売ることを考える 20 | 芸能の世界とマネジメント

芸能の世界とマネジメント

芸能界、芸能人のために論じます。

前稿では音楽業界の事業ドメインの変遷について、そしてそれに絡めてA氏の老賢者元型に関する序論を述べるに至りました。音楽業界に関しては無料で良質の音楽が手に入ることにより娯楽としての楽しみ方は非常に増え、需要も多くなってきている様相でありますが、如何せん無料であるため、供給が追い付かない状況であります。ミュージシャンもデビューする前は無料でもいいから世間様から評価されたい!と思うものの、それがその後数十年間続くとなるとうんざりするどころか、道半ばで活動資金が底をつき、音楽活動を断念せざるをえなくなります。現在の日本の音楽業界はまさにこの渦中にあり、よって、需要に対して供給が追い付かない状況となっております。これに関しては仕方のないことだと思います。私としては業界がどのようになるかは各業界が決めることなので、個人的に音楽業界を盛り上げていこうという思いは全くなく、むしろ、教育者としての立場として、教育産業としての音楽については大いに盛り上がっていただきたいのであります。

 

具体的には、娯楽としての音楽が衰退するということは、これは音楽を作る側と聞く側とにマーケットが分かれているところに問題があるわけです。これを話し出すとかなり長くなりますからシリーズを新ため、本稿では割愛しますが、要するに、音楽を楽しむ場合は自分で音楽を作り、そして自分で演奏し、自分で収録し、自分で聞けばよいのです。しかしながら、そんな難しいことはできないから聞く側に回っているのだ!というお叱りを受けることは必至となりますので、その代わりに音楽の楽しみかた(音楽の作り方から楽器の演奏方法などを総合し、パッケージ化したサービス)を国が責任をもって提供していくことを企画するように法案を思案している途中であります。教育といえどもここに音楽大学をその中心とするわけではなく、音楽をやっていくには経営の知識も必要となりますから、それらを総合して教育することができる機関を新たに設立するなども視野に入っております。

 

それにしてもそのような行政サービスなど受けている時間がない人も多いかと思います。その場合は教育を受けた人々が発表会を兼ねてのライブを日本国中の多くの場所で随時開催されるように準備しておりますので、足を運んでいただくか、それこそインターネット配信で楽しむのもよし、お好きなように楽しむことができるようにしますが、基本的に今後の音楽は聴くものから「演奏するもの」へ変わっていき、そのための教育に力点が置かれていくようになるかと予測しております。少なくとも日本政府としてはそのような考えでありますが、実際にそのようになるかについては実行してみなくてはなんともいえませんので、適切な時期が来ればテストを行っていく予定であります。

 

ユング心理学においては布置という概念も重要視されますが、この布置、前述の音楽業界の議論からすると、音楽業界と行動の主体との関わりなどが鮮明にわかってきだすと「老賢者元型」が現れたと見立てます。つまり、行動の主体の内面とその内面が関わっている外面との関係をうまく理解できるようになってきている状態をもって老賢者元型が出てきたと表現されます。ですからこの段階となると、その老賢者とは初対面であってもその人の説得力なるものは非常に大きなものとなっております。それはなぜ客体がそのように感じるかというと、老賢者は主体と客体との関係を瞬時にして理解し、それに応じて布置という名の迷路をうまく進むことができるからです。

 

ここでいつものA氏を例にしますと、彼は影の問題に直面し相当な心的ストレスを抱えることになるのですが、そこで気づいたことは、「自分のマーケットを作ること」でありました。換言すると「A氏ファッション」を作ることが今後の芸能生活には必要だという、まさに第三の道を考えつくのでありました。そしてA氏は心の旅だけではなく、実際に日本全国を巡る音楽ツアーをすることを決意するのであります。

 

A氏という老賢者は右でもなく左でもない独自の答えを見出すにいたりました。ここまでたどり着いたことは非常に素晴らしいことだと思います。そしてこれは見る人によっては「悟り」だという人もいますが、悟りの領域にはまだ程遠いです。なぜなら、自己実現なるものは自己を見なければならず、まだ布置を読めるようになっただけでのことで悟りにまで到達はしておりませ。むしろ全国ツアーをすることにより「退行」を促進することになります。各地域を回るごとに各地域での個性化なるものが必要で、各地域の「個性」を全て混ぜ込んだ真なる個性化を遂げることによりA氏の自己に到達するものと考えるのが筋であります。これはあくまでも全国を知るという目標を持つ場合のみであり、ローカルミュージシャンを目指すのであればその地域でのみ個性化すれば事足ります。自己は全ての物を囲む概念でありますから、A氏は相当に大きな目標を老賢者として持つにいたりました。それ以外にも自己には重要な意味があるのですが・・・

 

全国を政府からの経費で旅することができていいですね・・・と私ども夫婦はいつも誰かにいわれます。しかし、実のところ旅する範囲が増えれば増えるほど精神的な負担は増加することは前述のA氏の例でお分かりいただけるかと思います。つまり、地方ごとに個性化を遂げねばならず、そして、各地方の個性を総合し自己の領域へ進めなければなりません。何事も楽な仕事はありません。一見すると楽に見える仕事ほどその裏で何らかの大きな影の部分があるものです。

 

A氏は様々な困難を経て老賢者となり、全国へ旅することを決意しました。しかしながら、そこには「退行」という現実が待ち受けております。この退行に対しA氏はどのような判断をしてゆくのか。続きはまた来月。ご高覧、ありがとうございました。