里山と熊鈴と私

里山と熊鈴と私

朝寝坊と山を愛するあなたへ。日帰り、午後のゆるゆる登山。

東北の低山(とかカフェとか)を、ゆっくり、のんびり歩いています。

 そんなわけで、福島県を代表する山、磐梯山(1,816m)に登る。

 いろんな登山ルートがあるようだけれど、熟慮の末、大好きな檜原湖を望める裏磐梯登山口から登ることにする。

 深田久弥先生は、『日本百名山』で磐梯山を、「裏側では表側のような端麗雄大な姿は見られない」とおっしゃっているが…。

 

 長いトンネルを抜け、五色沼に差し掛かると、一気にリゾート感が増す。関東圏のナンバーもちらほら。

 

 デイリーヤマザキで飲料を仕入れ、しばらく進んでスキー場の看板を左に折れる。

 ここから先は、砂利道になる。駐車場まで1.8kmか。

 

 なんてことない道、と思ったら、びっくりするほどのワインディング。でっかい水たまりにハンドルを取られそうになり、これまでに味わったことのないくらいのサスペンション感を味わった挙げ句、ようやくスキー場の入り口に着く。

 

 ゲートは閉ざされていて、登山者は左手の第3駐車場に停めてね、との表示が。

 

 第3駐車場は、未舗装であるものの、50台位置けるくらいの広さ。

 すでに下山してきたオジサマ方が、車の傍らでくつろいでおられた。

 そそくさと準備して、出発。11:02。

 

 しばらくはスキー場のゲレンデを登っていく。斜度はそれほどでもない。ファミリー向けのゲレンデなのかもしれない。

 次第に高度が上がり、振り向けは檜原湖、そして猫魔の山並みが美しい。

 リフトの最上部に至り、ここから本格的な山道になる。

 湿地帯を進む。かなりぬかるむところが多く、道のへりの草地を選んで進む。

 

 11:37,銅沼(あかぬま)着。沼の畔で、南アジアから来たと思しき4人パーティがくつろいでいた。さすがは、世界の磐梯山である。

 ここから、観光パンフレットでもよく見る、有名な沼の景色が垣間見える。

 左手の、池の中の岩の上に載って、ガイドと思しき日本人女性が撮影している。そこがベストアングルなのだろう。

 なかなかどいてくれないので、帰りにチャレンジすることにし、先を急ぐ。

 

 この辺りから斜度が増し、明治の噴火時に飛んできたものか、いくつかの巨石の脇を通り過ぎる。

 

 木製の階段となり、快調に進んでいたら。

 昨夜の雨で、木の表面が濡れていたのだろう。

 

 右足がズルっと来て、踏ん張ろうとした左足も同時にズルっと。

 石か何かの固いものに、左肩をまともに打ち付けてしまった。

 

 山の中で「いったー!」と叫んでしまう。

 

 ひとり、階段に座り込む。あまりの痛みに、一気に脂汗が噴き出す。

 ふう。周りに誰もいなくて良かった。

 左手のひらを握ったり、閉じたりすることはできる。だけど、腕を動かそうとすると、激痛が走る。こんな痛み、久しぶりである。

 

 鳥の声。蝉の声。

 

 あーあ。このまま、引き返そうか、とも思う。だけど、それは何とも情けない。

 サコッシュのベルトに左手を突っ込み、固定して歩けば、なんとか行けそうである。痛いことは痛いけど。まあ、行けるところまで行って見ましょう。

 

 買ったばかりのパーカーは泥だらけ。左手をかばいながら、なんとか進む。ああ、モチベーションがダダ下がりだけど、ここで帰るのは癪に障る。

 

 12:14、八方台登山口からの道と合流。にわかに、家族連れのハイカーが目立ち始める。

 下山者もいよいよ増えてきて、登山道に渋滞が発生することがしばしば。人気の山ゆえ、仕方ないところか。


 12:25,左手の視界が開け、檜原湖やその背後の山々が良い眺めである。

 13:17、弘法清水着。いくつか売店があるようだけど、ハイカーでごった返していることもあるし、左腕の状態も状態だけに、先を急ぐことにする。

 ここから先は、きつい登り。

 13:35,左手が急峻に切れ落ちている場所に出て、ガスの向こうに沼の平が垣間見えた。

 そんなこんなで、一気に展望が開ければ、頂上は近い。足をズリズリ引きずり、岩が折り重なる斜面を一歩一歩。

 登り切って、13:45,ついに頂上着。よかった、よかった。

 頂上には10数人のハイカー。

 

猪苗代湖方面はガスっているものの、全方位の絶景。

 ひととおり撮影したのち、三角点近くの岩場にストックを投げ出し、休憩。

 リュックを降ろそうとするけれど、左腕が痛くて難儀した。イテテテテ。

 

 割と若い人たちが多い。隣には男子大学生のグループ。ひとりが、家におにぎりを忘れて来たらしく、仲間にからかわれている。

 

