古いタイプの抗うつ剤とSSRI | kyupinの日記 気が向けば更新

古いタイプの抗うつ剤とSSRI

精神科では、初診時に1剤処方する場合と2剤以上処方する場合がある。後者は、例えば抗うつ剤と眠剤などである。(抗精神病薬と眠剤も同様)

精神科のあらゆる疾患は不眠が伴いやすいため、患者さんが眠剤を希望することも多い。自然に最初から2剤以上になりやすい。

ただし、例えば抗うつ剤1剤と眠剤1剤を処方した際、精神科医は最初から多く処方したと言う感覚はあまりない。患者さんでも自分から眠剤を希望した人は同様であろう。

僕が若い頃、軽い神経症のような人にはドグマチールと眠剤を処方し、一度に眠前に飲んでもらうように指示することが多かった。眠剤の替わりにレキソタンやセパゾンなどもよく処方していたような気がする。レキソタンとドグマチールは相性が良いと思っていた。(今はドグマチールの処方はかなり減っている。過去ログ参照)。

精神科病院(あるいはクリニック)と内科、外科の違いは、本来、抗うつ剤を併せて処方すべきところを、眠剤だけで済ましてしまうことであろう。これこそ、うつ状態が難治性に変化する原因になる。

だいたい、抗うつ剤を中途半端な量で優柔不断に長期に治療することも難治性になる原因である。

本来、古いタイプの3環系、4環系抗うつ剤は、SSRI発売以前は一般の内科や外科などで処方されることが少なかった。これはこのタイプの抗うつ剤は用量の選択の幅があることや、自律神経系の副作用が出やすかったことも大きい。これらの点で他科の医師が処方を敬遠していたのである。また、たまに処方される場合でも、内科の医師によるトリプタノール30mg、5年など無策の処方が見られていた。

ところが近年は様相が変わり、SSRIは旧来の抗うつ剤に比べ副作用が少ないという宣伝や、処方用量が数段階しかないなど、扱いやすいためか精神科以外でもしばしば処方されるようになった。ここが大きな落とし穴と言える。

3環系および4環系抗うつ剤>>主に身体に副作用

SSRI>>主に精神に副作用


だったからである。SSRIは精神への副作用を利用して効果を発現している面がある。だからこそ、SSRIの処方は慎重にすべきなのである。

精神科医は「この人にSSRIを処方したら非常に危険」というのを初診時に直感する。(そういう感性がない人は、最初から扱うべきではない)

一般科の医師が、起立性低血圧や心電図異常などの副作用が診られやすい旧来の抗うつ剤を避けていたのに、あまり抵抗なくSSRIを処方できるのは、精神症状をよく診ることができないことが全てである。(←重要)

ドグマチールはうつが軽いうちは良いが、本格的なうつ状態になると全く非力である。転院してきた非常に重いうつ状態の人たちにはドグマチールが処方されていて、しかも全く効果がないのをよく診る。

だから、「軽いうつ状態だから、近所の内科に相談して済まそう」と思うのはリスキーであるし、重くなった場合、本人にも責任の一部がある。

しかし重要なことは、そういう対処でもけっこう上手く行く人もいることだと思う。つまり、そのくらいで良かった人が存在することが、治療の質の問題をわかりにくくさせている。

参考
周りで笑い声がすると・・
抗うつ剤治療と主治医との信頼関係
希死念慮の謎

(この記事は「2剤同時に処方すること(前半)」でしたが、内容的にあまり2剤が出てこないため、タイトルを変更しました。したがって、「2剤同時に処方すること(後半)」に続きます。)