リスパダール8㎎でも悪いということ | kyupinの日記 気が向けば更新

リスパダール8㎎でも悪いということ

新興宗教と統合失調症の話」の続き

彼女はほぼリスパダール単剤で治療されており、しかもたいして効果がなかった。こういう人を紹介で貰うと非常に難しい。その理由は過去ログにも出てくるが、リスパダールは減量が容易でない人もいるからである(参考)。いきなりリスパダールを減量すると空中分解する危険もあるので、リスパダールを残したまま治療することにした。そういうこともあり、高用量の治療になるのはやむを得ない。

彼女はリスパダールのためにかえって良くないというより、リスパダールを飲んでいたのだが、ある日、歪が生じて次第に悪化し泥沼にはまったという印象だった。根本的にリスパダールは彼女には合っていないことは間違いなかった。

まずトロペロンの筋注をメインに強力に治療を行うことにした。できれば幻聴と被害妄想を消したい。彼女にECTをかければ、少なくともこの状況からは改善すると思われたが、幻聴が止まるかどうかわからないし、彼女は薬に対する忍容性が高いので普通に薬物で治療する方針にした。悪いとは言え切羽詰った状況ではないのが大きな理由で、薬に弱かったり、亜昏迷状態に至った場合は選択したかもしれない。

リスパダール 6㎎

に加え、トロペロン4A、を連日実施している。トロペロン4Aはトロペロン16㎎に相当する。(リスパダール液2㎎、セレネース液5ccも希望時に服用させている)

入院数日後
言動にまとまりを欠き、「先生は私のことをすべて知っている。初めて会いますのに・・すべてが信用できないんです。声となって聴こえてきて、どうしてよいかわからなくなっています」などという。病識が乏しく焦燥感も強く面談希望も頻回にみられた。

入院1週間目
ジプレキサ5mgを併用する。その後トロペロンの筋注を2Aと減量し、リスパダール液は中止し実質8mgから6mgに減量し併用。

入院10日目
幻覚妄想は落ち着いてきたが、朝の不快感、猜疑心などが残遺し、本人によればうつ病っぽい状態になった。入院後15日目には、幻聴はほとんどなくなったという。しかし急に体の力が抜けるなどの訴えが見られた。

入院18日目
思い切ってリスパダールを減量する。トロペロン筋注を継続し保険をかけておく。ジプレキサは15㎎まで増量。

この時の主剤
ジプレキサ  15mg
リスパダール 2mg
トロペロン2Aを継続
(コントミン換算1415㎎)


入院25日目
この時期、トロペロン筋注は中止し様子をみていた。彼女は「人が自分のことを話しているような感じがする」など被害関係念慮、憂鬱さ、落ち着きのなさを訴えていた。それらの精神症状は彼女に限ればトロペロンが極めて有効で、時々トロペロンを3A実施していた。当時、これで次第に落ち着いていけばそれで良いと思っていた。

しかし、どうみてもすんなり落ち着くようには見えない。彼女はリスパダールから他剤への切り替えは容易ではないと感じた。

幻覚妄想、焦燥感、胸のもやもや感が落ちつかないので、一時的にリスパダール6mgに戻しジプレキサ20mgを併用し同時にトロペロン2Aを併用している。ところが、ジプレキサ20mg処方してもたいして幻覚妄想、不安・焦燥感を改善せず、結局はトロペロンが必要と思ったので、入院後33日目頃からジプレキサを全面中止し、セロクエル300mgを併用。内服にトロペロンを加えることにした。このような処方になった。

入院後1ヶ月頃
リスパダール 6mg
セロクエル  300mg
トロペロン  6mg
アキネトン  3mg
ヒベルナ   75mg
ソラナックス 1.2mg
アモバン   15mg
更にトロペロン2A筋注
(コントミン換算2131㎎)


時々リスパダール液の要求がみられたが、服用してもたいして病状は変わらないという。体がとてもきつい、また不穏状態になることも多く、セロクエルは合っていないように思われるためやがて中止している。この人のポイントはジプレキサもセロクエルもたいして良くないことである。もちろんリスパダールも同様に良くはない。まだ良いと言える薬物はトロペロンだけであった。

