ドナー卵子での男性年齢の影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、ドナー卵子を用いて男性年齢の影響を検討したものです。

 

Fertil Steril 2021; 116: 373(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.03.037

Fertil Steril 2021; 116: 337(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.06.031

要約:2010〜2016年ドナー卵子の採卵を行い、一人のドナーからの卵子を用いて、2人の男性(男性年齢が、45歳未満と45歳以上)の精子で得られた受精卵をそれぞれの妻に移植し、妊娠成績を後方視的に検討しました(各群77名、paired sibling oocyte study)。結果は下記の通り(有意差ありを赤字表示)。

 

男性年齢      45歳未満     45歳以上     P値

ドナー平均年齢    27.0歳      27.0歳     〜

男性平均年齢     41.0歳      48.0歳    <0.001

移植女性平均年齢   43.0歳      44.0歳     NS

臨床妊娠率    80.5%(62/77) 68.8%(53/77) 0.02

出産率      64.9%(50/77) 53.2%(41/77)  NS

流産率      19.4%(12/62) 22.6%(12/53)  NS

*NS=有意差なし

 

種々の交絡因子で補正したところ、男性年齢45歳未満と比べ、45歳以上で臨床妊娠率0.35倍(信頼区間0.13〜0.95)に有意に低下していました。しかし、出産率や流産率には有意差を認めませんでした。

 

解説:本論文は、ドナー卵子を用いて男性年齢の影響を検討(paired sibling oocyte study)したものであり、男性年齢45歳未満と比べ、45歳以上で臨床妊娠率に有意な低下を認めましたが、出産率や流産率には有意差を認めなかったことを示しています。

 

コメントでは、受精卵の質や正常率についての記載がないこと、症例数が少ないことを挙げていますが、初めてのpaired sibling oocyte studyであることを高く評価しています。

 

男性の加齢については、下記の記事を参照してください。

2021.4.29「ドナー卵子を用いて精子の影響を検討

2021.1.13「☆男性年齢のART成績への影響:メタアナリシス

2020.11.3「☆男性の加齢と活性酸素増加と精子DNA損傷増加の関連

2020.9.10「☆男性の加齢は受精卵の染色体異常とは無関係

2020.9.9「☆男性の加齢による精子DNA損傷

2019.6.9「☆不妊原因と子供の健康について その1:夫婦の年齢
2015.10.21「☆男性の加齢が生殖に与える影響

2015.6.28「☆男性の加齢に伴うお子さんの異常や疾患
2014.11.11「男性の加齢による影響は?」
2014.5.30「父親の年齢は子どもの精子に影響するか」
2014.2.12「父親が高齢になると子どもの精子のテロメアが長くなる」

2014.1.13「☆男性の加齢→大きな胎盤→妊娠中のトラブル増加