体外受精のお子さんの神経学的長期予後 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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体外受精により、これまでに世界で600万人のお子さんが誕生していますが、体外受精の歴史は35年に過ぎません。本論文は、体外受精により出生したお子さんの神経学的長期予後をメタアナリシスにより検討したところ、現在のところ大きな問題はないことを示しています。

Fertil Steril 2013; 100: 844(デンマーク)
要約:体外受精により出生したお子さんについて記した80論文から2,446,044名について、神経学的長期予後(認知、行動、感情、精神運動発達、精神神経疾患)をメタアナリシスにより検討しました。論文抽出の際には、ニューカッスル•オタワスケール(0~9点)を用い、7点以上の論文をハイクオリティーな論文とし、それについて解析しました。新生児では、精神運動発達に異常はありませんが、認知行動に問題ありとする論文がごく少数ありました。幼児では、問題は認められていません。小児では、ほぼ問題ありませんが、この年代まで経過をみた論文が非常に少なくなっています。10代の子供での検討は、さらに論文が少なく結論を導きだすことができません。全体として、現状では、体外受精により出生したお子さんの神経学的長期予後には大きな問題はありません。

解説:体外受精では、エピゲネティクス変化によるインプリンティング異常、培養液、卵巣刺激、顕微授精、多胎妊娠、そもそも妊娠しにくいことなどによるお子さんへの影響が懸念されてきました。しかし、長期予後の検討はほとんどなされておらず、いまだに結論は出ていません。本論文は、体外受精により出生したお子さんの神経学的長期予後には大きな問題はないとしていますが、これは最終結論ではありません。長期予後については、今後の更なる検討が必要です。