 そうだ。なんだかんだで、麓からここまでの間、水さえ飲んでいなかった。

 で、グイっとファスナーを開こうと思ったら、

 ファスナーの金具が、パリーン、と。ちぎれてしまったのでした。

 …。

 

 あんれま。

 このままファスナーを開き続けると、二度と閉じられなくなってしまう。

 うーむ。頂上でこれかあ。

 

 泣きっ面にハチとはこのことである。

 これでは、食料も、飲料も取り出すことができない。

 

 まあ、仕方ない。ピークハントはできたのだし、さっさと帰りますか。

 途中でファスナーが開かないように、上下のバックルでしっかり固定。

 背負うのも一苦労。イテテテテ。

 

 テクテク、石だらけの斜面を下りる。

 頂上にも小さな売店があった。おじさんが店じまいするところ。

 今思えば、水でも買えばよかったかなあ、と思う。

ん?だけど、財布も小銭入れも、リュックの中なのであった。じゃ、だめか。

 

 14:06,下山開始。

 心配するほど、腕には響かない。体に沿わせたり、サコッシュに腕を預けたり、痛くない位置を模索しながらの下山。

 

 14:31、弘法清水着。

 塩ビ管から流れ落ちる清水を片手ですくい、いただく。

 

 この手の売店にしてはオシャレな佇まい。

 ここもハイカーが沢山。外国からの方もちらほら。

 

 帰り道は慎重に。でも、2回ほどズルっと来て、その都度、左腕に痛みがピキーン!と。

 思わず、その場にうずくまってしまった。

 

 ニコニコ顔のハイカーと多数、すれ違う。

 みんな、幸せそうである。

 その中でひとり、腕が痛いオッサン1名。必死で、笑顔で会釈する。

 

 15:34,八方台との分岐。ここから先は急に人影が少なくなる。

 森の中をひたすら、歩く。

 登りの際は気が付かなかったのだが、右足にも何らかのダメージを負っていたらしく、膝がジンジン痛んできた。もう、満身創痍。

 

 往路、転んだ地点をソロソロと通過し、16:09、ようやく銅沼到着。

 

 誰もいない。

 

 しずかだ。鳥の声さえしない。

 すでに陽は傾いて、櫛ヶ峰の上端を照らすばかり。

 

 鏡のような水面に荒々しい山体が映し出されている。

 あまりの美しさに、岩の上に傷付いた体を横たえ、しばし休息。

 遠目には、デンマークの人魚の像に見えたかもしれない。そんなことは、ないか。

 

 しかし、この美しさ、しずけさ。

 なんだかんだあったけれど、来てよかった、と思える時間であった。

 

 森を抜け、ゲレンデの最上部にたどり着いたのは、16:30。ふうふう。もう少しである。

 

 振り向けば、磐梯山の山並みが夕日に照り映えている。

 

 とおくから、キーン、と、熊鈴の涼しい音がしてきた。

 ゲレンデの斜面に、しろい人影が見える。

 

 さきほどまでは、ハイカーの多さに、あんなに、人間に辟易していたのに。

 なんとなく、なつかしいような、親しみがわいてくるのである。

 17:04,登山口に到着。駐車場に残っている車は、わずかに4台ほど。

 同じタイミングで下山してきたすぐ隣の車のオジサンが、「お疲れ様~」と声を掛けて下さった。

 片手で片づけを終え、車の中にリュックを放り込んで、自分自身も運転席に放り込む。

 

 そのまま、眠り込んでしまった。

 

 反対隣りに、若者3人のグループが帰って来て、賑やかに後片付けしていたんだけど、目が覚めた頃には、オジサンも、若者の姿もなく。

 

 17:30ころ、出発。遅れて戻ってきた家族連れとすれ違う。小学生くらいの男の子が、手を振ってくれたんだけど、どうにも左手が動かず、ただ会釈するだけになってしまったのだった。

 

 ひたすら、右手だけでハンドルを持ち、家へと向かう。

 あーあ、油断したなあ。明日、仕事だというのに…。

 

 でも。

 素晴らしい景色に出会えた。

 

 ありがとう、宝の山さん。

 うつくしい旅、であった。

(2021.9.19)

 本当は、白鷹山(994m)へ行こうと思っていたのだ。

 だけど、県民の森を抜けたあたりで、立て看板があり、白鷹山は登山道が崩落し、頂上まで行けませんとのこと。(現在は復旧済みです)

 

 あらま。そんなこと、知る由もなく。

 仕方がなく、その隣の東黒森山(766m)に登ることにする。

 

 ものすごく良い天気である。

 台風10号が北上しつつあって、その影響なのかもしれない。まだ、風が強くなってはいない。

 

