本論文は、不妊治療やART治療(体外受精、顕微授精)による母子合併症を検討したものです。
F&S Rev 2022; 3: 242(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfnr.2022.06.003
要約:不妊治療やART治療(体外受精、顕微授精)による単胎妊娠における母子合併症について、MOSART(Massachusetts Outcome Study of Assisted Reproductive Technology)データを基に検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
全症例 不妊治療 ART治療
非不妊群と比較 非不妊群と比較 不妊治療群と比較
早産<37週 1.24(1.12〜1.38) 1.53(1.40〜1.67) 1.23(1.08〜1.41)
低体重<2500g 1.20(1.06〜1.36) 1.51(1.37〜1.67) 1.26(1.08〜1.47)
SGA 0.95(0.85〜1.06) 1.05(0.96〜1.16) 1.10(0.96〜1.27)
*SGA=Small‐for‐Gestational Age(在胎不当過小児)
NICU入院症例 不妊治療 ART治療
非不妊群と比較 非不妊群と比較 不妊治療群と比較
早産<37週 1.39(1.26〜1.54) 1.72(1.60〜1.85) 1.23(1.09〜1.40)
感染症 1.07(0.83〜1.39) 1.21(1.00〜1.45) 1.12(0.82〜1.53)
呼吸器疾患 1.12(1.02〜1.24) 1.18(1.09〜1.27) 1.05(0.93〜1.18)
消化器疾患 1.18(1.01〜1.38) 1.15(1.03〜1.29) 0.97(0.81〜1.17)
心血管疾患 1.19(0.98〜1.45) 1.07(0.92〜1.25) 0.90(0.70〜1.15)
神経疾患 1.04(0.89〜1.21) 0.96(0.85〜1.08) 0.92(0.76〜1.12)
血液疾患 1.10(0.95〜1.27) 1.04(0.93〜1.16) 0.94(0.79〜1.12)
新生児死亡 1.23(0.67〜2.25) 0.98(0.61〜1.57) 0.80(0.38〜1.67)
染色体異常 1.21(0.79〜1.85) 0.62(0.41〜0.96) 0.52(0.29〜0.92)
卵管因子ありでART治療 非不妊群と比較 不妊治療群と比較
妊娠高血圧 0.84(0.67〜1.06) 0.83(0.61〜1.13)
子癇・妊娠高血圧腎症 1.23(0.97〜1.57) 0.98(0.70〜1.38)
妊娠糖尿病 1.37(1.16〜1.63) 1.19(0.89〜1.59)
胎盤の異常・問題 2.38(1.86〜3.04) 1.72(1.18〜2.51)
低体重<2500g 1.51(1.21〜1.89) 1.61(1.13〜2.31)
早産<37週 1.69(1.38〜2.05) 1.37(1.02〜1.83)
PCOSありでART治療 非不妊群と比較 不妊治療群と比較
妊娠高血圧 1.50(1.28〜1.75) 1.36(1.12〜1.65)
子癇・妊娠高血圧腎症 1.53(1.25〜1.88) 1.17(0.91〜1.51)
妊娠糖尿病 1.62(1.39〜1.89) 0.99(0.83〜1.19)
胎盤の異常・問題 1.59(1.19〜2.12) 1.49(1.02〜2.17)
低体重<2500g 1.70(1.38〜2.09) 1.20(0.93〜1.54)
早産<37週 1.86(1.55〜2.23) 1.40(1.12〜1.76)
内膜症ありでART治療 非不妊群と比較 不妊治療群と比較
妊娠高血圧 1.44(1.13〜1.83) 1.39(1.00〜1.92)
子癇・妊娠高血圧腎症 1.64(1.24〜2.17) 1.32(0.90〜1.95)
妊娠糖尿病 1.11(0.85〜1.45) 1.18(0.84〜1.64)
胎盤の異常・問題 3.42(2.64〜4.44) 2.86(1.79〜4.58)
低体重<2500g 1.33(0.97〜1.83) 1.01(0.67〜1.53)
早産<37週 1.75(1.35〜2.25) 1.37(0.98〜1.93)
解説:本論文は、不妊治療やART治療(体外受精、顕微授精)による母子合併症をMOSARTデータを基に検討したものです。全症例でみると、早産(<37週)と低体重児(<2500g)が、非不妊群<不妊治療群<ART治療群の順番に増加することを示しています。しかし、NOCU入院症例では原因疾患に一定の傾向がなく、母体の不妊原因別の調査では母体妊娠合併症に一定の傾向はありません。マサチューセッツ州のビッグデータを基にした貴重な報告だと思います。