☆初潮が早いとAMHが低下する? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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「初潮が早いと閉経も早いんですか?」時々ある質問です。これまでは、初潮の年齢は閉経とは関係ないと考えられていましたので、私もそのように答えていました。しかし、本論文は、初潮が早いヒトは卵巣予備能(AMH)が低下し、閉経が早くなる可能性を示唆しています。

Fertil Steril 2013; 100: 1039(米国)
要約:2005~2012年に妊娠外来を訪れた502名の方の、初潮、BMI、AMH、FSH、人種、FMR1遺伝子を後方視的に調査しました。AMHが25パーセンタイル未満の方を卵巣予備能低下と定義すると、13歳未満に初潮を迎えた方は卵巣予備能が有意に低下していました(1.61倍多い)。一方、人種間の違いは卵巣予備能との関連を認めず、FMR1遺伝子と卵巣予備能にも関連を認めませんでした。

解説:原始卵胞が1000個未満になると閉経すると考えられており、閉経の時期は生まれつき持っている原始卵胞の数により規定されます。母親と娘の閉経年齢に強い相関関係があることから、閉経には遺伝的要因が関与することが示唆されています。同様に、祖母、母親、娘、姉妹、双子の初潮年齢の研究から、初潮にも遺伝的要因が関与すると考えられています。さらに、FMR1遺伝子は早発閉経(早発卵巣不全:POF)に関与することが知られていますので、初潮から閉経までの生殖年齢には「遺伝」的要素があることを示しています。このような背景から本論文の研究が行われました。本論文は、初潮が早いヒトは卵巣予備能(AMH)が低下し、閉経が早くなる可能性を示唆しており、非常に示唆に富む論文です。

初潮が早いとなぜ卵巣予備能(AMH)が低下するのかについては明らかではありませんが、生まれつき原始卵胞が少ないのか、あるいは卵胞供給が過剰なのかどちらかではないかと考えられます。ヒト卵胞は、原始卵胞→一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞→胞状卵胞の順に発育しますが、AMHは一次卵胞、二次卵胞、前胞状卵胞の顆粒膜細胞で産生されるため、原始卵胞の数(生まれつきの卵子の数)を現してはいません。つまり、「AMHは現在供給されている卵子の数」を反映しています(2013.10.13「☆☆チョコレート嚢腫術後に低下したAMHが増加する場合がある?」の記事に「ダムと水門の関係」として図解してありますので、併せてご覧ください)。このため、AMHは、1歳まで増加、2歳まで減少、8歳まで増加、12歳まで減少、24.5歳まで増加、35歳までゆっくり減少、その後は閉経まで減少、という具合にジグザグに変化します(2013.6.16「☆☆☆AMHは年齢とともに低下しません⁈」を参照してください)。AMHが増加するのは、一生の間に3回(生後~1歳、2~8歳、12~24.5歳)あり、一時的にFSHが増加することで、原始卵胞から一次卵胞への供給量が増加していると考えられます。2度目のAMH増加の後の 8~12歳から生理が始まります(思春期)ので、思春期までのいずれかの段階に何らかの原因があるのだと思います。

本論文を読んで、私は2つの仮説を考えています。
①2~8歳の思春期前の時期に原始卵胞からの初期卵胞供給が思うように増加しない場合(ダムと水門の関係にたとえると、水門が少ない場合です)。このような方はその後の卵胞供給においても十分ではなく、結果としてAMHが低下するという考えです。
②AMHによる卵胞供給量の調節機構が機能していない場合(AMH欠損マウスでは、原始卵胞からの卵胞供給が約3倍に増加するため、原始卵胞が枯渇するのが早くなることが知られています。しかし、FSHは高くありません。つまり、AMHは原始卵胞からの卵胞供給やFSHに対する感受性を調節している可能性があります)。この場合は、AMHもFSHも出ていない思春期までの時期に原始卵胞がどんどん消費されてしまうという考えです。
どちらが正しいというのではなく、多くの仮説を検証しながら医学が進歩するものだと思いますので、今後の検討を見届けたいと思います。

なお、本論文では、FMR1遺伝子と卵巣予備能にも関連を認めていませんが、FMR1遺伝子については、下記の記事を参照してください。
2013.10.23「☆GDF9遺伝子変異でAMHが減少します」
2013.8.29「BRCA遺伝子変異があるとなぜ早発閉経になるか」
2012.10.26「AMHは人種によって違う」