 途中、ポッコリお山が2つ並び、手前の田んぼと何とも言えない、「正しい日本の田舎」を体現している景色があって、思わず車を止めて見入ってしまった。

 県民の森中央広場には、家族連れ、そしてバイクツーリストの姿がちらほら。

 やたら沢山あるトイレ。なるべく木陰に駐車し、そそくさと準備を済まて、大沼の方向へ歩きだす。13:02。

 湖面の向こうにポッコリした東黒森山が見える。わが県で言えば、薬莱山(553m)くらいの位置づけなのかもしれない。

 えーと、車道を右に折れて、みこくぼ林道に入る。

 程なく西登山口着、13:16。

 わあ、登りやすい道。小さなお子様でも楽々、登れるでしょう。

 今日の脳内BGMは、コリーヌ・ベイリー・レイ(Corinne Bailey Rae)のファーストアルバム、その名も『Corinne Bailey Rae』。井森美幸のファーストアルバム、『井森美幸』みたいなもんか。

 

 しかし、このアンニュイな歌声。「すいません。寝坊しました。」って、定時を過ぎてから電話を寄こす、某女子社員並みの気だるさ。

 

 これ、ジャンル的にホントにソウルなのかな、ってくらい、オーガニックで温度が低い。「さとり世代」って、こういうことか。って思っていると、ようやく、3曲目の「Put Your Records On」や「Trouble Sleeping」のサビでチラチラと、ソウルの炎が灯り始めるのが、良い。

 

 山の話でしたね(笑)。

 

 木の葉でふかふかしていた山道は、段々石混じりになる。つづれ坂を何度か折り返していたら、あれっ?と思うくらい、あっさり頂上に。13:34。

 

 ふーむ。眺望は、・・・ない。

 ガイドブックによると、立派な展望台があるはずなのだが、どこにも見当たらない。

 木製の小屋はあるのだが…。後で調べたら、破損したため撤去されたようだ。

 茂みの間に、コンクリの土台が残るばかり。今日、2回目のがっかりである。

 

 もう、山頂滞在時間1分程度で、下山開始。直進して、東登山口方面に。

 これまた、全く危険のない道で安心である。ところどころ、それこそ薬莱山ばりに木製の立派な階段がついている。

 

 13:50、家族広場の看板が見え、登山口着。

 結局、無補給・無休憩でひと山歩いてしまった。

 そのくらいカジュアルなお山である。

 

 ここは、みこくぼ沼っていう沼のほとりが整備されていて、休憩所やトイレなんかがある。

 じつに見事に整備されていて、気持ちの良いところである。

 幼い子を連れた若い夫婦が、のんびり過ごしていた。

 他には誰もいない。

 

 邪魔しないように、静かに沼のほとりまで降りてみる。

 沼を反時計回りに巡る道もあるようだが、誰も歩かないようで、茂みが濃い。

 あきらめて反対方向に。

 

 誰もいない。大沼に比べ、実に静か。良いところである。

 日差しは強く、ミンミンゼミの声が喧しい。

 

 林道に出て、このまま歩けば大沼方面に出ると思っていたのだが。

 10分程度歩いたところで、あら?何かおかしい。

 

 グーグル先生に聞いたところ、このまま歩いても沼方面に行けなくもないが、とんでもなく遠回りである。仕方なく、来た道を戻る。今日3度目のがっかり。

 

 なつかしい、みこくぼ沼まで戻り、ちょっと休憩。木陰のベンチで遅い昼食。

 そういえば、あんまりがっかりしたんで、頂上で昼食を食べるのをとんと忘れていたのだった。

 さっき、途中のカワチで仕入れたウーロン茶でのどを潤す。

 

 標識に従い、沼の右側にある山道をちょっと登って、井守沼方面へ。

 途中、大沼を周回する舗装道路に出る。

 オッチャンがほとりでワゴンの脇にテーブルを並べ、静かに涼んでいた。

 

 と、「展望台」なる看板に誘われる。再び山道に入り、しばし登る。

 踏み跡はあるのだが、道の真ん中に蜘蛛の巣が張っていて、しばらく人は歩いていない様子。

 

 途中、道は2手に分かれていて、完全に勘で右の道を選ぶ。

 どうやら正解だったようで、20分弱で、展望台、着。

 展望台…。木製の展望台があるのだが、老朽化のためか使用禁止。それに、周囲の木立が元気に育っていて、たとえ登れたところで、十分な展望は望めなかっただろう。

 今日、4度目のがっかり。今日は万事、この調子か。

 

 こんな、素晴らしく気持ちの良いホリデーにしては、人影はさほどでもない。

 もはや、県民の森なんていうのは、オワコンなのかもしれない。

 

 考えてみれば、県民の森とか、少年自然の家なんていうのは、小学校高学年の時に、義務的に合宿させられて、いつ果てるとも知れぬオリエンテーション、生木を燃しちゃったんで目鼻を直撃する大量の煙、たいして仲の良くない奴と組まされて作らされるしょっぱいカレー、軍隊なみにやたらと厳重に指導される布団の畳み方、などなど、どちらかというと、二度と来たくない、そんな場所なのではなかろうか。

 

 そこに現れて、喜んで山道を行ったり来たりしている、県外ナンバーのオジサン1名。山形県民には、たいそう奇妙な存在に映ったかもしれなかった。

 

