ドナー卵子を用いて精子の影響を検討 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ドナー卵子を用いて精子の影響を検討したものです。

 

Fertil Steril Rep 2021; 2: 22(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2020.10.012

要約:2008〜2015年ドナー卵子(30歳以下)による採卵を実施し受精(顕微授精)させた際の培養成績と妊娠成績を精液所見の違いにより後方視的に検討しました。384名のドナーから574周期の採卵を行い、205組の夫婦275周期を対象としました。卵子ドナーの平均年齢は25.3歳、男性の平均年齢は43.3歳であり、精液所見では平均精子濃度5580万/mL、平均運動率44.8%、平均正常形態率6.9%でした。男性年齢も精液所見も胚盤胞のグレードとの有意な関連を認めませんでしたが、総運動精子数が低い場合に3日目分割胚の分割数が有意に多く、割球の不均等率が有意に高くなっていました。また臨床妊娠率と出産率には有意差を認めませんでした。

 

解説:本論文は、ドナー卵子を用いて精子の影響を検討したものであり、精液所見による影響はほとんど認められないことを示しています。本論文の著者は、顕微授精を実施すれば、精液所見の低下による悪影響は軽減されるとしています。

 

採卵後3日目までは卵子の要因が、それ以降は精子と卵子の要因が関与していることが知られています。これは、顕微授精の針のみを卵子に出し入れしても3日目までは普通に発育する事実があるためです。本論文では、3日目に若干精子の影響が出ていますが、胚盤胞では精子の影響が出ていませんので、過去の理屈とは少し違っています。もちろん、ドナー卵子側にもばらつきがありますので一概には言えませんが、若い卵子が老化した精子の悪影響を相殺するという考えは保たれます。

 

男性の加齢については、下記の記事を参照してください。

2021.1.13「☆男性年齢のART成績への影響:メタアナリシス

2020.11.3「☆男性の加齢と活性酸素増加と精子DNA損傷増加の関連

2020.9.10「☆男性の加齢は受精卵の染色体異常とは無関係

2020.9.9「☆男性の加齢による精子DNA損傷

2019.6.9「☆不妊原因と子供の健康について その1:夫婦の年齢
2015.10.21「☆男性の加齢が生殖に与える影響

2015.6.28「☆男性の加齢に伴うお子さんの異常や疾患
2014.11.11「男性の加齢による影響は?」
2014.5.30「父親の年齢は子どもの精子に影響するか」
2014.2.12「父親が高齢になると子どもの精子のテロメアが長くなる」

2014.1.13「☆男性の加齢→大きな胎盤→妊娠中のトラブル増加