Dr. Mの診療録 その13:妊娠中の性交渉にご用心 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

 妊娠5ヶ月の双胎妊娠の患者さんが、夜中に慌てていらした。破水したというのである。これはやばいと思った。この時期に破水しては赤ちゃんが助からないからである。破水すると自然に陣痛がきて、お産が進行してしまう。案の定、そうなってしまった。つまり、流産(死産)である。2卵性だったので、うまくすると1人だけお産になって、もう一人は子宮に残る場合もまれにあるが、通常は2人の胎児は運命共同体であるから、2人とも生まれてしまうのである。さて、この患者さんは何故破水したか。実は性交渉を行って膣内で射精した直後に破水したのである。世間一般にはあまり知られていないが、精液の中にはプロスタグランディンという物質が含まれており、この物質は人工的に陣痛を起こす薬として使用されているものと同じものなのである。だから、膣内でこの物質に暴露した場合に、陣痛や破水が生じてしまう。死産や早産の相当数は、性交渉がきっかけになっていると私は考えているが、きちんと統計がとられていないため、その実態は明らかではない。妊娠中の性交渉は、夫婦のスキンシップに欠かせないものであると、いろいろな本に書かれている。確かに、スキンシップは必要である。しかし、性交渉の際には必ずコンドームの使用を行って欲しいものである。それが書かれていない。この患者さんは非常に悔やんでいたのを今でも思い出す。この事実は、しっかりメディアでもとりあげて欲しいものである。

 

Dr. Mの診療録シリーズは下記の記事をご覧ください。

2018.2.1「Dr.Mの診療録:占いを信じる? パート2

2017.12.1「Dr.Mの診療録:「癌なら手術を受けません」

2017.11.1「Dr.Mの診療録:卵巣癌の皮膚転移とのイタチごっこ

2017.10.1「Dr.Mの診療録:舶来の新薬

2017.9.1「Dr. Mの診療録 その8:春菜ちゃん

2017.8.1 「Dr. Mの診療録 その7:妊娠して内膜症を治療しよう!?

2017.7.1「Dr. Mの診療録 その6:妊娠するには心身共に健康が大切

2017.6.1「Dr.Mの診療録 その5:色黒の赤ちゃん

2017.5.1「Dr.Mの診療録 その4:占いを信じる?

2017.3.1「Dr.Mの診療録 その3:スーパーボール

2017.2.1「Dr.Mの診療録 その2:警察から電話です

2017.1.1「Dr.Mの診療録 その1:産科は若い頃の体力勝負