 しきりに井守沼広場への案内看板が誘うもので、右に折れてちょっと向かってみる。

 だけど、どうしても沼の姿は発見できなかった。

 

 その代わり、この道からの大沼、そしてその向こうの山の姿があまりにも美しく。寄り道してよかった。

 サイクリングロードを歩く。歩いてよいのか、良く分からないが、他に道が見当たらない。

 

 誰も走っていないし。この道も、かなり厚く苔むしていて、滑る。ここをチャリンコが走るのは、かなり危険なんじゃないかなあ、と思わせる。

 

 16:04、大沼神社着。まずはお参りを済ませ、左側に湖畔に降りられるところがあるようだ。ブロック塀の下に、湖面ギリギリまで降りられる足場を見つけ、ソロソロと。スマホ、あるいは自らを湖中に投下しないよう、慎重に進む。これ以上、「がっかり」はしたくないものである。

 

 ふーむ。ここからの景色も美しい。

 すでに傾いた日差しが、キラキラ湖面に光をまき散らす。

 しずかだ。

 

 なんだか調子が狂っちゃったことが多い旅であった。でも、青空と水、緑が織りなす「美」を堪能できたので、まあ、よしとしましょう。

 

 山形側でもう1泊しようかとも思ったけれど、台風の影響がちょっと気になるし、第一、くたびれた。このまま、おとなしく関山峠を戻ることにいたしましょう。

(2020.9.6)

 なぜ、今まで気がつかなかったのだろう。

 山歩きで、扇子を使い始めたのは、一種のイノベーションである。

 

 夏の低山歩きで、何がつらいかというと、足の疲れでも、日差しの強さでもなく、両目に容赦なく飛び込んでくる羽虫さんたちである。

 

 以前は帽子で追い払っていたのだけど、扇子をパタパタすれば涼感を得ることもできるし、一石二鳥である。うちわに比べコンパクトに折りたためて、お尻のポケットに突っ込める。

 

 それに、扇子は、万一、山の中で誰かにお世話になった時、プレゼントにもできる。

 なので、何本か、リュックの底に入れてあるのです。

 

 実はひとつ、思い出があって。

 

 昔、独りで西ベンガル山中をサンダクプー(3,636m)目指して歩いている時、体調を崩してしまい。そのとき、見ず知らずのネパール人の家族にすごく世話になったのだった。

 

 お礼に、何か差し上げようとしたのだけれど、生憎、折り紙すら持っていなかった・・・。結局、日本から持って行った、ウィダーインゼリーを1袋、差し上げることしかできなかったのが、いまだに心残りなのです。

 

 もし、外国人トレッカーさんと知り合ったら、プレゼントできるように、こーんな、いかにもジャパンな感じのを携行するのも、一興でしょう。

 そんなわけで、夏の山歩き(そして海外登山)では、扇子の携行を、強くお勧めします。

(2024.5.19)

 そんなわけで、後烏帽子岳(うしろえぼしだけ・1,681m)に登る。

 今日も、ゆっくりとした出発。

 途中、釜房湖手前でまさかの渋滞。結構、時間をロスした。

 

 遠刈田の街中を抜ける。

 温泉場は、なかなかの賑わいである。県外ナンバーもちらほら。

 

 11:30、えぼしスキー場の駐車場着。

 本当は、ここから頂上まで徒歩で登れば、本当のアルピニストの称号を得られるのかもしれないが、まあ、積極的に妥協してゴンドラで途中まで行くことにする。

 

 山も、人生も、そんな感じです。

 

 それにしても、レストハウスは閑散。あんまり賑わっていない。草サッカーにうち興じる若者数名と、後烏帽子に行くハイカーらしい、若いカップルのみ。

 

 よく見ると、入り口付近の小屋に張り紙がしてあって、16時にゲートを閉鎖するとのこと。あら。では、あんまりゆっくりもしていられない。

 11:40、2Fのレストランで片道720円のチケットを買い、ゴンドラ乗車。

 係のお兄さん2名は、いかにも暇そうである。

 下界は良い感じに晴れてたけれど、山頂付近は雲に覆われている。

 まあ、こんな日もあるでしょう。

 

 途中、「千年杉」っていう表示があって、慌ててゴンドラの半開きの窓から手を出し、シャッターを切る。

 

 うーむ。このどこかに千年杉様が写っているはずである。

 

 11:54,ゴンドラの終着駅着。

 冬場はここから2本のリフトを乗り継いでいけるのだが、今は休止中のこと。

 登山口に至るには、この、ゲレンデの急斜面を、登っていかなければならない。

 

 ゴンドラのオジサンに、声をかけられる。

 帰り道は、歩いて下山するのだ、と言うと、「気を付けて」と、あっさり送り出される。

 

 装備、体格、人間性(?)を総合的に勘案して、おそらく大丈夫だと思われたのだろう。オジサンの信任を得て、登山開始。

 

