"THE LAST BATTLE" ミリアムの魔術書・外伝 -6ページ目

予兆

洗濯や掃除を済ませた頃には、すっかり日は高く昇っていた。

マリアには女性としてこなすべき炊事や洗濯、掃除などがあり。
まあそれも女だから昔からだからと何の抵抗もなく受け入れた。


リューゲンの「俺、卵は半熟が好いんだよ」にはむっとしたが。

内心「ガキ!」と毒づいたあと、仲間たちの食べ汚しの食器を片付け洗濯となった。

他の男どもは礼のひとつも言ってくれるから、かろうじて溜飲も下がるというものだ。


その日、洗濯をあらかたすませ、ようやく自分の朝食にありつけるかと思ったマリアも。

「あっは」

つい、そんな風に笑った。

いやだわ、これだけお日様に当たっていたというのに。

今日の太陽、西から昇ってるわよ。

あはは、あはは。マリアの笑い声が空に響いた。

あふれる美女たち


美しくない女なんていないわ。


笑った顔はあなた、とても綺麗よ。


目鼻立ちだけではない、指先の動きひとつひとつに男も女も魅了される。


そうしてあなたもわたしも自分を愛せるわ。


それは絶対よ。




"THE LAST BATTLE"   ミリアムの魔術書・外伝






明らかに究める

ハ・ティムは生まれながらの同性愛者というわけではなさそうで…
幼い頃から尊敬していた同年代の人物が同性、男の子だったということかしら。

ハ・ティムは前述通りウェルチ家に仕えていたから、普通の子どもとして成長することはできなかったのかもしれない。

友と呼べるのはリヒターであり、また主人でもあったから。

難しいわね。平凡な家庭に生まれていれば女の子に恋をしていたでしょうし、今だって、城内の女官を見て素直に『美しい』と思うこともある。


ただ、そこでおしまい。

リヒターのお后探しもどうなることやら?


ハ・ティムもリヒターの幸せを願っているけど、いざリヒターの隣に仕えるのが自分ではなくまだ見ぬ女性という現実に直面したら?

あは。面白いわよ、きっと。


ダン・ナギィ

破滅の夢に


"THE LAST BATTLE"   ミリアムの魔術書・外伝

ケイティとエヴァンはいつも一緒に眠る。お互いに夜が怖い。真っ暗な闇は死を思い出させる。

共に”死んだ”経験があるからこそ共有できる思いがある。



どちらともなく手を握って、やがて朝を迎る。そんな生活は続く。



ケイティはたまにサムソンを思い出す。恋慕ではなく「そんな人もいたんだわ」と。



今夜の夢はこの世界の終わる破滅のときが舞台だった。



エヴァンはどんな夢の中にいるのか。



「きっと正夢だわ」

ケイティはそう思ったがどうということはなかった。一度は死んだのだ。



そういえば、と思う。



これ以上に怖いものなど今更ないのだ。



そう、なにも。




娘の復讐心

ケイティは自分が死んだ瞬間を覚えている。

モンスターに弾き飛ばされ、高く宙に飛ばされた次の瞬間には岩場に全身を叩きつけられ、体中を骨折し、頭部からは脳漿が飛び出す。そんな状態で死んだのだ。


戦死など美しいものではない。都合よく、顔だけが無傷などと誰が言うか。


だからサムソンが…結果自分以外の女を愛し始めたあの男から魂を少しずつ削り、ターシルにあっさり倒されるようにエンジェルの持つ能力のひとつ、《スペシャルパワー》でもって存在の記憶を希薄にしたのは自分だ。


アークエンジェルは生死を司る役割を担っていた。


それくらいは簡単なことだった。


サムソンを楽には死なせられなかった。

それがエンジェルとしての役目からはずされた理由のひとつだが…知るものか。

ケイティにとっての大きな目的のひとつはすでに達成されていたのだ。