最期を看取る男
黒騎士のウォレスにとどめを刺すことはなく、ボクは自軍に戻った。
どうも語り部はボクみたいだ。
視点としてはどうなのかわからないが、結果ボクが仲間たちの中でもっとも長生きをしていたのだから、それでもいいのかもしれない。まあこの変な記録はいずれリューゲンに抜かれてしまうことになるけれど。
ウォレスは愛馬を喪ったが、一時的ではあったが仲間になってくれた。これはまた追って。
時代が前後するが、ボクが年老いて本当に寿命を迎え、死んだ日から語ってみよう。
あの日、いつの間にか教師になって暮らしていたボクのもとに、相変わらずなままのリューゲンが最期を見届けにきてくれた。
リューゲンはボクを看取ってくれようとする人たちに向かって言った。
「君たちの先生は俺の何十倍も強いんだ。俺は一度も彼には勝てなかったのさ」
みんなびっくりしていたね。
ボクは元の人間に戻ってからは一度も剣を握っていなかった。みんなボクが戦士であったことすらしらない、純朴で本当に心穏やかな民だった。
だからボクは安心して死んでいけた。
こんな言葉を残してボクはあの日、先に死んだ仲間たちのもとへ旅立った。よく晴れた日で、きっと朝だったと思う。素敵な日だった。
言葉は。
いまなおこの世界(たとえ異世界であれ)に生きているすべての者たちに。
ボクを支えてくれた純朴な民への祈りのように。
心・技・体 極限まで生きてみせ 記憶を追う 歴史を織る