 先行するカップルを追うように、草が生い茂る斜面を登る。

 これが、結構、キツイ。なかなかの斜度。最初から体力を削られてしまう。

 

 でも、振り返るとどんどん景色が良くなり、慰めにはなる。

 今日が曇り空で良かった。ピーカンだったら、こんな野っぱらの中、太陽の直接攻撃を避けられないところであった。

 

 わき道に入り、リフトと並行するように登る。だんだん、天候は回復傾向。

 ゲレンデの緑が美しい。

 

 とうとう、リフトの終点まで登りつき、やっとここから本格的な登山が始まる。

 右手の登山口から登り始める。12:29。

 木の根とゴツゴツした岩が露出する、わりと平坦な山道。

 ササが両側からせり出して、時折かき分けながら進む。

 12:37,1本目の涸れ沢を横断。

 森の中の道がしばらく続く。


  12:43,2本目の涸れ沢を通過。

 この辺から、傾斜が急になり始め、道が階段状になる。

 

 このコースはそれなりに人気があるせいか、そこそこ道は整備されている。

 小学生くらいなら、余裕で登るだろう。

 

 それにしても、あまり、人に出会わない。

 中年の夫婦連れと、ベテランらしき初老の男性とすれ違う程度。

 鳥の声と、先行するカップルの鈴の音が遠く聞こえるばかり。

 

 今日の脳内BGMは、ナタリー・インブルーリア(Natalie Imbruglia)の『Counting Down the Days 』より「Sanctuary」。

 

 このアルバムの中では、ブリティッシュ・インヴェイジョン的な、ノスタルジックなイントロが付いた、比較的、ロック色の強い1曲。

 

 イントロとAメロの6拍子に意表を突かれる。

 サビの「アーアー!」からは4拍子なんだけれど、途中のヴァンプが6拍子+2拍子ってなる部分もあって、それなりに凝った作りになっている。

 

 で、ナタリーさんはデビュー作「torn」の世界的ヒットでそれなりに著名なんだけれど、英国で活躍中の女優さんでもある。ローワン・アトキンソン主演の「Johnny English」にも出ていた(あれは、ひどい映画だった・・・)。

 

 山の話であった(笑)。

 

 12:54,「八合目」との看板があった。ご親切に、どうも。

 13:08、「九合目」。もうすぐ頂上だ。ふうふう。

 前方がかなり明るくなってきて、すわ、頂上か、と思うと、まだ道は続いている。

 なかなかな焦らしっぷり。

 

 足が、かなり、重い。先週の吾妻山系での疲れが、まだ残っていたのかもしれない。

 

 うんとこせ、と、13:20,前烏帽子岳へ向かう道との分岐。

 それをまっすぐ進み、13:22、頂上(1,681m)着。

 やはり、霧に覆われ、視界は効かない。

 食事中のカップル以外、誰もいない。

 邪魔しないように、そうっと撮影。

 

 短い時間だったけれど、刈田岳方面の霧が晴れて、目の前の屏風と、遠くの蔵王山麓の稜線を垣間見ることができた。

 お揃いのTシャツを着たカップルは、「イエー」とか言って盛り上がっている。

 女性は、医療関係の方らしく、彼氏の様子をトリアージして、「脱水状態に近い」とか宣っている。楽しそう。

 

 チクショー!!

 

 なあんて歯噛みしていても仕方ないので、13:32、麦茶を数口含んだだけで、とっとと下山しましょう。

 

 前烏帽子岳方面に向かう。さっきまでと違い、さほど整備されていない道。

 でも、静かで気持ちの良い道である。

 

 唯一懸念すべきは、クマさんとの鉢合わせ。

 熊鈴を必要以上に鳴らして、先を急ぐ。

 

 何度かアップダウンすると、ゴツゴツした巨岩が目立ち始める。

 標識のある三叉路を右に折れると、ほどなく巨石が林立する、前烏帽子岳山頂(1,402.1m)。14:06。

 

 わあ、断崖絶壁。足元がゾクゾクする。下から、霧が吹きあがって来て、相変わらずあまり視界が効かない。

 ここで、さっきカップルに遠慮して摂り損なったお昼ごはん。

 岩の割れ目に、なんとか腰かける場所を探し、さっきセブンイレブンで買った菓子パンを食する。

 

 と、紙パックのグレープジュースが手から滑り落ち、うっかり谷底へ、

 と思ったら、1mほど下の、崖の途中の木の根に引っかかった。

 

 ふーむ。山の環境維持のためにも、なんとか回収したい。

 まるで修行者のように、崖から頭を出し、えいっと手を伸ばす。こわ。

 

 ふう。良かった。無事回収できました。

 

 おや、ちょっと雨がパラついてきた。

 そろそろ移動しましょう。14:18。

 

 スキー場の方へ、鋭角的に曲がった道を下る。かなりの急傾斜。なかなか、膝に来る。ストックを持って来ればよかったと、後悔。

 

