Dr. Mの診療録 その16:妊娠らしからぬ基礎体温に要注意 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

 不妊症の患者さんは基礎体温をつける習慣ができているため、救急外来にも基礎体温を持っていらっしゃる。その患者さんは、腹痛と少量の性器出血があるということでいらした。診察すると、お腹に大量に出血している。子宮と卵巣には何もない。基礎体温は低温期から高温期にゆっくり移行中で、通常は排卵期直後に相当する。妊娠しているはずがない時期である。1ヶ月前に体外受精を行っていたが、妊娠判定が陰性で月経がきてしまい、その月は不妊治療を一切行っていなかった。いずれにしても緊急手術が必要であり、手術を行ってみると、果たして、卵管妊娠の破裂であった。

 この件から基礎体温に注意していると、体外受精の後に妊娠判定が陰性で、その後1週間程で低温が上昇に転じた後の妊娠は全て子宮外妊娠であるという症例を何件か経験した。体外受精の胚に遅延着床が生じているのであるが、単なる遅延着床ではなく、浮遊していた胚が月経により流され卵管に着床するという考え方である。この考え方は、誰も証明できていないが、そうとしか考えようがないのである。先輩医師から「女性を診たら妊娠と思え」と若い頃教えられるが、患者さんのいう「絶対妊娠していません」が信用できないだけではなく、「基礎体温に騙されるな」という新たな教訓を学んだのである。

 

本件に関しては、私が医師になって5年目に下記の論文を発表しています。

「特異な経過をたどった子宮外妊娠の2例」日本産科婦人科学会東京地方部会会誌 1993; 42: 5-8

 

Dr. Mの診療録シリーズは下記の記事をご覧ください。

2019.2.1「Dr. Mの診療録 その15:突然死の連絡

2018.12.1「Dr. Mの診療録 その14:兄弟&姉妹のカップル

2018.11.1「Dr. Mの診療録 その13:妊娠中の性交渉にご用心

2018.2.1「Dr.Mの診療録:占いを信じる? パート2

2017.12.1「Dr.Mの診療録:「癌なら手術を受けません」

2017.11.1「Dr.Mの診療録:卵巣癌の皮膚転移とのイタチごっこ

2017.10.1「Dr.Mの診療録:舶来の新薬

2017.9.1「Dr. Mの診療録 その8:春菜ちゃん

2017.8.1 「Dr. Mの診療録 その7:妊娠して内膜症を治療しよう!?

2017.7.1「Dr. Mの診療録 その6:妊娠するには心身共に健康が大切

2017.6.1「Dr.Mの診療録 その5:色黒の赤ちゃん

2017.5.1「Dr.Mの診療録 その4:占いを信じる?

2017.3.1「Dr.Mの診療録 その3:スーパーボール

2017.2.1「Dr.Mの診療録 その2:警察から電話です

2017.1.1「Dr.Mの診療録 その1:産科は若い頃の体力勝負