患者さんから見た抗うつ剤と抗精神病薬の併用 | kyupinの日記 気が向けば更新

患者さんから見た抗うつ剤と抗精神病薬の併用

一般に初診で、いきなり抗うつ剤と抗精神病薬が同時に処方されることは稀である。(転院の場合は、紹介状の通りに処方されることが多いので話は別)

それどころか、うつを主訴に初診したとしても、抗うつ剤すら処方されないことはありうる。僕はうつの程度にもよるが、安易に抗うつ剤を処方しないようにしているので、最初は処方しないことの方が多い。

深刻なうつ状態と思われる時は入院を薦めるか、あるいは仕方なく抗うつ剤を点滴ないし、外来で処方する。

SSRIの発売以前は、薬の種類も今ほど多くはなく、考えることが少なかったと思う。過去には、例えば、アナフラニールやトリプタノールを十分な量を処方すれば、それ以外は睡眠薬くらいで終わることが多かった。

個々の薬が合う合わないの方が問題で、どの抗うつ剤を選ぶかまでで終わっていた。過去ログにもあるように、アモキサンかルジオミールのどちらかの単剤治療で済んでしまう患者さんが多かったのである。

現在では、単剤で治療を行った場合、種々の対処し難い症状が残る人も多く、結果的に多剤になる人もいる。これは、近年発売の抗うつ剤がシャープになったことも無関係ではない。ピンポイントタイプになったために、過去の抗うつ剤のような効果の厚みが乏しくなったともいえる。その代わりに身体的な副作用が減少したのである。

いろいろ単剤治療を試してみて、それでも良くならないのに、抗うつ剤ないし気分安定化薬の併用や、セロクエルやエビリファイなどの抗精神病薬の併用を決断できない医師は想像力が低すぎると思う。

実は、変更の際にスパッと切り替えることはむしろ稀なので、その際に抗うつ剤の併用は生じている。

例えば、このような処方をされていたとしよう。

サインバルタ 30mg
セロクエル  100mg
ロヒプノール  2mg
エビリファイ  3mg


この処方は統合失調症ではあまりないと思うが、最近のうつ状態の人ではありうる処方である。

患者さんはこの処方を見て、「いったい自分は何の病気だろう?」と思うのが普通と思う。(注;この処方を否定するとかそういう記事ではない)。

レセプト的には、「うつ病(あるいはうつ状態)」と「統合失調症様状態」、「不眠症」が併記されていれば問題ないが、基本的に処方だけ見てもこの患者さんの診断が何なのかわからないのが事実である。

つまり、レセプト的には個々の薬に見合う病名が付けられているなら大丈夫といえる。ただし、非常に高価な薬が最高量で併用されている場合はその限りではない。

この処方は、うつ病圏の人には、抗精神病薬がなぜ処方されているのかが気になるところで、非常に気になって、夜も眠れないほどの人は主治医に質問するのがお薦めである。

うつ状態の人で、セロクエルやエビリファイが処方されている人には、「このタイプの抗精神病薬はうつ状態にもよく使われている」くらいのアンサーがあるはずである。

しかし、患者さんには、どのくらいの頻度で処方されるのかがさっぱりわからない。

実は精神科医にすらわからないところで、うつ状態にセロクエルやエビリファイを使うか使わないかは、医師の好みというか、処方スタイルにもよる部分が大きい。つまり、併用を好む人とそうでない人にわかれる。

この2つの抗精神病薬はうつ病圏では日本では適応外だからである。(海外では適応がある)

このブログはもう5年以上続いているが、2007年7月に「単極性、双極性の激うつ対策本部」という記事をアップしている。あの記事を見て、主治医に「エビリファイを少量処方してほしい」と頼んだ読者の方がいた。その結果だが、主治医が驚くほど、わりあい効いたらしいのである。

エビリファイは表情を改善する効果も大きく、特に初期に非常に効果があるように見える。

ただし、たぶんドパミンライクの振る舞いに負う面が大きいので、長期的にはさほど持続力がなかったかもしれない。

うつに対するエビリファイの大量の振る舞いはかなり異なる。エビリファイの大量はうつ状態より双極性障害に、より有用性が高い。

エビリファイの少量の効果の様子やその後の経過はわりあい理解できる範囲にあるが、エビリファイの大量、それも液剤の場合、よくわからない点も多い。その理由の1つは併用薬の効果の出方が変化するからである。

つくづく、エビリファイは謎の薬物と思う。

参考
アモキサンとルジオミール
パキシルとアンプリット
単極性、双極性の激うつ対策本部
古いタイプの抗うつ剤とSSRI
双極性障害とエビリファイの用量
エビリファイはなぜうつに効くのか?(前半)
エビリファイはなぜうつに効くのか?(後半)
不眠でうつ状態になるのか?