 15分くらい歩いた。ガイドブックによれば、この辺りにゴンドラ駅へと向かう分岐があるはずなのだが、出会うこともなく。 さっき、ロープで結界がしてあったけれど、あれがその道だったのかな?とすると、現在は使用されていないということか。

 

 では、このまま進むしかない。

 霧の中、黙々と歩く。たまに出会う巨木が、異世界感を漂わせてくれる。

 道端に腰かけて、「やあ!」と声をかけてくれたような巨木さん。

 15:07,と、途端に巨石群が現れる。ほとんど、人工的ともいえるような積み重なりようで、避難場所に使えそうな洞穴もあった。

 と、思うと、これも古代の遺跡かと思えるような、いかにも人工的な、平べったいテーブル状の岩。

 このあたりから、だんだん水の音が強くなってきた。

 15:27、沢のほとりに出る。

 霧の中、苔むした石が美しい。

 水をすくい、二の腕まで振り掛ける。実にひんやり。

 思ったより流量が豊富。だが、道は沢の向こう岸に続いている。

 

 渡渉できるポイントを探す。ちょっと上流に戻って回り込み、なんとか飛び石を渡る。

 長きに渡る下山で、かなり足に来ている。

 

 ガクガクとおぼつかない足を何とか奮い立たせ、向こう岸に到着。

 

 15:40、前烏帽子岳への登山口着。

 来るときは気がつかなかったのだが、ここに半円状の駐車スペースがあり、10台くらいは停められる。

 

 えぼしスキー場の門限が気になる場合は、ここに車を置いて行くのも良いのかもしれない。

 

 舗装道路をエッチラ歩く。途中、千年杉コースへの入り口があった。

 わりと整備されていて、ファミリー向けなのかなあとも思う。

 さっきの、前烏帽子岳山頂直下の、スキー場への分岐、あそこが解明できれば、このコースを使って下山するのもありかと思う。

 

 そんなこんなで、15:52、えぼしスキー場の駐車場に到着。

 なんとか、門限に間に合った。

 見事に小生の車だけが、ポツンと待ってくれていた。

 

 誰もいない。

 係のお兄さんが、緩慢な仕草で「営業終了」の看板を掲げに来た。

 

 16:30、遠刈田温泉着。さすがに夕暮れ時、観光客の姿はまばらになっていた。

 

 どこかでアイスコーヒーでも飲もうかと、神社手前の無料駐車場に車を置く。

 ここには「空カフェ」さんとか、有名なカフェがあるのだが、いずれもすでに営業時間外。開いていたとしても、観光シーズンゆえ、激コミであったろう。

 

 頼みの綱、商店街の中の台灣喫茶 慢瑤茶(まんようちゃ) さんも、本日は臨時休業とのこと。あらま。残念。

 

 仕方なく、町中をうろうろ。

 

 立派な蔵王大権現の鳥居。

 新しくできたらしい、小洒落たパン屋さん、「BRING」。へええ、ドイツ仕込みなんだそうだ。美味しそう。

 橋から山のほうを見やると、やはり、相変わらず雲に覆われていた。

 その反対方向の青麻山方面は、すっかり晴れている。

 

 青麻山も、標高は低いけれど、蔵王の山々を望む眺めは格別であるようで、いつか挑戦したいと思っているのだけど、車を駐車できるスペースが限られているのが難点。これも今後の宿題である。

 

 風が涼しくなってきた。

 目つきが色っぽい、遠刈田こけしさんの巨大なオブジェに別れを告げる。

 後烏帽子岳頂上での展望は望めなかったけれど、しずかで、良い山行きだった。

 頂上から芝草平方面に向かうとか、その途中で股窪方面に右に折れ、澄川と平行にスキー場まで戻ってくるコースとか、色々バリエーションがあるようだ。

 

 またいつか、来てみたい。

(2021.7.25)

 水晶山からの帰り道。さて、と。

 ここから15分ぐらいで、あの、「ジャガラモガラ」に着けるようだ。せっかくなので向かってみる。まだ陽は高い。

 

 特異な植物相で知られる、風穴群。昔、学研マンガかなんかで紹介されていたのを読んだ、ほのかな記憶がある。

 

 食事処がある記念館風のところから、舗装されている狭い小道に入っていく。

 これまた、対向車がないことを祈るばかり。

 

 ジャガラモガラは、雨呼山の中腹、570mの地点にある。林道をソロソロ進む。ところどころに路側帯があるものの、とうてい、すれ違えない幅の道。

 

 とうとう、あと少しで到着というところで対向車が。山形ナンバーの、老夫婦だった。50mほど、後退して道を譲ってくださった。感謝。

 

 林道の舗装道路の終点、駐車場には10台ほど駐車可能。

 まだ15:30過ぎではあるけれど、山の中はやや、薄暗がりになってきた。

 「至 ジャガラモガラ」っていう標識があり、小道が森めがけて伸びている。ここからちょっと急ぎ気味で歩く。

 若干のアップダウンを経て、15分ほどで、ジャガラモガラ着。

 

