☆妊娠方法の違いによる早産リスク | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、妊娠方法の違いによる早産リスクを国家規模で調査したものです。

 

Fertil Steril 2022; 118: 926(カナダ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.07.028

Fertil Steril 2022; 118: 936(イタリア)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.09.017

要約:2006〜2014年にカナダ、オンタリオ州で出産した単胎妊娠732,810名を対象に、妊娠方法の違いによる早産リスクを後方視的に検討しました。内訳は、自然妊娠646,926名(88.3%)、不妊症だが無治療で妊娠した68,822名(9.4%)、人工授精あるいは排卵誘発剤で妊娠した9,024名(1.2%)、体外受精あるいは顕微授精で妊娠した8,038名(1.1%)。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

早産<37週          オッズ比(信頼区間)

自然妊娠             1.00(基準)

不妊症だが無治療        1.16(1.13〜1.20)

人工授精あるいは排卵誘発剤   1.27(1.17〜1.36)

体外受精あるいは顕微授精    1.63(1.52〜1.75)

 

自然な早産*<37週       オッズ比(信頼区間)

自然妊娠             1.00(基準)

不妊症だが無治療        1.15(1.10〜1.19)

人工授精あるいは排卵誘発剤   1.19(1.09〜1.31)

体外受精あるいは顕微授精    1.40(1.27〜1.53)

*自然な早産=自然な陣痛や破水による早産

 

医学的な早産'<37週      オッズ比(信頼区間)

自然妊娠             1.00(基準)

不妊症だが無治療        1.23(1.16〜1.31)

人工授精あるいは排卵誘発剤   1.48(1.29〜1.69)

体外受精あるいは顕微授精    2.35(2.09〜2.64)

'医学的な早産=母子いずれかの適応による陣痛誘発や帝王切開

 

早産<34週          オッズ比(信頼区間)

自然妊娠             1.00(基準)

不妊症だが無治療        1.32(1.23〜1.41)

人工授精あるいは排卵誘発剤   1.53(1.32〜1.77)

体外受精あるいは顕微授精    2.17(1.90〜2.49)

 

解説:早産は多くの因子が関与するものであり、妊娠方法の違いによる早産リスクについては、これまでも多くの研究が実施されてきました。本論文は、妊娠方法の違いによる早産リスクを国家規模で調査したものであり、自然妊娠<不妊症だが無治療<人工授精あるいは排卵誘発剤<体外受精あるいは顕微授精の順に早産(37週未満、34週未満ともに)リスクが増加することを示しています。興味深いのは、自然な早産ではリスクの差は小さいですが、医学的な早産ではリスクの差が大きくなっています。

 

コメントでは、本論文は過去の論文と比べ真新しい部分はないとしながらも、過去最大規模の症例数による検討であることを称賛しています。

 

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