"THE LAST BATTLE" ミリアムの魔術書・外伝 -2ページ目

闘う心 戦う魂

忘れることはない。




子供の頃に無心でいたときに響いた声があった。




天の声。




風の声。




海の声。




竜巻のような激しい愛。




平和に生きても波乱に満ちた道を行っても変わらない。




それはおまえがおまえでしかないということだ。




東へ進んでも西へ逃げてもおまえの行き先はけっきょくおまえが選ぶということだ。






サムライの魂。




冷たい刀身。




月の光に映える鋼鉄の刃。






どこまでもおいかけてくる時間と。




子供の頃に聞いた声。




天の唄。




風の唄。




海の唄。






優しくも冷たい、それは魂の声、魂の唄。




共鳴するスピリッツ。






サムライの魂。






そして大陸へ渡った。





サムライ・テッシュウ

テッシュウはカムイのサムライでいまは大陸にいる。


他国とカムイは文化、生活習慣に大きな違いがあるため、使者として派遣されても、目的を果たさずに帰国する者が多く、それがカムイの問題のひとつだった。


国交を持つ意思があっても、国同士の話し合いもまとまらない内に帰っては相手の機嫌を損ねるだけである。


独自の文化を持つからこそ、ある程度手の内を見せることも必要と考えた王族は幾度も遣いを送っては、なんの進展もないことに落胆していたし、強靭な精神を持つはずのサムライの名折れだと嘆く日々だった。



テッシュウは30を少し過ぎたばかりのサムライで、彼の特性は順応性の高さであった。


誰とでも気軽に会話をし、稽古にも励み、異なる文化、特に食において(サムライの多くは食文化の違いに困惑していた)、顔をしかめるどころか大いなる関心をもって臨んでいた。



普段は米に魚が主のカムイの食生活を基本としながらも、ある国で饗されたクリームの練りこまれたパンやとうもろこしのポタージュといったものも、「なかなかうまいです」といいながら口に運んでいたという。



"生きているうちに食べられるものは実際のところ限られています。食えるものは食っておくもんですよ。同じ人間が口にするものですから、食えないものなんてはずないですな"



やがてテッシュウは、大陸へ渡れ、という辞令を受けた。



"何をするかってのは、これは仕事ですから他言はできません。ただ、我々と同じ民族の女性がいるらしいです。で、これ以上は言えない"






・・・でも自分について話すなら、サムライですから強い奴に会ってみたいとは思う。


殺し合いは望まないが磨き合いなら素晴らしいじゃありませんか。ついでに食べたことない珍しいものもね。


なかなか面白い人生です。


ただ今回のミッションには、不吉な予感もあります。


大陸に行ったら、今まで経験したことのない難題が降りかかってくる気がするのです。



しかし自分はサムライです。刀と己を頼りに生き延びます。

東国カムイ


カムイはリースロット大陸から海を東へ旅した先にある島国。


容貌、風習が大陸とはだいぶ異なり、顔立ちは彫りが浅く、上背も他民族と比べてやや小さめである。


ここで生まれたサムライ、ニンジャという名称で呼ばれる戦士たちは、精神修行に重きを置くために魔術に開眼する者も少なくない。


体格で劣る部分をカバーするかのように、ことニンジャの体術は他の戦士系の職種の特性をはるかに凌ぐ。


素早さと身の軽さを身上とするため、ニンジャの職種を選べる者はカムイいおいてもかなり限られる。


またニンジャは、盗賊(シーフ)のように、かすかな物音に気づき、扉や室内に仕掛けられたトラップの解除能力も持ち合わせる。多様な能力は修錬をさらに厳しいものとするため、成長が遅いこともまたその特徴である。



ここではカムイの国について記してみる。

次元の狭間から

大陸から船で何日も旅をして。


その先にサムライ、ニンジャ発祥の地カムイ。


東の果てにある島国から、サムライが流れ着いた。


大陸では新勢力が猛威を振るい、飛行船を本拠地とする騎士たちの国が攻撃に出る。




"THE LAST BATTLE"   ミリアムの魔術書・外伝


ふたりの大男

好きな女の子がいたボクは故郷を離れたくなかった。


昔、父は一時だけ傭兵になったことがあったから、彼は武器を使うことができた。


大陸を2年ほどかけて一周して戻った父は、ボクと兄に剣術を叩き込んだ。


そのときは迷惑に思ったものだけど、いまとなってはそれで生きながらえることができたのも父の教育のおかげなのだから感謝している。


ボクが仲間たちに出会ったのは24歳のとき。


大好きな女性とコルシオンという湖に囲まれた国に移ってきた。


そこでリューゲンと、闘技場から逃れてきたターシルという大男と酒を飲んだのが始まりだ。


リューゲンはメレフという国の第4皇子。


容姿・頭脳・体格と腕力に恵まれた、完璧としか言いようのない男だった。本人は跡目争いに嫌気がさして、有事のとき以外は城を出て好き勝手にやっていた。


なんにしてもボクには凄い男に見えた。


そんな男もやがて思い悩む日々を送ることになるが、まだここでは早いだろう。


ターシルは流刑の島・バコスタ島の生まれで、幼い頃から貧しい生活をしていたそうだ。


彼の両親はよりよい職を求めて大陸に渡ったと言っていた。ターシルは祖母に預けられたが、便りのひとつもない両親を捜すためにやがて島を出た。


両親と同じに大陸に渡った彼だが、寝る場所と食事に困らないことを理由に、なんと自分から剣闘士になったのだという。


体の大きな彼は・・・リューゲンもボクから見たら、いいや、誰から見ても大男だがターシルはそれよりも頭ひとつ大きなとんでもない男だった。



闘技場で何連勝もした男の噂は風に乗ってリューゲンの耳に届き、やがてふたりは仲間となって旅に出た。


てっきりターシルは両親を捜すのかと思ったが、彼自身はそれをすでに諦めていた。


なんの確証もなかったが、もう死んでいるだろうと思ったそうだ。



リューゲンはボクのことも仲間にしようとしたが、ボクは迷った。


大好きな女の子と一緒だったから。