環境ホルモンによる思春期への影響は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、環境ホルモンによる思春期への影響についての検討です。

 

Hum Reprod 2019; 34: 109(米国)doi: 10.1093/humrep/dey337

要約:1999〜2000年に妊娠中の方(18歳以上、20週未満)を対象に、出産後のお子さんを思春期まで経過観察し、妊娠中の母体およびお子さんの尿中の環境ホルモン濃度測定を行い、思春期発来との関連を前方視的に検討しました(CHAMACOSスタデイ)。測定した環境ホルモンは、フタル酸3種(MEP、MBP、MiBP)、パラベン2種(メチルパラベン、プロピルパラベン)、フェノール4種(トリクロサン、ベンゾフェノン3、2,4-ジクロロフェノール、2,5-ジクロロフェノール)です。調査できたお子さんは338名(女児179名、男児159名)、9〜13歳の間は9ヶ月に一度思春期の状況を診断しました。なお、ラテンアメリカ人がほとんどで、低所得者、低学歴者が多い集団です。女児において、妊娠中のMEP増加と恥毛出現の早期化、妊娠中のトリクロサン、2,4-ジクロロフェノール増加と初潮の早期化に有意な関連を認めました。お子さんのメチルパラベン増加と乳房発達、恥毛出現、初潮の早期化、プロピルパラベン増加と初潮の早期化、2,5-ジクロロフェノール増加と恥毛出現の遅れに有意な関連を認めました。一方男児では、プロピルパラベン増加と性器の発育にのみ有意な関連を認めました。

 

解説:思春期発来が早いと、大人になった時に様々な健康上の問題が生じることが知られています。すなわち、乳癌、卵巣癌、精巣癌、糖尿病、心血管疾患、精神疾患のリスクが増加します。また、思春期発来は遺伝的要因と環境因子の関与が示唆されており、思春期発来に関連する遺伝子は男女ともに類似していることが明らかにされています。近年の子供の思春期が早まっている原因に、女性ホルモン作用を有する環境ホルモンが関与しているのではないかと考え、本論文の見当が行われ、いくつかの環境ホルモンと思春期発来の有意な関連を明らかにしています。

 

今回調査した環境ホルモンは、一般的に下記の製品に含まれており、いずれも女性ホルモン作用が示されています。

フタル酸:香水、消臭剤、石鹸、シャンプー、マニキュア、化粧品

パラベン:化粧品の防腐剤

フェノール:石鹸、歯磨き粉、リップクリーム、ヘアスプレー、シャンプー、ローション、防虫剤、消臭剤

 

これら全てが日常生活でよく使われるものですので、もしこれらの流通(普及)とともに思春期の早期化が起こっているとしたら、是正することが可能になります。しかし、本論文で調査した母集団に偏りがありますので、世界的な大規模な調査が望まれます。

 

下記の記事を参照してください。

2018.11.23「母親の初潮年齢は息子の思春期にも影響する

2018.6.24「初潮年齢と閉経年齢の関係

2017.5.12「AMHに影響する因子

2017.3.21「初潮が早いと閉経も早い?

2014.10.27「初潮年齢と妊娠との関係

2014.5.4「☆片側の卵巣摘出をしても閉経はたった1年早くなるだけ

2013.12.7「☆初潮が早いとAMHが低下する?