旅立つ友に
ボクは死んで2日後に埋葬されたらしい。
もう死んでからのことはわからないよ。
リューゲンはボクの葬儀から埋葬、最期のお別れのときまで村に滞在した。
普通に宿をとって、村の民にボクとの旅の思い出を語って、そのまままた旅に出たらしい。行き先もなんにも決めないで。
まったく彼らしいね。
しかし、みんな興味を持って聞き入りながらも困惑していたらしい。
なんせボクは”寿命”を取り戻してから62年、肉体的な年齢にして90歳で死んだ。リューゲンは30歳をやっと迎えた、くらいにしか見えない男だ。
ボクとすでに年代が違うと、みんなは思っただろう。しかし嘘がまったく感じられず、もはやリューゲンの存在はボクの暮らした村の伝説となってしまったらしい。
ここまでくるとやれやれだけど彼らしい、本当に。
ボクは死ぬ直前に気になることをいくつか彼に聞いてみた。
彼と同じに元の人間に戻ることを選ばなかった”瓦礫の王・ウィルソン”のこと。そしてこれは少しためらったが、ボクももう最期だ、聞いてみた。
マリアを愛しているのか。数十年前にパーティーがバラバラになってから、もう顔も見ることもなく先に旅立ち、いまも神殿の瓦礫の下に眠っている赤い髪の女を。
リューゲンの答えは「当然」だった。
永久に生きても、世界の王になっても最強の戦士になっても。
もう二度と会うことも取り戻すこともできない女性。
そうやって生きてくのかい?
ボクの人生ではないからな、キミが選ぶ、そして選んだ。
地の果てまで旅してやがてキミは何を悟るのだろうか。
他人事でも戦友だ。ボクは僧侶じゃないけどいまは祈るよ。キミが過去にいつか決着をつけられるように。
どんな生き方をしてもいい、常にそこにキミにとっての幸せがあるように。人生を複雑にしてしまわないように。
みんな素敵だ。キミも、ボクも輝くように素敵に生きてきたと思う。
この世にくだらないものなんてないんだと、ボクはそう思った。
最期に太陽の光を見たときに。
ボクはこの長かった旅がそれでもボクにとっては1日1日が宝物のように輝く日々だったんだ、
そう信じることができた。
そうだろう、だから太陽だって生き物のすべてを見放すことなくこうして今日も照らし続ける。
すべてのものの頭上に心にそのエネルギーを送り続ける。
リューゲン、あれは恋人ではないのか? そうか、旅の仲間かい?
仲間がいてよかった。
あいつと仲良く旅をしてやってね、サナさん。
最期を看取る男
黒騎士のウォレスにとどめを刺すことはなく、ボクは自軍に戻った。
どうも語り部はボクみたいだ。
視点としてはどうなのかわからないが、結果ボクが仲間たちの中でもっとも長生きをしていたのだから、それでもいいのかもしれない。まあこの変な記録はいずれリューゲンに抜かれてしまうことになるけれど。
ウォレスは愛馬を喪ったが、一時的ではあったが仲間になってくれた。これはまた追って。
時代が前後するが、ボクが年老いて本当に寿命を迎え、死んだ日から語ってみよう。
あの日、いつの間にか教師になって暮らしていたボクのもとに、相変わらずなままのリューゲンが最期を見届けにきてくれた。
リューゲンはボクを看取ってくれようとする人たちに向かって言った。
「君たちの先生は俺の何十倍も強いんだ。俺は一度も彼には勝てなかったのさ」
みんなびっくりしていたね。
ボクは元の人間に戻ってからは一度も剣を握っていなかった。みんなボクが戦士であったことすらしらない、純朴で本当に心穏やかな民だった。
だからボクは安心して死んでいけた。
こんな言葉を残してボクはあの日、先に死んだ仲間たちのもとへ旅立った。よく晴れた日で、きっと朝だったと思う。素敵な日だった。
言葉は。
いまなおこの世界(たとえ異世界であれ)に生きているすべての者たちに。
ボクを支えてくれた純朴な民への祈りのように。
心・技・体 極限まで生きてみせ 記憶を追う 歴史を織る


