好きなミュージシャンのアルバムで、とても欲しいけど手に入らない、そんなCDはいくつもあります。もう廃盤で売ってなくて買えない、ってCDも多いのですけど、ハナっからCD化がされてないアルバムもある(手に入らないと思うと余計に欲しくなる心理あるある)。
うっかり買う時期を逸して、ずーっと再発されないってアルバムの筆頭は、原田真二のセカンドアルバム『Natural High』。これがネットだといつも高額で、ずーっと僕にとって幻のアルバムです。
他のアルバムはわりと容易に手に入ったのに『Natural High』だけ、ここまで再発されないってことは、原田真二本人が出したがってない、乗り気じゃないってことでしょうね。
一応、数年前に公式で出たボックスセットにようやく入ったのですが、そのボックスセットだって二万円強したので、買うのを躊躇してしまったのです。うーん、どうかバラで再発してもらえないでしょうか。
友川カズキの『復讐バーボン』も、欲しい。狂おしいほど欲しい。CD屋で手に取ったこともあったのに、あの時なんで買っておかなかったんだろう。こちらは原田真二と違い、友川カズキ本人が《良い出来》とコメントしているのに、肝心のブツがないものだから、やはり値段が高騰してしまいました。友川さん『復讐バーボン』どうぞ再発してください。買いたがっているファンはいっぱいいますよ。
でも、これらのアルバムは、お高いけど、金にモノをいわせれば一応は買えるのです(買わないけど)。悩ましいのが、もともとCD化されてないアルバムは買いようがないってこと。欲しけりゃ中古のLPを探せってか、なんでCD化してくれないの?って、本気で思う作品があります。さだまさしの『随想録』はようやくCD化されましたけど、『随想録』もずいぶん永いことCD化されなくて、なんで?!って思ってましたね。
ここから本題。《なぜかCD化されないアルバム》のリストの中で、僕がトップランクで欲しいと夢見てたアルバム、トニー・コジネクの3rdアルバム『コンシダー・ザ・ハート』(1973)が、今年なんとCD化されてたのです。これは物凄い事件です。
ネットで見つけた時、自分の目を疑いました。え、CD化された?本当に?って。ソッコーで連れ合いに《amazonでこれ買って!》と頼んだところ、翌日には届いてしまった。連れ合いはamazonプライムに入ってるので、こういう時にありがたい(お金は連れ合いにちゃんと払いました。プライム会員は送料無料なので頼むと安い)。
今、実際に現物を手にしていてるのが信じられない。ウソみたいな気分です。浅川マキの『灯ともし頃』のCDを手にした時以来の興奮です。
CD、聴きました。実は、YouTubeで数年前よりこのアルバムはそっくりアップされていて、おかげで内容は聴いて知ってはいたのです。でも、自分の部屋のオーディオにCDをセットして聴くと、これは感慨ありましたね。《ようやく聴ける》という思い込みのヴァイアスも込みで、良かった。この音に、声に、次々と場面変化するメロディに、ああトニー・コジネクだと身が震える想いがしました。本国ではトニー・コジネクの一番人気なアルバム、ついに手に入れてしまいましたよ。
トニー・コジネクはカナダのシンガーソングライターで、決してビッグネームではないですけど、僕はずっと好きなミュージシャンです。
かのL⇔Rの黒沢健一が2ndアルバム『バッド・ガール・ソングス』(1970)をフェイヴァリットに挙げていて、黒沢くんのオススメなら良さそう、と興味を持ったのが知るきっかけでした。
この、ジャケットのイラストが印象的な『バッド・ガール・ソングス』だけは、廃盤にならないみたい。他のアルバムが買えない時も、これだけはいわゆる名作扱いで、ずっと売られ続けているようです。
トニー・コジネクはちょっと摩訶不思議なセンスの曲を作る人で、ポップでとても心踊るんだけど、少し難解で、鼻歌で口ずさむには覚え難いメロディ。その奇妙な味が慣れるとクセになります。覚え難いってことは飽きないのです。
