Dr.Mの診療録:舶来の新薬 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

 今でこそ不妊症を専門にしているが、私もかつて癌の患者さんを診ていた。婦人科の癌は下半身の病気のためか、上半身にある心肺脳がお元気な方が多い。長期入院している癌の患者さんは、病院生活を楽しく過ごすために、例えば何かを製作したり、努力しておられた。その作品を色々見せてもらうと、とても文才があったり、絵が上手だったり、話がうまかったり、なかなか素晴らしいのである。けれども、長期入院している方の病気は、あまり調子がよろしくない。だんだんと低空飛行になり、最期を迎えるのである。この患者さんも卵巣癌の再発でいろいろ試したが、全ての治療が効かなくなってしまった。そこで、当時ある新薬を試さないかというプロジェクトがあり、その患者さんは悩んだ末、最後の望みをこの新薬にかけたのである。そして、新薬が効き始め、体調が復活してきた。しばらく治療を続け半年位はよい状態だったが、結局新薬も徐々に効かなくなり、最期を迎えたのだ。最期を迎える数日前に見せてもらった詩集にはこんな事が書かれていた。「舶来の新薬に夢をのせ、残り僅かな命を託す」今でこそ普通に使用されているこの新薬の名前を聞く度に、この患者さんを思い出す。ご冥福をお祈りしている。