帝王切開瘢痕部を修復すべきか:メタアナリシス | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、帝王切開瘢痕部を修復すべきか否かに関するメタアナリシスです。

 

F&S Rev 2022; 3: 174(オランダ)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfnr.2022.05.003

要約:2021年7月までに発表された、帝王切開瘢痕部の手術治療と妊娠予後に関する21論文3825名メタアナリシスを行いました。内訳は、ランダム化試験1論文、前方視研究5論文、後方視研究14論文、症例報告1論文で、不妊症患者を対象とした16論文648名と不妊症でない患者を対象とした5論文237名それぞれで評価しました。なお、手術方法は、子宮鏡手術14論文、経膣手術7論文、腹腔鏡手術7論文、開腹手術2論文でした。術式による出産率は下記の通り。

 

出産率    不妊症でない患者   不妊症患者

子宮鏡手術    52%        55%

経膣手術     25%        60%

腹腔鏡手術    36%        42%

手術全体     36%        54%

 

唯一のランダム化試験は、不妊症患者における子宮鏡手術で2.41倍有意な妊娠率改善効果を認めました(対照群は無処置)が、その他の項目では有意差を認めませんでした。また、帝王切開瘢痕部妊娠が0.97%に生じ、子宮鏡手術の2.8%創部離開創部破裂を認めましたが、他の手術方法では創部離開や創部破裂を認めませんでした。

 

解説:帝王切開瘢痕部が存在する場合に、手術をすべきか否かに一致した見解はありません。本論文は、帝王切開瘢痕部を修復すべきか否かに関するメタアナリシスであり、不妊症でない患者では術後の妊娠成績は不良で、不妊症患者においても出産率は54%に過ぎないことを示しています。本論文の著者は、現在のデータから手術治療を積極的に勧めるほどの根拠はないとしています。大規模な研究と長期的な予後の確認も必要です。

 

帝王切開瘢痕部妊娠については、下記の記事を参照してください。

2022.8.23「タイプ2帝王切開瘢痕部妊娠の治療方法による違い

2022.6.28「帝王切開瘢痕部子宮内膜症:ビデオ論文

2022.6.3「帝王切開瘢痕部妊娠の腹腔鏡手術:ビデオ論文

2022.3.30「帝王切開瘢痕部妊娠の治療:ビデオ論文

2021.12.28「帝王切開瘢痕部妊娠の治療法

2020.8.10「帝王切開瘢痕部と妊孕性に関する仮説

2019.5.4「帝王切開瘢痕部の膣式手術による修復

2019.4.5「帝王切開瘢痕部の単孔腹腔鏡による修復手術

2018.8.14「子宮鏡手術による帝王切開瘢痕部修復

2017.2.24「腹腔鏡による帝王切開瘢痕欠損部修復

2016.4.28「帝王切開瘢痕部妊娠(CSP)の治療
2014.10.4「反復する帝王切開瘢痕部妊娠のリスク因子」
2013.6.23「☆帝王切開の傷の影響」