイトカインの関与やEGFR、MDGF、PDGFB、1α-OHase、CYP24A1などの遺伝子が関与しており、これらはビタミンDによって制御されています。しかし、ビタミンD投与により子宮内膜症の症状が改善するかに関しては明らかではありません。
解説:ビタミンDにはビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とビタミンD3(コレカルシフェロール)があり、前者はシイタケに、後者は魚の肝臓に含まれます。ヒトの身体では、紫外線(UVB)を浴びることでどちらも皮膚で合成されます。両者とも活性はなく、血中のビタミンD結合タンパク(VDBP)に結合して肝臓に運ばれ、チトクロームP450酵素(CYP27A1、CYP3A4、CYP2R1)によって25ヒドロキシビタミンD(カルシジオール、25OH-VitD)に変換されます。25OH-VitDとVDBPの結合体が血液を介して目的臓器に運ばれ、CYP27B1酵素によって1,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH)2VitD)に変換され初めて活性を持ちます。半減期が15日間と長いため、血中25OH-VitD濃度測定が、ビタミンDの多寡を表す良い指標になります。WHOではビタミンD不足を、25OH-VitD<20 ng/mLとしていますが、妊活中は30ng/mL以上が目標です。ビタミンDは核内のビタミンD受容体(VDR)に結合して働きますが、VDRにより調節されている遺伝子は200種類以上あり、骨とミネラル代謝のみならず、心血管疾患や免疫系や癌との関連が示唆されています。
2019.2.7「☆ビタミンDと生殖」でご紹介した論文では、ビタミンDの補充により、多嚢胞性卵巣(PCOS)、子宮筋腫、体外受精にはプラスに働くことを示していますが、子宮内膜症についてはプラスなのかマイナスなのかどちらとも言い難いと記載しました。本論文は、ビタミンD低下と子宮内膜症の有意な関連はほぼ間違いないものの、ビタミンDの補充により子宮内膜症の症状が改善するかに関しては何とも言えないとしています。
ビタミンDに関しては、下記の記事を参照してください。
2023.1.13「ビタミンD濃度と子宮筋腫:ランダム化試験」
2021.8.14「ビタミンD欠乏と月経前緊張症(PMS)の関連」
2021.6.7「☆ビタミンDと無症状の子宮筋腫の関係:横断研究」
2021.2.19「☆ビタミンDによる筋腫の治療:その3」
2020.4.29「☆ビタミンD強化策で出産率増加:デンマークモデル」
2020.4.9「生理周期によるビタミンDの変動は?」
2020.3.3「☆ビタミンDによる筋腫の治療」
2019.12.19「☆妊活前の25OHビタミンD濃度と妊孕性」
2019.3.9「☆ビタミンDによる子宮筋腫の治療効果」
2019.2.24「ビタミンDでTh1/Th2が改善する!?」
2019.2.9「ビタミンD補充のガイドライン」
2019.2.7「☆ビタミンDと生殖」
2018.11.14「ビタミンDと不育症」
2018.10.12「ビタミンDは卵巣予備脳とは無関係」
2018.2.25「ビタミンDによる胎盤形成作用の基礎的検討」
2018.1.20「ビタミンD濃度と体外受精の成功率の関係:メタアナリシス」
2017.10.20「ビタミンD不足と不妊の関係」
2017.8.20「健康な女性におけるビタミンDと妊娠の関係」
2017.8.18「ビタミンDの効能:妊娠免疫の観点から」
2017.3.20「ビタミンD製剤は、不育症治療に有用?」
2016.12.8「☆ビタミンDの卵胞発育促進作用」
2016.12.5「☆不育症とビタミンDの関係」
2016.12.4「☆ビタミンD製剤はいつ服用すればよいか」
2016.3.31「妊娠中のビタミンD大量投与」
2014.10.26「☆ビタミンD不足だと妊娠率が低下する」
2014.4.7「☆ビタミンD不足で着床障害になる?」
2014.3.17「☆ビタミンD欠乏は不育症のリスク因子です」
2013.2.25「白人ではビタミンD濃度が高いと体外受精の妊娠率がよい」
2012.12.10「ビタミンDの効用 妊娠•授乳編」
2012.12.8「☆ビタミンDの効用 女性編 」