上の処方はコントミン換算値で2000㎎を少し超えている。こういうのも見ても、抗精神病薬の処方量はその人や臨床症状をパラメータとする相対的なものであることがわかる。使うべき時に使わないから予後が悪くなるのである。(参考

セロクエル中止後、コントミン150mg、デパケンRを600mg併用することにした。トロペロンの筋注は1日1Aに減量し継続。

入院35日目
ちょっと不安になります。ちょっと喋りすぎかもしれない。もう少しゆっくりした感じ、穏やかな話し方になりたいですね。少し疲れます。ヘビースモーカーでインスタントコーヒーをよく飲んでいたのが懐かしいです(彼女は一時1日タバコを80本吸っていたらしい)

入院37日目
昨夜は他の人が自分のことを言っているような感じがしてなかなか眠れなかった。独り言、自分で自問自答しているのが異常ではないかと思っています。何か落ちつけない。モヤモヤしやすいですね。今までに○○病院には7回くらい入院したことがある。最高に長く入院した時は10ヶ月でした。

診察中、内容がまとまらず、次から次へ話題が変わる。感情のコントロールが難しいようである。少しずつ落ち着いてきており、入院後38日目からようやくトロペロンの注射を中止する。コントミンにしろデパケンRにしろ悪くはなかった。ようやく減量の方向に向かえるかもしれないと思った。しかし、安易な減量は長患いの原因になるので、この人にとってある程度の薬の重さは必要と思われた。このような難しい人はコントミン、クロフェクトン、クレミンのような古い薬は試みるべきと思う。このような薬が案外良かったりするのである。

入院41日目
看護助手の○○さんから言われたことでとても良かったことがある。「自分が幸せになれない人は、人を幸せにすることができない」と言われた。少し癒された。今日は、チラッと幻聴がありました。コントミンを少し減量しクロフェクトンを併用する。

リスパダール  6mg
トロペロン   6mg
コントミン   50mg
クロフェクトン 50mg
デパケンR   600mg
アキネトン   3mg
ヒベルナ    75mg
ソラナックス  1.2mg
アモバン    15mg
(コントミン換算1236㎎)


入院50日目
かなりゆっくりできるようになった。薬でドーパミンを抑えて効くんでしょう?目覚めは良いけど、人と話していると疲れてきます。退院したらデイケアに出たいと思います。この日、開放病棟に転床させた。

入院57日目
まだどっしり構えられないですね。少し落ち着けないところがある。作業療法に行ってみたら1時間ももたなかった。作業療法の人たちはブラックジョークがあるのではないかと思った。こんな風に思うので、私は団体行動ができないのかもしれない。

この頃から自由に外出させている。アパートに戻るのは少し不安です。(当時、彼女は入院前にアパートの他の住人と被害妄想からトラブルがあった。)

一時、精神病後抑うつと思われる不安感、抑うつ、意欲の低下などがみられたが、2ヶ月目を過ぎる頃にはかなり気分も上がってきていた。時々病状不安定になるためトロペロンを9mgに増量し、クロフェクトンも75mgとする。

リスパダール  6mg
トロペロン   9mg
コントミン   50mg
クロフェクトン 75mg
デパケンR   600mg
アキネトン   3mg
ヒベルナ    75mg
ソラナックス  1.2mg
アモバン    15mg
(コントミン換算1529㎎)


70日目頃
彼女は幻聴はほとんどなくなったけど、時々人から見られている感じが少しだけあるという。夜は寝すぎるほど眠る。邪推することも今はありません。今はうつ病ですね、という。

結局90日目くらいに退院としている。陽性症状を抑え、薬の整理は退院後にゆっくり行うことにした。この減量はリスパダールが絡んでいるだけに容易ではないことは確かであったが・・

なお、この約3ヶ月の入院期間で彼女は体重が2kgだけ増加したが、たいした変化はなかった。上の処方量はずいぶんと多いが、それでもほとんどEPSはなくピンピンしていた。彼女はおしゃれであり、あの処方でも颯爽としていたのである。個人差はこのように大きい。

しかし、だからと言って減量しなくて良いことにはならない。


(続く)

参考
①新興宗教と統合失調症の話
②リスパダール8㎎でも悪いということ
③大事件
④統合失調症とバッチフラワーレメディ