本論文は、ART治療とお子さんの知能に関する大規模な調査を実施したものです。
Fertil Steril 2020; 113: 1242(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.01.015
Fertil Steril 2020; 113: 1160(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.03.001
要約:2012〜2018年に小学校3年生のお子さんの知能(国語、算数)を調査し、ART治療6,970名(体外受精+顕微授精)と妊娠治療なし12,690名で違いがあるか否か後方視的に検討しました。ただし、生活困窮者の家庭と特殊学級の生徒は除外しました。単胎妊娠における結果は下記の通り。
国語 算数
全症例 妊娠治療なし < ART治療 妊娠治療なし < ART治療
人種 白人 < アジア人 白人 < アジア人
白人 > 黒人 白人 > 黒人
白人 > ヒスパニック 白人 > ヒスパニック
母親年齢 18〜29歳 < 30〜34歳 18〜29歳 < 30〜34歳
18〜29歳 < 35〜39歳 18〜29歳 < 35〜39歳
18〜29歳 < 40歳以上 18〜29歳 < 40歳以上
妊娠期間 満期 = 早産 満期 > 早産
性別 男児 < 女児 男児 > 女児
解説:過去に報告されたART治療とお子さんの知能に関する研究は、サンプル数が少ない、あるいはバイアスがあるため結論が得られていませんでした。小学校3年生の成績はその後の教育レベルの予測に重要な時期であると考えられています。このような背景の元に過去最大規模の本論文の研究が行われ、ART治療はお子さんの知能にマイナスに作用することはない(むしろプラス効果がある)ことを示しています。
コメントでは、生活困窮者の家庭と特殊学級の生徒は除外していることに注目し(どちらも妊娠治療なしの人数が多くなっています)、生活困窮者の生徒の成績は両者で差がなく、特殊学級の生徒の成績は妊娠治療なしで良くなっています。つまり、これらの方を加えて検討し直す必要があるとしています。さらに、高校〜大学〜社会人といった長いスパンでの検討も必要です。
下記の記事を参照してください。
2019.12.27「卵巣刺激およびARTのお子さんの予後調査:生後9年追跡調査」
2019.8.5「体外受精による出生児の健康調査:生後22〜35年調査」
2019.7.18「妊娠方法による妊娠予後の違い:MOSARTスタディ」
2019.7.18「☆妊娠治療の有無によるお子さんの認知、運動、言語機能の違いは?」
2017.7.21「体外受精による出生児の認知発達機能:生後11年調査」
2013.11.20「体外受精のお子さんの神経学的長期予後」