"THE LAST BATTLE" ミリアムの魔術書・外伝 -5ページ目

島から大陸へ

両親共に巨漢だったってばあさんは言っていた。


俺は知らん。親の顔は知らん。


大陸に渡ったきりだという。ひと稼ぎしてくるってそれっきりだそうな。


たぶん。生きてない。



勘だな、あくまで。



ここはさ、俺が生まれたところのことだよな。

流刑の地なんて呼ばれる島。


船でせいぜい一日らしい、大陸に渡れるんだ。俺もそうしたからさ。


ばあさんどうしてるかな。



巨漢らしい両親は生きてるのかなんてどうでもいいんだ。島を出てみたかったんだよ。


島でもひたすら「でかい」と言われてはいたが、今じゃ「大陸一の大男」だよ。



マリアはどうなんだろうな。昔の恋人はどんな奴だったかなんてわからん、知らん。


ああ俺知らないことばっかりだ。




どうして大陸に渡ったのかも自分でもよくわからないんだ。


何かに呼ばれた気はする。



運命か? 信じねえよ。


流刑の地から来た大男は、大陸で女に出会ったってことだよな。



まあそれだけじゃすまなくなってきたんだが。



恋する戦士




魔法は俺を惑わすために使え。




男と女は簡単に肌を合わせられるのさ。




その中で安らぐ相手なんてついぞみつからなかった。




恋敵は戦友で親友だったよ。




もう俺たちは人間じゃない。愛する資格もないし心から女を愛した記憶も遠い。




お前はこれからどこへ行く。




魔法が使えるってなんだ?




幾度もお前の力で体の傷を癒したが、心までは変わらなかった。




俺が倒れればお前が前衛に出る。それは避けよう。




寂しくなるのはな、傷を癒すその手の一瞬の輝きが。




お前がお前の身を守るための男を失わないためのものってことだ。






今夜も自分の剣の傍らで眠る。




こいつは俺の最高の相棒だが、俺を抱きしめてはくれないんだ。






わかるか、マリア?

まだ”人”だった頃に


ここではフェルナンドが百年前から生き続けていることを知らないリューゲンたちと、まだデーモンと接触していない彼らがパーティーについて話してみましょう。


リューゲンとターシルは旅仲間だったし、マリアはいわゆる破戒僧で、正確には寺院の追っ手から逃げている状態だったわ。


ハ・ティムとリヒターは、後に彼らの通信手段となる”光る石”を探して城を後ににしたところだった。

リヒターは三男だったから、領主の息子といってもさほど心配されることもなく、「武者修行」という名目でいったん勘当されたようなもの。


なかなかいい父親だとわたしなら思う。まあ欲しい物を探してきてくれれば、というのもあるにせよ、このままじゃ貴族のおぼっちゃんになってしまうと考えたのでしょう。


偶然出会った彼らは当然ひとり、ふたりの旅では心もとないから手を組んだわけだけど・・・。


フェルナンドは自分のような人間を増やさないことと、デーモン属を追い詰めることを考えていた。



その前に、ひとりひとりの過去を知るのも面白いでしょう。


そうそう、”瓦礫の王”と呼ばれることになるサムソンの師匠ウィルソンも。



「最強なりウィルソン小隊だよなあ?」


そんな風に、あとあとリューゲンに虐められることになるのだけど、もう少し先のことね。


 


100年の記憶から

七つの国、不老の魔物が治めり。


七つの魔物、もとは”人”なり。


100年を超える時を待ち、いま、”人”の敵として君臨する。



討伐隊、連日全滅なり。


七つの魔物、彼らの敵を追うものなり。



炒り卵と平和の終焉


西から昇った太陽よりも、今朝の炒り卵のほうが気になる。


「これでも半熟よ。これより火力落としたら、あなたこれ生たまごよ!」


それでもなあ。あれはもうちっとふわっと作れるぜ。まあ文句言うなら自分で作れって話か。


太陽の位置がおかしいことに気づいたのは、共に基礎鍛錬をしていたターシルだったが、そんなことよりその日に口に入るものさ。


「自分で作れよ。下手すると俺らも飯抜きになるんだ」


ターシルにはお見通しだったようだ。


「異変だぜ。飯のことより自分たちの住む世界の心配だよ、リューゲン」


なあ知ってるか?

そうターシルが続けるので、もう炒り卵の話はやめた。


「なんだい?」


「デーモン属ってわかるよな」


「当然」


「自然現象に異常が起こり始めると、そのデーモンとやらが復活する兆しがってさ。俺のばあさんの話だ」


実戦のときとは違う、稽古用の長剣を鞘に収めてリューゲンは空を見上げる。


「なあデーモンってなんなんだろうな?」


「さあな。まあバケモンさ。聞いた話だとそいつらの飯は”人間の寿命”らしい」


「んなもん飯になるのかよお」


食事の話をしているうちに、いささか空腹を感じ始めたリューゲンは半ば投げやりに言い放つ。


「それならなんで俺らの飯は卵だったか考えろって・・・とにかく太陽が東に沈んでいくなんておかしいことだろうが?」


「パンも食ったよ。マーマレード塗って」


不貞腐れるリューゲンにかける言葉はもうない。ターシルもまた漠然と「晩飯作ってくれてたらいいよな」くらいのことは考えた。



そんな食事ひとつが平和の証であることにも気づかず、辺りは暗くなっていった。