このシリーズもついに20回を超え、終わりに近づいてきました。売るという行為は非常に難しく、売ろうとしても売れないのが世の常です。売りたいけど買ってくれないと悩むセールスマンも多いかと思います。モノがない時代には作るだけで売れたかもしれません。しかし本当にそうなのかと思うことも多々あります。現代ではモノがあふれており、買い替え需要しか見込めないという話もよく耳にします。では、買い換えていただきましょう!とならないのは、やはりモノを売ることが難しいからであります。音楽の世界は少し特殊でありまして、昔の音楽をリイシューどころか、オリジナル音源として再発売させてヒットすることもあったり、カバーが売れたり、世代交代により新しいミュージシャンが受け入れられたり、需要がよくわからない半面、供給側が強く出ることも可能であるところが家電や自動車、紙媒体の出版業界などとは大きく異なる部分だと思います。しかも音楽の歴史は古く中国では孔子の時代よりももっと前からありまして、そういう意味で音楽産業は衰退しながらもまだまだ元気に生き残ろうとしている経営学的には非常に興味深い領域であります。この原理を応用すれば人の生命にも応用できるのではないかと思うのですが、医学者の皆様方、いかがでしょうか?
余談はこのくらいにして、A氏はついに全国展開することを決意しました。ここまではそれでよいのですが、問題はこれまでとは異なる地域において自身の音楽が通用するかの問題であります。答えは通用しないのですが、ここで起こってくる問題が「退行」であります。つまり、これまで東京という様々な地域の人が集う地域において多くのファンを取り込んだとしても、地方へ行くと古い慣習が新しいものを阻害することが常であり、このとこがきっけかで退行が起きます。つまり、退行を一言で翻訳すると、「自信をなくす」ことであります。東京ではある程度の人気を誇ったA氏は自信をなくします。自信を無くしたとき、多くの人は挫折を知ります。この時に老賢者としてのA氏がどのような行動に出るかがプロミュージシャンとしての腕の見せ所なのですが、いくら老賢者といっても通常はこの段階でミュージシャンを引退します。このように、退行なるものはこのくらい精神的に辛い状況を意味します。
東京という地域は日本全国から様々な人々があつまり、そこで新しいものがたくさん生まれます。地方にも日本全国から人は集まりますが、東京にはかなわないかと思います。しかし、地方には重要な役割がありまして、それは地方に残る「慣習」であります。慣習とは古くから伝わる行動様式のことですが、なぜそのような行動様式となるかは不明であることが特徴的であります。例えば関西弁はなぜあのようなイントネーションになるのかについて立証することは不可能です。しかしながら、その地域に古くから根付いている行動様式のことを慣習といいますが、この「古くから」というのがポイントでありまして、深層心理学的には無意識を思い起こすことができます。関西弁を例にすると、これはあくまでも関西でしか使われないことを考慮すると、コンプレックス、つまり、個人的無意識であると評価することができるかと思います。つまり、ある特定の地域で人気が出たからといって、別の地域のコンプレックスを悪い意味で刺激するとA氏の評価は下がってしまうことになります。では、東京での成功が関西のコンプレックスを常に悪く刺激するのか?ですが、これはそのようなことではないのがまた心理学の面白いところであります。東京で人気が出たということは、つまり、東京コンプレックスを制覇した可能性が非常に高いのであります。逆に大阪で成功したミュージシャンが東京では全く話にならない例も星の数ほどあるのですが、これも要するに大阪コンプレックスを制覇したのであって、それが同時に東京コンプレックスを制覇したことにはならないのではなかろうかと私の経験から仮説を設定しております。これゆえ、相手のコンプレックスに対し対応していく能力というものは訓練すれば身につくものでありますから、関西には関西のやり方があるということを知れば相手のコンプレックスをうまく利用することができます。
そして全国には全国に向けてのやり方があり、日本全国、さらには世界中の人々から理解を得ようと思うのであれば集合的無意識を意識することが必要となります。集合的無意識とは人間が始まったころからのものとユングは主張しております。それを神話や昔話などから立証していったわけですが、これが本当であるならば、全人類共通の思いを手にするには「古いこと」を行わなければならないことになります。それも古代に行われていたことであります。これをやれば全世界の人の心をいとも簡単に手にすることができます。ところが、古代人がやっていたことを現代で行ったところで、それを理解する現代人がいるか?と考えた時、集合的無意識の理論だけでは問題を解決することはできないことが理解できます。
A氏は東京では成功を収めたのですが、コンプレックスのより強い地域において挫折を知ることになります。なぜなら、老賢者となったA氏は自信があったからです。自信がなければ挫折はありません。自信がつくレベルというのはすなわち老賢者のレベルといってよいでしょう。しかしながら、その自信が「無意識」であるがゆえに退行の問題は非常に大きな心の問題となります。なんでしょうね、80年くらいからミュージシャンや歌手が全国を回りながら必死にレコードを売ることをしなくなり、代わりにテレビでとと特定多数の人のレコードを大量に売るという商売の方法が功を奏し、しかしながら、これが現代の音楽産業の衰退の一つの要因となっているかと思われます。現在でもインターネットという手段を使ってその特定の人の仲間入りをしようと必死にもがいている人(一般人、芸能人を含め)がたくさんおり、そのような狭い枠内で「成功」や「失敗」が語られていることが残念でなりません。「いいね」がたくさんつくと素人でも簡単に芸能人になることができるインターネットの時代?ここが日本の芸能界の弱点であり、この点を克服できるように日々研究を続けております。
次回からは地域コンプレックスの理解、地域コンプレックスを越えて「日本全国」、さらには「全世界」から評価を得るための方法を吟味していこうと思います。