松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。


テーマ:
卵巣予備能を考える上で、極めて興味深い論文をご紹介致します。本論文は、片側卵巣を摘出すると、残された卵巣が代償性に働く(機能を補う)という可能性を示唆したものです。

Hum Reprod 2014; 29: 835(ノルゥエイ)
要約:1995~1997年にノルゥエイの国家規模のHUNT2スタディーに登録した23580名の女性を後方視的に質問票により調査しました。質問票には、卵巣手術の有無、出生時の状況、妊娠歴、喫煙暦、BMI、初潮年齢などの質問が含まれています。片側の卵巣摘出を行った女性の閉経年齢は49.6歳であり、卵巣摘出のない女性の50.7歳と比べ1.1歳早まるだけでした。また、BMIが高い女性は優位に閉経年齢が高くなっていました。

解説:閉経年齢には人種による違いが大きくあり、インドでは44.6歳、フランスでは52.0歳、日本では52.1歳という報告があります。早発閉経(40歳未満で閉経、早発卵巣不全)は、心血管疾患、認知症、骨粗鬆症、死亡率の増加をきたすことが知られており、健康上の観点からも閉経時期が遅いことが重要です。閉経時期が早くなるリスク因子として、短い排卵周期、喫煙、独身、低学歴、非正規雇用などが報告されており、逆に閉経時期が遅くなるのは多産の場合です。かつて、片側卵巣摘出により閉経時期が46歳未満になるリスクは4.3倍であるという報告がありましたが、本論文では同様の計算をすると1.28倍にとどまっています。また、2012年に発表された日本人24152名のデータでは、片側の卵巣摘出を行った女性の閉経年齢は50.9歳であり、卵巣摘出のない女性の52.1歳と比べ1.2歳早まるという結果であり、本論文と似ています。計算上では、片側の卵巣を摘出すると5~10年閉経が早まることになり、わずか1歳早まるという事実との乖離があります。一般に、99%の卵胞はうまく発育せず、閉鎖卵胞となり消失すると考えられていますが、片側の卵巣がなくなった場合に、閉鎖卵胞になる頻度が低下する可能性や、原始卵胞の供給量が低下するなど卵子の枯渇を防ぐ働きが生じるのではないかと考えられます。同様の現象は動物でも認められており、本来作られなくなっているはずの原始卵胞が新たに作られるのではないかと説明されています。

ヒトの身体には機能を代償する力が備わっていることはよく知られています。たとえば、腎臓など2つある臓器では1つがなくなっても残りの1つで機能をカバーできます。機能をカバーするために2つあるのかもしれませんが、卵巣も同様なのではないかという話が本論文の趣旨です。卵巣機能を代償できるとすれば、片側で十分であるだけでなく、代償機能を意図的に働かせる方策を見つけるという作戦がとれます。このメカニズムが解明されれば、原始卵胞の減少を食い止めたり、閉鎖卵胞への転換を阻止したりすることが可能になるでしょう。さらに、卵子の供給が小出しになっているメカニズムも解明されれば、必要な時に卵子を供給させ、必要でない時は卵子をキープすることができるようになります。下記の記事に示した「ダムと水門の関係」を自由にコントロールできる夢のような時代がくるかも知れません。
2013.10.13「☆☆チョコレート嚢腫術後に低下したAMHが増加する場合がある?」
2013.10.23「☆GDF9遺伝子変異でAMHが減少します」
2013.12.7「☆初潮が早いとAMHが低下する?」
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