本論文は、妊娠方法による周産期予後(合併症)の違いについて、同一女性でのART妊娠と自然妊娠の比較を行ったものです。
Fertil Steril 2021; 115: 940(イスラエル)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.060
Fertil Steril 2021; 115: 884(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.01.022
要約:2008〜2020年にART妊娠(体外受精、顕微授精)と自然妊娠の両方で単胎出産した532名(520名はART妊娠と自然妊娠が1回ずつ、12名はART妊娠と自然妊娠が2回ずつ)の周産期予後を後方視的に検討しました。結果は下記の通り。
ART妊娠 自然妊娠 P値
年齢 32.7歳 29.7歳 <0.001
BMI 24.2 24.1 NS
既往妊娠 2.6回 2.3回 <0.001
既往出産 0.9回 0.9回 NS
出産週数 38.7週 38.9週 NS
早産 9.2% 7.0% NS
妊娠高血圧腎症 1.3% 1.1% NS
妊娠糖尿病 7.9% 5.9% NS
前置胎盤 0.9% 0.7% NS
常位胎盤早期剥離 1.8% 0.7% NS
帝王切開 21.5% 22.4% NS
出生児体重 3164g 3213g 0.04
SGA 7.4% 7.9% NS
NS=有意差なし、SGA=在胎不当過小児(small-for-gestational-age)
自然妊娠→ART妊娠が53.7%、ART妊娠→自然妊娠が46.3%であったため、年齢と既往妊娠に有意差を認めています。
解説:ART妊娠では、早産、SGA、妊娠高血圧腎症(妊娠中毒症)のリスクが高くなるとされていました。これは、ART治療そのものによるものなのか、ART治療を行う個人の特性によるものなのか明らかではありませんでした。
本論文は、妊娠方法による周産期予後の違いについて、同一女性でのART妊娠と自然妊娠の比較を行ったものであり、これらの周産期予後(合併症)に相違を認めていません。従って、ART治療そのものによるものではなく、ART治療を行う個人の特性によるものであると推察されます。ただし、結論を導くには、前方視的検討が必要です。
コメントでは、対象者の30%が男性因子であり母集団に偏りがあること、自然妊娠とART妊娠の相手の男性が異なる可能性があるが不明であること、妊娠高血圧腎症、前置胎盤、常位胎盤早期剥離の件数が少ないため統計学的なパワーが不十分であることを指摘しています。
下記の記事を参照してください。
2021.4.7「☆妊娠歴のある卵管不妊と不妊症女性のART妊娠予後は?」
2021.3.19「☆妊娠方法の違いによる赤ちゃんの異常は?」
2021.3.18「☆妊娠方法の違いによる赤ちゃんの体重は?」
2020.7.14「ART治療とお子さんの知能」
2020.4.13「顕微授精のお子さんの学業成績は?」
2020.2.10「母体年齢と早産および低体重児の関係:妊娠方法による違い」
2019.12.27「卵巣刺激およびARTのお子さんの予後調査:生後9年追跡調査」
2019.8.5「体外受精による出生児の健康調査:生後22〜35年調査」
2019.7.18「妊娠方法による妊娠予後の違い:MOSARTスタディ」
2019.7.18「☆妊娠治療の有無によるお子さんの認知、運動、言語機能の違いは?」
2019.5.28「極低出生体重児の妊娠方法による違いは?」
2019.4.3「妊娠方法による胎盤遺伝子発現の違いは?」
2019.2.25「☆早産児の神経学的発達遅延は体外受精で多いのか?」
2017.7.21「体外受精による出生児の認知発達機能:生後11年調査」
2016.8.27「妊娠方法によるふたご妊娠のリスクの違い」
2013.11.20「体外受精のお子さんの神経学的長期予後」