抗うつ剤治療と主治医との信頼関係 | kyupinの日記 気が向けば更新

抗うつ剤治療と主治医との信頼関係

もうずっと以前、SSRIが出る前の話。あるとき、それまで女医さんが診ていた患者さんたちをすべて受け持たないといけないことになった。特に「うつ状態」の患者さんを診て思ったこと。

①すべての患者さんの抗うつ剤の量が少ない。
②たいていの患者さんが、うつ状態を引きずっており、軽快している人が少ない。
③主治医に依存している


①に関しては、ルジオミールの処方が多く、たいてい30~60mgくらいだった。これで良くなっているなら良いけど、全然良くなっていなくて、皆疲れている感じだった。③については、特に強く感じた。「先生、助けて・・」というエネルギーみたいなものが診察中すごく感じられて、こちらも診察のたびに疲れてしまうというか、かなりエネルギーを使った。もう少しなんとかならないものかと思った。

当時ルジオミールは信頼できる抗うつ剤の1つだったので、こういう人たちにはぜひ150mgまで頑張ってほしかった。結局、彼ら彼女たちは僕が受け持って以降、ことごとく良くなり、電撃療法まで必要だった人は1人もいなかったのである。ルジオミールは既に使われていたので、最初それを単純に増やしていったが、100~225mgまでに良くなる人が多かった。ルジオミールでうまくいかない人たちは、アモキサンやトリプタノール、たまにアナフラニール、トフラニールで軽快していたような記憶がある。いったん良くなると今度は抗うつ剤を減らしていき、最高量の3分の2か半分くらいでも落ち着いている人が多く、結局は元の処方に近づいていった。

結論を言えば、下手すぎ。処方の仕方に思い切りがなさ過ぎるのであった。良くなっていくと、診察場面での様子もかなり変わった。あまり僕に依存しなくなり、皆なんとなく自立していった。診察時のこちらのストレスも随分と減少したのである、ただ、こういうのは精神療法、日頃の診察に仕方にも関係があるような気がしている。

だいたい、どの患者にも言えるけど、主治医を信用しすぎ。処方や治療に少しは疑問を持たないと。主治医は親でもなんでもないんだから。

カイゼルひげ氏の日記を見ると、時々服薬量が変わっていることがある。あるとき、なぜ服用量を変えているのか聞いてみた。僕はひょっとしたら、体調不良の時には薬を減らしているのではないかと思ったからだ。特にレボトミンは。

彼によると、昼夜逆転みたいな生活だと、飲む時間を逸してきちんと服用し辛いことがあるという。このように体調に応じてきちんとした服用はしないことは、極めて正しいと思う。眠剤だって、もう寝込んでいるのに、家族がわざわざ起こしてまで服用させるなんてナンセンスだ。

統合失調症以外の患者さんでは、こういう本能的な感覚が本来備わっており、嫌な感じのする薬はたぶんあっていないことが多い。だから、「今日はこの薬は飲まないくらいが良いかも」という感覚は、普通くらいの病状ならほぼ正しいのである。カイゼルひげ氏のこのやり方は、主治医は信頼はしているんだろうけど、100%は信用していないというか、微妙な距離感があるんだろう。(彼の日記を読んでいるとよくわかる)

主治医・患者の信頼関係は大切だけど、主治医絶対という考え方はおそらく良くない。

統合失調症の場合、最悪の状態ではすべて拒絶する人も稀ではないので、この考え方はその場面では通用しない。しかし、全体でみると案外当たっていることも多いと思っている。患者さんが、こっそり特定の薬だけ服用しなかった場合など、その薬はどちらかというと合わないことの方が多い。彼らは基本的に直感が鋭いのである。

注意
精神科薬物の中には、まちまちな服薬だとかえって症状が悪くなる薬物がある。それは、血中濃度の半減期が短い薬物と離脱症状が出やすい薬物である。例えば、パキシル(「抗うつ剤の最小治療量」のコメント参照)、ハルシオン(ハルシオンは反跳不眠が出やすい)。またてんかんの人が服用している抗てんかん薬は急にやめると、それだけで離脱性のけいれんが出現することがある。メジャートランキライザーやマイナートランキライザーはそこまできっちり服用しなくて良いものが多い。

参考
ルジオミール
抗うつ剤の最小治療量
アモキサンとルジオミール
テトラミド