帝王切開瘢痕部妊娠の治療法 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、帝王切開瘢痕部妊娠の治療法に関する後方視的検討です。

 

Fertil Steril 2021; 116: 1559(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.06.015

Fertil Steril 2021; 116: 1567(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.09.034

要約:2013〜2018年に中国の一つの施設で診断された帝王切開瘢痕部妊娠439件後方視的に検討しました。当該施設では10年来、子宮鏡手術を中心とした治療を実施しています。治療法を次の3つに分類しました。

A 子宮鏡+D&C
B MTX全身投与+子宮鏡+D&C

C UAE(腹腔鏡)による子宮動脈塞栓(結紮)+子宮鏡+D&C

子宮鏡+D&Cの実施法は、まず子宮鏡により妊娠部位を確認し、頸管拡張後に妊娠成分を吸引除去するものです。最後に子宮鏡で組織残存がないことを確認します。電気凝固あるいはFoleyカテーテルなどで圧迫止血を行います。

 

帝王切開瘢痕部妊娠の分類で、タイプ1が338名(77.0%)、タイプ2が84名(19.1%)、タイプ3が17名(3.9%)おられました。タイプ1と比べ、タイプ2+3で有意に高い項目は、既往出産数、既往帝王切開数、最後の帝王切開後の既往D&C数でした。また、タイプ1では単一治療(治療Aのみ)、タイプ2+3では複合治療(治療Bや治療C)が必要でした。なお、治療による合併症は8.2%、治療成功率は93.6%です。その後、37名が妊娠され、22名(59%が出産されましたが、子宮破裂はありませんでした。また、再び帝王切開瘢痕部妊娠となった方は4名(11%)でした。

 

解説:帝王切開瘢痕部妊娠は近年増加傾向にあり、この20年で1.5〜2.5倍に増加し、異所性妊娠(子宮外妊娠)の6%を占めます。帝王切開率の増加と超音波による診断精度の向上がその背景にあります。診断自体は難しくありませんが、治療法について世界的に一致したコンセンサスは得られていません。症例数の多い中国では、2016年に帝王切開瘢痕部妊娠の分類を作成しました。

タイプ1 GSと残りの筋層>3.0mm

タイプ2 GSと残りの筋層=<3.0mm

タイプ3 GSと残りの筋層=<3.0mm、GSの外側への突出血管豊富な腫瘤形成

 

本論文は、帝王切開瘢痕部妊娠の治療法に関する後方視的検討を実施したものであり、子宮鏡を用いた吸引除去治療が有効であることを示しています。帝王切開瘢痕部妊娠にどの治療法が良いかについては、今後の前方視的検討や長期的検討を待たねばなりません。

 

コメントでは、帝王切開瘢痕部妊娠後に妊娠を目指した方が少ないことを指摘しており、ドクターストップなのか患者さんの不安によるものなのか調査することは意味があることだとしています。また、止血処置では電気凝固は可能な限り使用しないことが望ましく(特にタイプ2+3)、このため妊娠前の帝王切開瘢痕部の筋層が3mm未満の場合には子宮鏡を用いた治療は推奨されないとしています。

 

帝王切開瘢痕部については、下記の記事を参照してください。

2020.8.10「帝王切開瘢痕部と妊孕性に関する仮説

2019.5.4「帝王切開瘢痕部の膣式手術による修復

2019.4.5「帝王切開瘢痕部の単孔腹腔鏡による修復手術

2018.8.14「子宮鏡手術による帝王切開瘢痕部修復

2017.2.24「腹腔鏡による帝王切開瘢痕欠損部修復

2016.4.28「帝王切開瘢痕部妊娠(CSP)の治療
2014.10.4「反復する帝王切開瘢痕部妊娠のリスク因子」
2013.6.23「☆帝王切開の傷の影響」