炒り卵と平和の終焉
西から昇った太陽よりも、今朝の炒り卵のほうが気になる。
「これでも半熟よ。これより火力落としたら、あなたこれ生たまごよ!」
それでもなあ。あれはもうちっとふわっと作れるぜ。まあ文句言うなら自分で作れって話か。
太陽の位置がおかしいことに気づいたのは、共に基礎鍛錬をしていたターシルだったが、そんなことよりその日に口に入るものさ。
「自分で作れよ。下手すると俺らも飯抜きになるんだ」
ターシルにはお見通しだったようだ。
「異変だぜ。飯のことより自分たちの住む世界の心配だよ、リューゲン」
なあ知ってるか?
そうターシルが続けるので、もう炒り卵の話はやめた。
「なんだい?」
「デーモン属ってわかるよな」
「当然」
「自然現象に異常が起こり始めると、そのデーモンとやらが復活する兆しがってさ。俺のばあさんの話だ」
実戦のときとは違う、稽古用の長剣を鞘に収めてリューゲンは空を見上げる。
「なあデーモンってなんなんだろうな?」
「さあな。まあバケモンさ。聞いた話だとそいつらの飯は”人間の寿命”らしい」
「んなもん飯になるのかよお」
食事の話をしているうちに、いささか空腹を感じ始めたリューゲンは半ば投げやりに言い放つ。
「それならなんで俺らの飯は卵だったか考えろって・・・とにかく太陽が東に沈んでいくなんておかしいことだろうが?」
「パンも食ったよ。マーマレード塗って」
不貞腐れるリューゲンにかける言葉はもうない。ターシルもまた漠然と「晩飯作ってくれてたらいいよな」くらいのことは考えた。
そんな食事ひとつが平和の証であることにも気づかず、辺りは暗くなっていった。