☆男性の加齢は受精卵の染色体異常とは無関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、男性の加齢は受精卵の染色体異常とは無関係であることを示しています。

 

Fertil Steril 2020; 114: 293(カナダ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.03.034

Fertil Steril 2020; 114: 259(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.04.033

要約:2017〜2018年ドナー卵子(平均年齢26歳)を用いた顕微授精を実施し、受精卵の染色体異常頻度と男性の年齢(〜39歳、40〜49歳、50歳〜)との関連を後方視的に検討しました。なお、高度男性不妊、TESE、染色体転座の方は除外しました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

男性年齢      〜39歳   40〜49歳   50歳〜   P

周期数       221周期   173周期   43周期   〜

受精率       78.9%    80.1%    76.4%  <0.001

胚盤胞率      52.0%    53.0%    55.5%   NS

正常胚率      69.2%    70.5%    72.4%   NS

異常胚率      14.7%    12.8%    13.9%   NS

モザイク胚率    16.1%    16.6%    13.6%   NS

単一染色体異常   64.1%    58.1%    56.1%   NS

複数染色体異常   16.5%    14.2%     7.3%   NS

segmental mosaic 19.4%    27.7%    36.6%  0.047

*NS=有意差なし

 

各種交絡因子を除外すると、異常胚率に寄与する因子は、卵子ドナーの年齢のみでした。

 

解説:女性の加齢により受精卵の染色体異常が増加することは明らかですが、男性の加齢による受精卵の染色体異常については明らかにされていませんでした。本論文は、男性の年齢は受精卵の染色体異常とは無関係であることをドナー卵子を用いて示しています。2020.9.9「☆男性の加齢による精子DNA損傷」でご紹介した論文では、男性の加齢により精子DNA損傷が生じることを示していますが、実際にはそれらの精子は受精しないか何らかの形で淘汰されるものと考えられます。

 

コメントでは、ドナー卵子を用いることにより、女性関連因子を完全に排除した非常にエレガントな研究であり、大変重要な情報を提供していると絶賛しています。受精率については臨床的には問題にはならず、segmental mosaicについては、おそらく精子のDNA損傷の程度に関連するのではないかとしています。後者については今後の検討が必要です。また、男性の加齢は受精卵の染色体異常とは無関係ということとは別に、Apert症候群や軟骨形成不全症など男性の加齢により増加する疾患もあるという注意喚起をしています。

 

男性の加齢については、下記の記事を参照してください。

2020.9.9「☆男性の加齢による精子DNA損傷

2019.6.9「☆不妊原因と子供の健康について その1:夫婦の年齢
2015.10.21「☆男性の加齢が生殖に与える影響

2015.6.28「☆男性の加齢に伴うお子さんの異常や疾患
2014.11.11「男性の加齢による影響は?」
2014.5.30「父親の年齢は子どもの精子に影響するか」
2014.2.12「父親が高齢になると子どもの精子のテロメアが長くなる」

2014.1.13「☆男性の加齢→大きな胎盤→妊娠中のトラブル増加