 えーと、うっそうとした茂みに覆われた窪地。

 とりあえず、看板があるので、そこと知れる程度。

 窪地の底に風穴があって、真夏でも冷たい風が吹くので特異な植生を呈しているのだとか。

 春の訪れが遅く、植物の垂直分布が逆になっているなど、学術的にも貴重な場所とのこと。

 

 植物の保護目的の結界があるギリギリのところまで降りてみる。

 なるほど、高山植物がチラホラ咲いている。

 

 風穴らしいところがあって、手を差し入れてみると。

 確かに、冷たい。というか、寒い、って感じられるレベルの風である。

 傍らに温度計が設置してあって、外気温度は26.8℃、風穴の温度はなんと、4.7℃であった。

 個人的には、この温度計の「CHINO」っていう聞きなれないメーカー名に関心が及んだが…。

 

 それにつけても、ここは姥捨て山だったという伝説もあるくらいで、なんとなく不気味なところである。さて、とっとと引き揚げましょう。

 

 駐車場に案内図があって、ちょっと降りたところに展望台があるようだ。

 2台程度、車を置ける場所があって、そこに停めた途端、対向車が。でかい外国車だった。乗っているのも、イカツイ感じのおとうさん。良かった、このまま進んでなくって。

 

 5分も登ったろうか、杉林が刈り払われて、立派な四阿からの景色はなかなかのものである。

すでに西日、ちょっと曇り気味にはなっているけれど、雲間から差し込む日差しは、相変わらず強い。

 天童市街のはるか向こうに、月山、朝日連峰、白鷹山、飯豊連峰なんかが見渡せる。

 葉ずえが、川面が、民家の屋根の太陽光パネル(笑)が輝く。

 

 小旅行の最後に、ちょっとしたご褒美をもらえた。

 

 坂を下っていたら、さっきの外国車に乗っていたイカツイお父さんがふうふう言いながら登ってきた。とすると、ジャガラモガラまで行ってきたのではないようだ。

 

 会釈したら、「この上に何かあるの?」とニコニコしておっしゃる。展望台があることを教えてあげた。あのオトウサンにも自信をもってお勧めできる景色なのだ。

 

 寄り道しつつ、48号線を戻る。

(2020.8.16)

 ちょっと遠出をしようということで、R48を山形方面に。

 県境を越えてしばらくすると、右側が開け山形の名だたる名山が顔を出す。

 

 48号線沿いにローソンを発見し、そこで昼食を買う。

 向こうに水晶山(667.9m)が見える。

 ちょっと歩いて山の姿を撮る。

 向かって右、西側はなだらかな裾野で、おそらくここが登山コースなのだろう。東側はやや、急に切れ落ちている。

 

 カーナビを取り替えて、初の遠出。

 ちょっとボタン類がちゃちなような気もするが、十分に使える。すでにカーナビなしに生活できない自分に気づく。

 

 そんなこんなで、ゴルフ場付近の石鳥居を過ぎると、すれ違うのが難しいような一本道。

 ちゃんと舗装はされているが、時折、両脇に伸びた草が車体を撫でていく。対向車が来ないよう祈りつつ、進む。両脇は果樹園になっていて、心なごむ風景である。

 

 それにつけても、山形といい、福島といい、フルーツ大国の名をほしいままにしているのに、我が県の体たらくといったら。単に、気候のせいばかりにもできないような気がする。

 

 12:36、駐車場着。「登山者駐車場」となっていて、気兼ねなく置けるのが良い。砂利敷きで10台は置けそうである。後で分かったのだが、ここからさらに進んだ道路脇にも10台程度置けるスペースがある。

 えーと、何かの農村整備モデル事業で建てられたらしい、立派なトイレまで整備されている。やや虫は入り込んでいるものの、その清潔さに好感を持った。

 さてさて、炎天下の中、出発。車道をちょっと歩くと、「水晶山入口」の標識がある。

 ここは川原子登山口、というのだそうだ。

 すぐに見えてくるのが、二神仏石碑。葉陰に隠れそうな、小ぶりな石碑。

 この山はかつて、信仰の山であった模様。大権現、そして観音様について刻まれているようだ。1817年というから、江戸後期に建立された模様。

 

 この山の開山は702年とか。

 この辺りには、大小の寺院がかつて建てられていたようだ。今は、昔日の面影は知る由もなく。

 

 蛇行する車道を離れ、まっすぐに続く山道に入る。山頂まで1,830mとのこと。まあ、それほど苦労はしなさそうだ。

 

 今日の脳内BGMは、スティーリー・ダンのギタリスト、ウォルター・ベッカーの『11の心象』(11 tracks of whack)。「心象」なんて、生易しい内容の音楽ではないが・・・。

 

 「lucky henry」は、はじめ変拍子かな、と思ったけれど、よくよく聴くと4/6拍子みたいだ。6拍目を16分音符でクッてるので、複雑なリズムに聴こえます。

 

