Q&A2071 BCGにヒ素混入の件について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 「厚生労働省は2018年11月5日、乾燥BCGワクチンに添付した生理食塩液中のヒ素濃度が国の基準を超えていたことを明らかにした。安全性には問題ないとしている。薬事・食品衛生審議会の医薬品等安全対策部会安全対策調査会で公表した」このニュースを見て不安でたまらなくなりました。
 

うちの娘は9月にBCGを接種しました。健康上に問題はないとしていますが、ヒ素という名前が一人歩きしています。ヒ素はあちこちに存在していて、有機、無機があると知りましたが、そもそも溶液に使われるビンにヒ素が使われるのは普通のことなのでしょうか。BCGワクチン接種後に下痢嘔吐など副作用はありませんでしたし、その一回微量に体内に入ったからと言って将来大きな影響を及ぼすことはないのでしょうか。また、ひじきやわかめはあまり良くないと聞きますが、食べ過ぎなければというレベルなのでしょうか。8月に出荷停止にしているけれど、今現在は在庫分を接種しているとのことで11月から新しいビンに変えて出荷するそうですが、健康上に問題がないから公表せずに在庫分を接種させているということなのでしょうが、やはり親としては教えてくれたら新しいビンのほうが良かったと思ってしまいます。このニュースで混乱している人がたくさんいるので、是非松林先生のお言葉をいただけたらと思います。

 

A 日本ビーシージー製造株式会社のホームページ「すでに BCG ワクチン接種を受けたお子様の保護者の方へ」が大変分かりやすいので下記に抜粋しました。

 

Q1 BCG ワクチンを接種したのですが、大丈夫でしょうか?

A1 ごく微量ですので、健康被害はないと考えています。生理食塩液に含まれていたヒ素はごく微量です。接種による健康被害はないと考えています。 また、これまでもヒ素が原因とされた健康被害の報告はありません。

 

Q2 生理食塩液の中に、どのくらいのヒ素が入っていたのでしょうか?
A2 1 本の生理食塩液アンプル(容器)中に、最大 0.039μgのヒ素が含まれていました。外部試験機関による測定で、三酸化二ヒ素として、0.11〜0.26ppm検出されました(2016年 9 月以降に製造した生理食塩液の測定結果)。 日本薬局方生理食塩液の規格では 「0.1ppm 以下」とされていますので、基準を上回るヒ素が検出されました。 1本の生理食塩液アンプル(容器)には、0.15mL の生理食塩液を分注しています。この生理食塩液(0.15mL)の中に含有されるヒ素量は、最大 0.039μg となります。

 

Q3 安全性に問題がないという根拠は?
A3 ヒ素の許容 1 日曝露量の約 1/38〜1/77 です。「医薬品の元素不純物ガイドライン(ICH Q3D)」を参照すると、ワクチン対象児 5〜10kg でのヒ素の許容一日曝露量は 1.5μg〜3μg となります。1本の生理食塩液アンプル(0.15mL)に 含有されたヒ素量は、最大 0.039μg であり、これはヒ素の許容一日曝露量の約 1/38〜1/77 と なります。

 

Q4 BCG ワクチンの接種によって、どのくらいのヒ素が体内に入るのでしょうか?

A4 計算上、0.016μg 以下となります。BCG ワクチンの接種は、スポイトを用いて 1〜2 滴の懸濁液(ワクチン液)を滴下し、管針を用いて接種します。スポイトの 1 滴は約 0.03mL ですので、2 滴では 0.06mL が接種箇所に塗り広げられていることになります。この一部が管針による接種で体内に入ることになりますが、正確な液量は分かりません。 仮に、皮膚に塗り広げたワクチン液の全量(0.06mL)が体内に入ったとすると、ヒ素量は 0.016μg となります。

 

Q5 なぜ、ヒ素が入ったのですか?
A5 生理食塩液のアンプル(ガラス容器)からヒ素が溶け出たためです。今まで使用していたアンプル(ガラス容器)には微量のヒ素が含まれていました。 生理食塩液をアンプルに分注した後、アンプルの先端をガスバーナーで熱しながら溶かし、容器に封をします。この時、ガラスに含まれていたヒ素が溶け出て、生理食塩液に混入しました。

 

Q6 なぜ、生理食塩液にヒ素が入っていると分からなかったのですか?

A6 アンプルに分注する前の生理食塩液で試験をしていたためです。これまで、弊社ではアンプルに分注する前の生理食塩液について試験をしていました。その際のヒ 素試験結果は、「0.1ppm 以下」で適合していました。 アンプルに分注した後の製造工程(アンプルの先端を溶かして封をする工程)でヒ素が溶け出て いたため、弊社の試験では検出できませんでした。

 

Q7 いつからヒ素が含まれていたのですか?

A7 2008 年からと考えられます。現在のアンプルを使用し始めた時期が 2008 年であることから、その当時から生理食塩液にヒ素 が含まれていたものと考えられます。なお、該当ロットは KH099〜KH278 で、2009 年 4 月より出荷いたしました。

 

Q8 BCG ワクチンの効果は大丈夫ですか?

A8 結核予防効果に影響はありません。BCG ワクチンの品質試験は、生理食塩液で BCG 菌を懸濁して(溶かして)実施しており、適合していますので、ワクチンの効果に影響はありません。

 

製薬業社あるいは厚生労働省として上記の説明で申し分ないと思います。とは言え、森永ヒ素ミルク事件や和歌山毒物カレー事件などヒ素による急性あるいは慢性中毒が報道されたこともありますので、患者さんあるいは親御さんとしては心配なのはわかります。そこで、農林水産省による食品中のヒ素濃度調査結果を下記にまとめてみました。

 

    1gあたりの平均総ヒ素量

コメ      0.14μg

小麦      0.009μg

大豆      0.008μg

じゃがいも   0.004μg

ダイコン    0.004μg

ニンジン    0.004μg

キャベツ    0.003μg

レタス     0.003μg

ほうれん草   0.01μg

ネギ      0.005μg

玉ねぎ     0.005μg

キュウリ    0.006μg

ナス      0.006μg

トマト     0.004μg

ピーマン    0.004μg

しいたけ    0.02μg

イチゴ     0.005μg

ミカン     0.004μg

りんご     0.004μg

梨       0.004μg

柿       0.005μg

もも      0.004μg

ぶどう     0.004μg

ひじき     93μg

こんぶ     53μg

ワカメ     33μg

海苔      25μg

 

海藻のヒ素含有量が最も多いわけですが、海藻はそれほどたくさん食べませんので、現実的なヒ素摂取はコメからが大半だと思います。コメ1合で約150gになりますから、お茶碗2杯で約21μgのヒ素摂取量になります。ワクチン溶解の生理食塩液(0.15mL)の中に含有されるヒ素量は最大 0.039μg ですから、比較にならないほど微量です。なお、中毒量は10〜50mgです(ヒジキ107〜537kg、お茶碗476〜2380杯、BCG 25万〜125万アンプル)。

 

なお、このQ&Aは、約3ヶ月前の質問にお答えしております。