女の古の上半身をまとう夏のファッションは、偽加勢大周からようやく吉田栄作になってきてシメシメと思ったのに、今日は寒さで震えて、どこかにドロンしたい気分になった。

この夏は、涼しいからと気に入った二枚のピンク色の同じタンクトップを執念深く着続けていたが、朝それで仕事場に向かい、一時間でおじゃんになり着替え、夕方帰宅して洗ったそれをまた夕方着用という常に亭主の前では偽加勢大周であり続けたので、私はいつもいつも会うたびに同じタンクトップを着用しているという錯覚があったようだ。

もう偽加勢大周ではいられない、しかし吉田栄作の時期は実に短かった。

 

今日は津波警報が出ていたが、海の方を通り、仕事場に行った。

 

リッカルドは3日間のまず食わずで寝床でじっとして自力で骨折を治した。

折ったのは左足、4日から5日も経つとだいぶ良くなってきてあちこちで歩くようになった。

骨折して5日目の図。

左手は少しまだ腫れていて、思わず使っては痛いという顔をした。

 

だいたい単純骨折ならば1週間もあれば何もしないでも勝手に骨が付くことがわかった。さすがライオンと似たような生き物だと思った。

ただひたすらじっと室内で寝れる環境は作ってやった。

病院なんて贅沢です。

 

骨折して可哀そうだからと二週間も仕事場で寝泊まりさせてやって、廊下に外に出れるように出入り口もこさえてやったのに、昨日一昨日は部屋の隅に脱糞してあった。

 

家で飼っているのとは違って、その場でしつけられないのが痛いところだ。

 

イタズラも目に余るしな、もう外に帰ってもらおう、もともと外で暮らしていたんだし、と昨日は全て戸締りし、中に入れないようにしてやって玄関のカギをガチャリと閉めた。

 

彼は閉まった玄関を恨みがましそうに見上げていたが、速攻で車のエンジンをかけて仕事場を後にした。

 

骨折を心配してくれたお客に、事の顛末を電話し、

「あまりにもね彼の行動にも目に余る件がありましてな、今夜は一番寒くなるっていうけど外ですよ。外の発砲スチロールに毛布しいて来たから野良に戻って貰うんですよ。」と興奮して、私だってとうとうやってやったとガッツポーズをした。

 

お客さんは

「今一番やんちゃな時期だから仕方がない。うちは外の野良には車庫の中に猫の小屋を特注し備え付け、もうヒーターをやってやっている。」

と軽く私を非難したようにも感じたが

「まあとりあえず骨折治ったんだし、もとの生活に戻って貰うだけだし、とにかく行動が目に余るんですよ。」

と言って電話を切った。

 

それでも寒いからどこで寝たんだろうなと2秒ほど心配する時もあったが、今日朝早く見に行ってみた。

 

外は雨がひどい中、探しても姿が見えない。

野生に戻ったか、と玄関のカギをガチャリと開けたら、中から綺麗なホカホカの状態でにゃーにゃ―出てきた。

 

1メートル半ほどの高さの風呂場の窓から侵入し、手洗い場の手指消毒コーナーの下の私の置きタオル、しかも舶来物の花柄の高級タオルはホカホカとしていたので生意気にもそこで昨夜は寝ていたのがありありとわかった。

 

彼の中の、野良猫のクセに綺麗なフカフカの場所で寝たいという執念は本物であると確信したが、さあこれからどうするか、頭をフル回転させた。

 

母猫が入ってきた。

母猫はたいそう頭が良い部類の野良なので、お客がいるときには決して入ってこない。

私の身内とわかると遠慮なく中に入り、息子を威嚇し、目を縦にし、強烈な猫パンチで頭をパコっと殴っていた。

 

「彼は母親から頭を殴られ続けて少し馬鹿になっているんだろう。

仕方がない、トイレの用意してやって、中に入れてやろうよ。家でも良いけどこの子はしつこすぎて駄目だ。」と亭主が言うので、猫砂を買い、スーパーで発砲スチロールを貰ってトイレを作って、ホリホリとやって見せたが、この馬鹿息子はトイレと認識したのかどうか。

 

私が猫砂を買いに行っている間に、4回も母猫から頭を殴られていたのを亭主は目撃した。

 

 

怒っても理解せずに最終的には子供を殴る。

猫の子育ては非常に単純で素晴らしい。

 

まだ子供だからいろいろこれから覚えるのか。

イケメンだからやはり馬鹿なのか。

親から頭を殴られ続けて馬鹿になったのか。

馬鹿だからあれだけ親猫から殴られるのか。

まあそれでもバカ息子ほど可愛いというじゃないか。

母猫は三田佳子か、よしこって呼ぶか。

 

いろいろ考えてみたが良くわからなかった。

 

とりあえず猫砂の使い道が理解出来たら、今後の彼のクオリチーライフも変わるべえなあと思った。