躁状態と連動する幻聴 | kyupinの日記 気が向けば更新

躁状態と連動する幻聴

躁状態の時期だけ幻聴が出現する人がいる。躁状態でない時は幻聴などない人である。このような人は最終的に躁状態が収束すれば、幻聴も消失することがほとんどである。躁状態が改善してもなお幻聴が残遺する人は、非定型の色彩があるとは言え、本質的に双極性障害とは異なると思う。(この辺りの考え方は診断学にもよる)。

だから、躁状態と連動する幻聴は躁状態の治療が第一の目標であり、幻聴を抑えることは付随的なものである。

何回かの増悪で、いつも躁状態の時期に幻覚(主に幻聴)があるが、寛解すると必ず幻聴が消失する人は、増悪している時期も治療者は比較的プレッシャーがかからないものだ。なぜなら、治療の失敗などありえないから。

だからこそだが、どんな酷い状態でも落ち着いて治療できる。

初診でこのタイプの人が来た場合、酷い躁状態が寛解したときにいかなる状況になるのか、やや予測しにくいが、統合失調症かどうかでその後の趨勢はある程度わかるものである。躁うつ病の躁状態の際には、おそらくこのような感じで寛解するでしょうと家族に伝える。

しかし、統合失調症の場合は、躁状態が落ち着いても幻聴や奇妙な幻覚妄想が残遺する可能性もある。ところが、このように激しい躁状態で発症した場合、非定型色彩を帯びているので、初回に限ればかなりのレベルで寛解することが多い。このタイプは予後良好だと家族に伝える。

結局、家族に対し、あまりにも悲観的なことは伝えないことが重要だと思う。

精神科医は常に楽観的であるほうが良い。

ついつい保身的になり治療の失敗を恐れ、最悪こういう経過になるなどと家族に説明すると、家族は落胆し本人の将来に対し大きな不安を持つことになりかねない。そういう家族の気持ちは本人に伝わるのである。(この辺りに、精神疾患の告知の是非の判断の難しさがある)

また、向精神薬の有害作用についてあまりにも詳細にわたり説明、告知するのも治療トータルにはマイナスになる。それは、薬物療法の有用性やアドヒアランスに相反するからである。

だいたい、激しい躁状態で発病する人の家族は本人と深い絆があることが多い。本人へプラスのサポートになる指導をすべきだし、むしろ、退院後の服薬の重要性などを最初から説明しておいた方がずっと良い。

過去ログにも出てくるが、躁うつ病は何度も繰り返すことが凶なのである。教科書的には、躁うつ病は欠陥症状を残さず寛解すると書かれているが、それは間違いで、繰り返すことでヒトとしてのキレみたいなものが落ちてくる。つまりわずかだが、欠陥症状を残すのである。

長期的には、その人がきちんと服薬するかどうかの方が、大きく予後にかかわってくると言える。

激しい躁状態と幻覚を見ると、ついつい抗精神病薬をメインに治療したくなるが、初期からリーマスを追加しておくと良い場合が多い。なぜそういう心理になるかというと、抗精神病薬は即効性があるが、リーマスはなかなか効果が現われないからである。

リーマスを追加しておくと、最初は何も変わらないが3週間~1ヶ月くらいしたら病状の本質に変化が起こる。だから、リーマスなどの気分安定化薬は最初から追加しておく方が成功率が高いし、結局は早く良くなる。

急がば回れである。

これは別に抗精神病薬を使わず治療するという意味ではない、近い将来に備えて、準備しておくべきということである。リーマスだけ処方して他に何も処方しないなら、本人も大変だし看護者からも苦情が出るであろう。

薬を出しているのに全く改善の様子が見えないのは、治療者としても相当に辛いものだ。躁状態で入院するということは、つまり1型躁転を意味している。

この抗精神病薬は、積極的に大量に処方すべきである。もちろん副作用を見ながらだが、このような躁状態の際は、体も抗精神病薬を受止めるだけの忍容性があり、かなりの量を処方できることが多い。

このような深刻な事態に、中途半端な量で寛解まで時間がかかってしまうことの方が良くない。この多めの抗精神病薬を使う期間が、リーマスなどを併用することで短縮できることが重要である。

セレネース、トロペロンの注射剤やセレネース液も非常に有効である。激しい躁状態の時、セレネースを3~4アンプル筋注してもサッパリ効かないということも珍しくはない。大量に筋注してもなお全く効かないような人は、ECTを実施した方が早く良くなるし、薬物の大量処方も短い期間で済む。結果的にECTの方が安全性がむしろ高いのがポイントである。

ECTをするかしないかは、躁状態の程度というよりその内容による。特に、全く眠らない、薬は飲まない、食事はしない、点滴はさせない、看護者への暴力などが活発にある人は打つ手がない。

全く何もせず、ただ保護室に入れておくことも可能だが、中期的には自然に回復のバイオリズムを待つ感じになる。これは物理的に抑制をしているだけで、治療はしていないので、いわば中世の頃の治療?と同じである。

この場合、現代の薬物療法、ECTなどの優れた治療の恩恵は受けないということになる。

内因性精神疾患は、統合失調症であれ躁うつ病であれ、極めて悪い病状のトータルの時間を短縮することで、広い意味の荒廃を少なくすることができる。だから、中世の頃の治療法が良いはずはない。

躁うつ病は統合失調症と同じカテゴリーに属している内因性疾患であるが、いかに酷い幻聴を伴う躁状態が生じたとしても、寛解したら一般人と区別がつかないようになる。ここが、統合失調症との大きな相違である。また、統合失調症の人も、このタイプの病型は寛解の質が非常に良い。

たぶんこういう流れになる統合失調症の人たちは、遺伝的にはむしろ躁うつ病に近い位置に存在しているんだと思う。だから治療方法が重要なのである。

参考
精神科医的発想とその治療方針について
リスパダール8㎎でも悪いということ
ウェールズ生まれの
非定型精神病の人の彼氏
3人目の女性患者
悪性症候群の謎
ウェールズの人の発症、寛解のパターン(前半)
ウェールズの人の発症、寛解のパターン(後半
リーマス1000mgの薦め
双極2型の激鬱とECT
短期決戦に構える
精神科医と法律家
満田久敏とクルト・シュナイダー