本論文は、「地中海型食生活」で精液所見が良好になることを示しています。
Hum Reprod 2017; 32: 215(ギリシャ)
要約:2013〜2016年に不妊クリニックを訪れた夫婦のうち男性225名(26〜55歳)を対象に、食生活と精液所見の関連を横断調査しました。なお、51%が肥満であり、21%が喫煙者でした。食生活の調査は地中海型食事調査スコア(0〜55点)を用いて行い、スコアの上位1/3、中位1/3、下位1/3の3群間で比較しました。有意差の見られた項目(WHO基準の最低ラインを下回った頻度)は下記の通り。
地中海型食事調査スコア 0〜30 31〜36 37〜55
人数 76 83 66
精子濃度<1500万/mL 47.4% 21.7% 16.7%
総精子数<3900万 55.3% 32.5% 22.7%
運動率<40% 65.8% 36.1% 31.8%
直進運動精子率<32% 84.2% 74.7% 62.1%
正常形態精子率<4% 50.0% 33.7% 28.8%
交絡因子で補正したところ、地中海型食事調査スコアの上位1/3と比べ下位1/3では、精液所見の異常が2.6〜2.8倍となりました。
解説:欧米人の精液所見の悪化はこの40年で急速に進行しています。遺伝や内分泌などの古典的なリスク因子とは別にライフスタイル、特に食生活が重要であると考えられるようになってきました。他の原因と異なり食生活は直すことができるからです。フルーツ、野菜、鶏肉、魚、全粒粉の摂取増加により直進運動精子増加が報告され「賢明な食生活」と呼ばれています。同様に、フルーツ、野菜、魚、全粒粉の摂取増加により総精子数増加、精子DNA損傷低下、精子運動率増加が報告されており、これは「地中海型食生活」です。しかし「西洋型の食生活」は精液所見との関連を認めていません。また、地中海型食生活は、抗炎症作用と抗酸化作用があり、健康の維持に多くのメリットがあると報告されています。本研究は、あくまでも横断調査にすぎませんから、地中海型食生活に変えた場合の有効性を示しているわけではありません。
本論文の優れた点は、健康的な食生活であることが明らかにされている地中海型食生活のみにポイントを絞ったところです。通常の食事調査は、食事摂取頻度調査票(FFQ)を用い、食事の成分分析をするわけですが、様々な成分のどれに的を絞って良いかわからなくなり、分析結果がうまく出せないという欠点がありました。調査はしたけれども、何が何だかわからなくなるというわけです。
ここで「地中海型食事調査スコア」をご紹介しておきます。
スコア 0 1 2 3 4 5
全粒粉(回/週) 0 1〜6 7〜12 13〜18 19〜31 32〜
ポテト(回/週) 0 1〜4 5〜8 9〜12 13〜18 19〜
フルーツ(回/週) 0 1〜4 5〜8 9〜15 16〜21 22〜
野菜(回/週) 0 1〜6 7〜12 13〜20 21〜32 33〜
豆(回/週) 0 <1 1〜2 3〜4 5〜6 7〜
魚(回/週) 0 <1 1〜2 3〜4 5〜6 7〜
オリーブオイル(回/週) 0 稀 〜1 1〜2 3〜5 毎日
赤みの肉(回/週) 11〜 8〜10 6〜7 4〜5 2〜3 〜1
鶏肉(回/週) 11〜 9〜10 7〜8 5〜6 4〜5 〜3
牛乳チーズヨーグルト(回/週) 31〜 29〜30 21〜28 16〜20 11〜15 〜10
アルコール(g/日) 0 or 84〜 72 60 48 36 1〜35
*アルコール量(g)=アルコール度数 x 飲酒量(mL)x 0.8
2013.2.25「☆妊娠を目指している方のアルコールは?」を参照してください。