自己卵子での男性年齢の影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、自己卵子での男性年齢の影響を検討した全米のデータです。

 

Fertil Steril 2021; 116: 380(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.03.033

要約:2017年米国ARTデータ(SART)の自己卵子採卵77,209周期を対象に、妊娠成績と男性年齢(46歳未満と46歳以上)の関係を後方視的に検討しました(女性平均年齢35.5歳、男性平均年齢37.8歳)。結果は下記の通り(有意差ありを赤字表示)。

 

男性年齢    46歳未満   46歳以上   修正オッズ比(信頼区間)

 採卵あたり                  46歳以上/46歳未満

臨床妊娠率    17.3%    9.8%     0.81(0.76〜0.87)

出産率      14.0%    7.1%     0.78(0.72〜0.84)

 

 移植あたり                  46歳以上/46歳未満

臨床妊娠率    46.2%    31.5%     0.85(0.81〜0.90)

出産率      37.6%    23.0%     0.82(0.77〜0.88)

 

サブグループ解析で、女性年齢が35歳以上の場合には上記の有意差を認めますが、女性年齢が35歳未満の場合には上記の有意差が消失しました。

 

解説:本論文は、自己卵子での男性年齢の影響を検討した全米データであり、男性年齢46歳未満と比べ、46歳以上で臨床妊娠率および出産率に有意な低下を認めましたが、女性年齢が35歳以上の場合に限る現象であり、女性年齢が35歳未満では有意差を認めなかったことを示しています。つまり、男性の加齢による妊孕性低下(おそらくDNA損傷)は、若い女性の卵子でカバーされる(おそらくDNA修復)ことを示唆します。

 

男性の加齢については、下記の記事を参照してください。

2021.9.23「ドナー卵子での男性年齢の影響

2021.4.29「ドナー卵子を用いて精子の影響を検討

2021.1.13「☆男性年齢のART成績への影響:メタアナリシス

2020.11.3「☆男性の加齢と活性酸素増加と精子DNA損傷増加の関連

2020.9.10「☆男性の加齢は受精卵の染色体異常とは無関係

2020.9.9「☆男性の加齢による精子DNA損傷

2019.6.9「☆不妊原因と子供の健康について その1:夫婦の年齢
2015.10.21「☆男性の加齢が生殖に与える影響

2015.6.28「☆男性の加齢に伴うお子さんの異常や疾患
2014.11.11「男性の加齢による影響は?」
2014.5.30「父親の年齢は子どもの精子に影響するか」
2014.2.12「父親が高齢になると子どもの精子のテロメアが長くなる」

2014.1.13「☆男性の加齢→大きな胎盤→妊娠中のトラブル増加