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『バッド・ガール・ソングス』の一曲目。いきなりつかみどころのない歌メロディと、途中でテンポがいきなり変わるトリッキーさにオッとなった。ギターとピアノと歌を基本にしたシンプルなアレンジなので、奇妙だけどスッと聴けて、ナイーブなのになんか可愛い、愛嬌ある音楽だなと思ったものでした。
トニー・コジネクはとにかく、日本で紹介されたアルバムが『バッド・ガール・ソングス』と『コンシダー・ザ・ハート』だけ、って時期が永くて。なのに『コンシダー~』はCD化されないんだから、『バッド・ガール~』はまさに虎の子の一枚だったのです。
実は『バッドガール~』の次にCD化されたトニーのアルバムは1stの『プロセス』(1969)なのですが、僕がそれを手に入れたのはずいぶん後のことでした。
他のアルバムも聴いてみたいなーと思っても、昔は今みたいにネット通販もないし、情報を知る術もなかった。そんな時、『オールモスト・プリティ』(1978)と『パッサー・バイ』(1985)の二枚が同時に世界初CD化されました(実現させたのは日本のヴィヴィッドサウンドの宮木さんの尽力によるものと解説参照)。それが今から22年前、1999年のことでした。嬉しかったですね。
『オールモスト・プリティ』が僕、トニーのアルバムで一番好きかもしれません。とは言え、これ、実はマジの未発表作品だったらしくて、CD化どころか、テストプレスはされたものの、発売されなかった幻のアルバムなんだそうです。曲順もジャケットも、このCD化の際に決まったらしい。
これが聴いてみたら、素晴らしく楽しい。今ではこのアルバムがもっとも手に入り難いようで。もったいない。音も曲もこんなにポップでご機嫌なのに。ポップスファンには一家に一枚のアルバムですよ。
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一曲目の「エニー・アザー・ウェイ」からもう、このアルバム最高って無敵感があります。テストプレス盤では全然曲順が違って、「ミステリー」が一曲目だったらしいけど、絶対に「エニー・アザー・ウェイ」でしょう。ヴィヴィッドサウンド宮木さんナイス曲順ですグッジョブ。
事実上、現在トニー・コジネクのラストアルバムでもある『パッサー・バイ』は、いかにも80年代というAORなサウンド。これはBGMとなりうる唯一のトニー・コジネク・アルバムといえそうです。『バッド・ガール・ソングス』が好きな人には慣れない音かも知れないけど、これも良いアルバムだと思います。
もし、もしもですが、トニー・コジネクがこの先もアルバムを出していたら、『パッサー・バイ』のような作品をいっぱい作ったんじゃないか、って夢想します。あくまで夢想で、希望です。
オーバープロデュースということで、トニー自身が不満も多いという1stアルバム『プロセス』。ライナーの解説でもアレンジに対して文句たらたら書いて可笑しいすが、ちゃんと聴けば、そんなにクサすほど悪いアルバムだとは思いません。
トニー・コジネクの歌は、ちょい聴き流すってBGMには向かなくて、どんな気持ちいい曲でもその個性がゴツゴツと耳にぶつかって来る。メロディの隅々までトニーの《これでなけりゃ》って意志がヒシヒシ伝わってくる。
トニーの曲に《なんとなくのメロディ》はひとつもなく、すべてにこだわって作られてると感じるのです。僕の思い込みではありますが、トニー・コジネクを聴いているとシンパシーを感じます。なれるものなら、僕はトニー・コジネクみたいになりたかった。
『コンシダー~』のライナーには、トニー本人の長文のコメントが掲載されてます。七十歳を過ぎているはずのトニー・コジネクのその言葉は、音楽への情熱をいまだ穏やかに燃やしているかのようでした。今、もし、ニューアルバムとか出してくれたら、嬉しいのになぁ。
マシス