皇子を捨てたときに見た風景
だいぶ先のことになりますよ。
私も領主の跡取り候補でしたから、それなりの言葉遣いは心得ています。
それで、デーモンが復活したあと。一度パーティーは解散状態となりました。
各々が感情をコントロールできなくなったことが一番の要因でした。
私とハ・ティムは一緒でしたが、なかなか大変だったのはターシルとリューゲンではないでしょうか。フェルナンドとマリア、そして”瓦礫の王”と呼ばれることになるビリー・ウィルソンが簡単なパーティーを組みました。
私の名前、”ウェルチ”の示す領地はなくなりました。
デーモンの復活によって多くの国や村が地図から消えていったのです。そんなときに仲違いなどしている場合ではなかった。それでも。
ターシルとリューゲンの仲が戻らなかったために、いえ、理由はそうではない。闘う者としての隙だ。ただの隙です、あんなのは。
ターシルが左腕を、肩の付け根から失う重傷を負いました。
マリアにできるのは止血などの効果が現れる治癒術です。失われた腕は・・・・本当は戻せたらしいのですが、信じたくないのですよ。
彼女ほどの実力のあるプリーステスならば、失った部位ごと戻せたらしいのですが、ターシルをパワーアップさせるため、ある鉤爪をもったモンスターの腕をターシルに移植したのです。
そのあと・・・ターシルはリューゲンを倒しに行ったのです。
すでに通信手段として、《マジックアイテム》”光る石”という、自分の言葉を同じ水晶を持つ者に伝えることのできるアイテムを発見していたハ・ティムと私は、それを通じて逃げるようにとリューゲンに伝えました。
しかし、リューゲンは身を潜めるどころか、さらにその水晶を通じて、自分が今、どこにいるかをターシルに伝えるように、とさえ私に言ってきたのです。
ハ・ティムを使いにやり、ふたりを止めさせるべく手を尽くしました。マリアを責めました。
当然だ、と今でも思いはします。しかし・・・。
彼女の答えは。
「皇子様、いちばん役に立っていない自分を自覚してる? お皿一枚洗うこともできない、力づくでターシルを止めることもできない非力な自分を感じてる?」
そこで私は自分を深く恥じ入りました。
やがて剣を取り、私もリューゲンの元に向かいました。
外界はモンスターがそれまでの数倍にも増え、空はいつも燃えていた。
あの地獄の色を私はずっと忘れられないのです。
行き先は地獄でも
ハ・ティムとリヒターの会話より
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「私たちはいつになったら解放されるのですか・・・」
「デーモンを倒せたらな。たぶん戻れるさ。”寿命”を取り戻せばいいことだ」
「あなたはこの先。百年以上の時をこのままで過ごすことに耐えられますか?」
「フェルナンドは耐えているよ」
あまりに冷静。さすがは領主の生まれ・・・それは違うかな・・・。
「あの男は異常です。孤独のあまりこんな生活が普通になっている」
ハ・ティムの声が力を失ってゆく。
日が傾きかけていた、そんな黄昏時だから、感傷的になりやすくなるなんて、リヒターはそう思っていた。
ハ・ティムの抱える不安や恐怖は理解できても、それを解決するのは自分自身だとわかっていたからこそ、リヒターはあえて冷たく。
「マリアにでもさ、頼んでもらえ。いっそデーモンが早く甦ってくれるようにと。そんな奴に俺の護衛は務まらない」
「申し訳・・・」
「もういい。そろそろマリアが食事の支度をする頃だ。腹減ったな? そうだよ、俺もだ」
「はい・・・」
その晩、彼らがパーティはマリアの作ったチーズマカロニを中央に置いて、ベーグルとロールパンとたっぷりのサラダで夕餉を楽しんだ・・・はずよね? ハ・ティム?
このままでいけば、特定の女性に主を奪われることなく暮らしてゆけるのに。
今、ハ・ティムを困惑させているのは何かしら?
ダーク・プリーステス
わたしは死なない。
生き残る。普通の人間に戻って生き残る。
わたしが世界を創り直すのよ。
ダークプリーストは仲間だって喰い尽くす。
あの戦士たちは生贄なの。
わたしの武器と楯となり。
惚れたなんだと単純な男たち。

