爺やあは忙しい。
うちの爺やあが被害を見に来た。ニタニタ笑いながら梨一個であるが手土産を持ってきた。それは軽く線香の匂いがしたのできっと仏壇から取ってきたのだろう。あまり触手が湧かないのでそのまま冷蔵庫に入れた。爺やあに、身体が動くうちに働けと説教した。今は床上浸水の家から駄目になった荷物を運び出して焼却場まで持っていく依頼で忙しいようだ。婆やあから依頼されているようだ。婆やあは、今だと家電も冷蔵庫や洗濯機もすべて無料で市が処理してくれるようでここぞとばかり洗濯機を2つ追加で持ってきたり、大物家電を5つもどっかから出してきた。爺やあの中型トラックパンパンにして処理場まで持っていくの2往復、その謝礼が3千円だったと笑っていた。笑いごとではない、どこまであんたも人が良いのだ。私はそんな婆やでも、どっかから金を貰えるんだから3千円で仕事を受けるなと説教した。きっと線香臭い梨もそのガメツイババアから貰ったに違いない。私のお客さんが引っ越すので、大型家具を焼却場に置きに行く依頼を爺やあが受けた。ベットを解体し、家具やらいらないものを捨てに行く。もはやこれは立派に仕事として成り立つので、あんたしっかり働きなさいよと爺やあにまたもや説教した。ベットのマットレスを階段から降ろすとき、爺やあが四苦八苦していたので手伝ってやってついでにマットレスを車に投げ入れた。数十年使っていたであろうマットレスから何だか黒い負のエネルギーのようなものが沸き上がっていた。私は力持ちだからマットレスでもなんでもしっかり天日干ししたりするからそんな経験がなかったが、長年使ったマットレスの負のエネルギーは恐ろしいものであった。帰りに腹が減ったので、スーパーのイートインで中華弁当でも食べようと立ち寄った。爺やあは例のごとく爪に火を灯すような生活を送っているので、昼食に五百円以上出したくないという。前日は災害ごみの運搬をして、サイゼリヤのランチだったらしい。爺やあは隣で器用に箸でチャーハンを食べていた。私も焼きそばの類を食べたが、なんせ500円では腹5分目であったので、アイスを追加で買ってきて食べた。爺やあは、スーパーの無料で飲めるお茶や水をがぶがぶ飲んでなかなか席を立とうとしない。いやあここは涼しくって良いなあ。爺やあは家にクーラーが無いので、日中は涼しいところで過ごすのが鉄板である。水道水で水替えせずに雨水だけで数年生きているのは玉サバだけだとか、スーパーで野菜を買うと高いから無人販売所をはしごするとかそんな話を聞かされるとだんだん腹も立ってきた。二時間ほど何か買ってきては食べたり、いろいろ我慢したが、爺やあからエネルギーを吸い取られるようでだんだん意識がもうろうとしてきたので帰りたいと言って席を立った。家に帰ってきてからどっと疲れが押し寄せてきて、翌日起床したら二日酔いのように具合が悪くなっていた。元気を貰いに海に行った。脳筋(ライフセーバーの大学生、脳まで筋肉)は、朝5時から7時まで荒海でトレーニングをし、8時から16時まで海のやぐらで見張り、流されて沖に行くガキどもを泳いで捕獲してくる。用事があれば隣の浜まで2キロくらいちょいと走って伝言してくる。そして17時から暗くなるまで荒海でトレーニング、その後炊事洗濯もするだろうし、たまにおかずがない肉が食いたいと騒いでこちらに作らせるので、大したものは作る時間がないのだろう。どこからそのパワーが湧いてくるのか。私はもはや浜で長距離歩く気力さえなく、浜についたら脳筋に迎えに来てもらい、軽トラで砂浜を送迎してもらって泳いでいる体たらくだ。その有様はトランシーバーで全浜放送されているが自分が楽だから構わない。私は人間が古いので足腰を長くこれからも使おうと最近歩き方を変えたばかりだ。靴を履いて踵からバンバンついて大股で歩くから、ババアは股関節やひざが痛くなったりずれてるんだと着物につま先から着地する草履の歩き方に変えたばかりだ。これだとちょこまかしか進まず、いつまでたっても浜から景色が進んでいかないのでどうしたもんだと悩んでいる。脳筋はババアの軽トラでの送迎まで加わって、今年はバンバン人が流されるし、もはや乃木坂をかけてヘイヘイヘイと音頭をとったり踊っている暇はない。亭主は「あんたとは人種が違う。あいつらは脳まで筋肉だって言ったろう。同じ人間だと思いなさんな。」脳筋は、自衛隊に受かったけど幹部候補生にされるから消防士になると言っていた。なぜ消防士希望なのだと質問したら、カッコいいからと返ってきた。それ以外の理由はないと言った。そして将来に何も不安や悩みなど無いと言う。エイがたくさん浜に上がっていた。死んでいるエイを埋める穴を掘るため、脳筋がスコップを持ってきた。その穴掘りのスピードは大したものだった。「うわあ穴掘るの早いんだね、上手だね、すごいね。」と声を掛けた。自衛隊になるには欠かせない、スコップ掘りの速さだと褒め称えた。私は脳筋と会話をするときには非常に言葉を選び、近所の小学生と話すようなレベルに落として会話をしている。脳筋は自衛隊の海外赴任の給料はめちゃくちゃ魅力的だけど、ご時世を考えるとよしたほうが良いと考える頭はあるようだった。一日中上官から怒鳴られるのは平気なのかと聞いたら、大丈夫っす。と返ってきた。脳筋の一日を見ていると私には理解不能な脳内を持っていて面白い。しかしどうしてあの人種からはパワーを貰えるんだろうな、と考えていたが、爺やあから奪われたエネルギーは先ほどフルチャージになっていた。今月はもう少し頑張って浜に通おうと誓った。