アモキサンとルジオミール | kyupinの日記 気が向けば更新

アモキサンとルジオミール

ずっと以前の話だが、そうね1990年頃は、抗うつ剤の売り上げはアモキサンとルジオミールが双璧だった。不思議なことに、東日本ではアモキサン、西日本ではルジオミールがトップであり、地域で使われ方の違いが見られた。僕は当時、もっぱらアホみたいにルジオミールばかり使っていた。ルジオミールの欠点は、眠くなることである。4環系なので、トリプタノールやトフラニールより概ね副作用は少ない。効果はなかなかのもので、ルジオミールで決着がつく確率は高かった。僕は最高225mgくらいまで使ったが、だいたい150mgを上限にしていた。ルジオミール150mgで決着がつかない場合、その患者さんのうつ状態は手ごわいと感じた。ルジオミールでうまくいかない場合、どうするかと言うと、たいていアナフラニールやトフラニールかトリプタノール等に変更したが、トリプタノールは最強の抗うつ剤という意識はあった。実際、現在でもトリプタノールは最強の抗うつ剤である。(と思う)


当時、トリプタノールをガンガン使うにも、副作用のため処方し辛い面があったので、実用上はルジオミールが最高の抗うつ剤と言えた。ルジオミールでやや危険な副作用は、痙攣発作である。痙攣発作は、抗うつ剤全般にありうる副作用であるが、ルジオミールは、添付書なども注意を喚起してあるほどで、やや他の抗うつ剤より確率が高い。それでも、今まであれほどの処方歴があるのにもかかわらず、痙攣発作が出現したのは2回(2人)だけだ。特に近年では、SSRIの処方が断然増えたので、ルジオミール自体の処方がかなり減っているために、なおさらお目にかからない。あるとき、ある婦人に痙攣の副作用が生じたが、たった65mgだった。量はたぶん依存すると思うが、少なければ安全というものでもなさそうなのである。その後、アモキサンを頻繁に処方する時期があり、現在では、この2つの抗うつ剤は力量はあまりかわらないと思うようになった。この2つの抗うつ剤は、極めて優れた、悔いのない抗うつ剤なのである。アモキサンは、25mgカプセル(赤、白のツートン)、50mg(白のやや大きめのカプセル)を使用している。現在では、アモキサンの処方がルジオミールより断然多い。なぜかというと、ややアモキサンの方が、眠さとかの面で使いやすいことによる。長く処方していれば、アモキサンの方がやや切れ味が鋭いような感覚がある。それと比較的、効果の発現が早い。アモキサンは300mgくらいまで処方できるが、僕はそこまでは頑張らないことが多い。だいたい多くても150~200mgまで処方してうまく行かない時は諦める。その後にルジオミールを処方するかと言えば、そうはならなくて、たいていアナフラニールの点滴をしたり、トリプタノール錠に変更している。


アモキサンはやや難しい薬物で、飲めない人は全然飲めない。なんだかわからない書き方だけど、元の症状が悪くなったような、焦燥感を交えた非常に苦しい状況に陥ることがあるのだ。アモキサンは、抗精神病薬のような抗ドパミン作用をあわせ持つが、診療上、そういう風に感じることはあまりない。が、老人(特に女性)に処方すると、ジスキネジアなどが生じることがあるので、やはりそういう面もあるんだろうね。今更、こんな薬物についてこんな風に書くのはちょっと時代おくれじゃないのか?と思う人もいるかもしれない。しかし現在でも、こんな古い薬でしか良くならない人があんがい多いのだ。精神科の業界では、うつ病ないしうつ状態はよく遭遇する病態であり、しかも最も良く治るのである。うまく行かない人は、他の疾患が混じっているか、治療が徹底して行われていないためだ。僕は友人が何人かクリニックなどで開業しており、どうしても良くならない患者さんの紹介を受けることが多い。なぜ、僕に紹介するかというと、最終的になんとかなることが多いからだ。あと、僕は電撃療法の選択肢もあるため、その治療を具体的に指定して紹介を受ける場合もある。


僕に紹介があった時のパターンだが、パキシル40mgぐらい使ってほとんど良くなっていないと言うのが多い。(というか、パキシル40mgで良くなるくらいなら、最初からうちには来ない)あるいは、3環系あるいは4環系の抗うつ剤がそこそこ使われていてうまくいっていない場合もある。そんなこともあり、僕は、SSRIでうまくいかない患者さんを治療する機会が多い。あと、最初に当院に来たような初診の患者さんで、明らかにアモキサンで良くなるようなタイプの人には最初から使うこともある。SSRIだと時間がかかるし、結局ダメな時、2度手間になるためだ。時間がかかって、なおかつ良くならない場合、患者さんの失望が大きい。若い患者で自殺の恐れがある場合、SSRIだと、鬱がたいして良くなっていないわりに焦燥感を煽ってしまうようなケースもあって、最初からSSRIでの治療が向かないこともある。SSRIは副作用が少ないから良いと単純にはいえない。口渇、尿閉、便秘とか誰にもわかるようなはっきりした副作用が少ないだけで、一見わかりにくい副作用というか、有害作用が潜在的にある。最後にこんなことを言うのは変だけど、当院での最も処方件数が多い抗うつ剤はパキシルなのである。