 ベッカー先生は、歌がヘタだと言われるけれど。個人的には、このアメリカンに乾いた感じが、嫌いではないのです。それにつけても、同様にヘタウマなドナルド・フェイゲン先生とのコンビで、あれだけの音楽を構築したんですから、凄い存在ですよね。

 

 山の話でしたね。

 

 杉林をしばし歩くと、山姥さま2体に出会った。唇には紅までさしておられる。

 ちょっと手を合わせ、先へと急ぐ。

 

 六角堂を過ぎた辺りから斜度が増し、山登り、という雰囲気になってくる。

 

 だがそんなにきつくはない。小さい子でも頑張れば登れるだろう。

 七曲がり、っていうジクザグな道を抜ければ、13:14、見晴らし台着。ちょっとしたベンチなんかがあって、一方向に視界が開けている。

 眼下に街並みが見える。いつの間にか、そこそこ、登ってきたのだった。

 5分くらい登り続けると、滑石、っていう地点。

 所々に、すべすべした石が露出していて、なるほど、このまま踏んだのでは、角度によってはツルンと行くだろう。

 

 要は、石以外の場所を選んで登ればよいのである。

 

 そんなこんなで、道が平たんとなり、水晶山神社の祠が見えてきた。

 871年に大和朝廷から従五位下の位を授かった利神、なのだとか。小ぶりな木造づくりの瀟洒な佇まいである。

 

 ここには眺望はなく、頂上はその裏の、ポッコリした岩石の上であるようだ。

 裏側に回り込むと石段があって、そこを登りつめれば石造りの奥の院。

 左側に道が見えたんで、そこの崖を登りつめれば、頂上。13:29着。1時間ちょっとで到着。

 ゴツゴツした岩場で、片方が切れ落ちて視界が広がっている。

 なかなか良い眺め。黒伏、面白山などが見渡せる。

 日差しは強いけれど、吹き抜ける風が心地よい。

 しずかである。そういえば、ここまで、誰にも会わなかった。

 

 山の由来は、ここで水晶が採れたからだそうだ。

 道すがら探したのだが、それらしいものは見つからなかった。

 

 だけど、山頂の標識の足元に、なにやら白い石があって、これが水晶であるようだ。誰かが、ここに置いてくれたのだろう。

 さてと、手ごろな石に腰かけて、昼食にしましょう。ふもとのローソンで買った麦茶は、まだ冷えていた。

 

 しばらくのんびりしていたら、背後から中年の夫婦が登ってきた。

 リュックを背負い、場所を開ける。このまま直進すれば猪野沢口に降りていくのだが、そこから車道を延々歩いて川原子登山口まで戻るのは遠慮したい。

 

 とりあえず、ちょっとだけ降りて、修験道の霊窟であった「御室」へ。

 なるほど、岩石がせめぎ合う中に洞窟が覗けた。なんとも不気味な雰囲気である。

 そこから神社方面への道があるようだ。神社経由で、川原子まで戻ることにする。

 見晴らし台でこれまた中年夫婦に会った以外は、特にこれと言ったことも起こらず。

 

 14:44、六角堂を過ぎ、かつて西の院があったあたりを歩いてみるも、その痕跡を見つけるのは容易ではない。ただただ、杉林がうっそうとするばかりである。

 森の中の一本道を抜け、懐かしい駐車場に着いたのは、14:47。

 ちと物足りない感もしたけれど、今年度最初の山歩きとしては、このくらいが妥当だろう。

 

 車の中が猛烈な温度になることを覚悟していたのだが、上手い具合に木陰になってくれていたようで、それほどでもなかった。

 

 しばらく天候不順だった昨今、久しぶりの日差し。日向ぼっこしながら、さっき山頂で食べ残した菓子パンを平らげる。

 

 なかなか、味わい深い里の山であった。

 

 寝坊しても楽々、日帰りできること。

 しっかりした駐車場があること。

 山頂に、そこそこの展望があること。

 

 この3条件を満たす山を目指すことをコンセプトに、東北の短い夏を味わいたい。(2020.8.16)

 さて、今日も良い天気である。

 こんな日は、なるべく仕事のことを考えずに済むように、山にでも参りましょう。

岩手方面、と考えたんだけど、雷注意報が出ている。そこで、山形方面へと切り替え。

 

 甑岳(こしきだけ・1,015m)へ。村山市のソウル・マウンテン(?)である。

 48号線を西進し、村山市に着いたのは11:30過ぎ。

 いつもの通り、とてもゆっくりしたスタートである。

 

 それにしても、小っちゃくて静かな町。向こうに甑岳が見える。

 土蔵造りもちらほらしていて、昔ながらの情緒を感じる。街歩きをゆっくりしてみたいものである。

 

 東沢バラ園に車を置き、では、出発、といいたいところだけど、どちらへ進めばよいのか、良く分からない。当てずっぽうで、立派な舗装道路を登っていく。

 

 本日の脳内BGMは、ネオ・ソウルの女王、エリカ・バドゥの『ママズ・ガン』(Mama's Gun)より、「Didn't Cha Know」。エリカ様におかれては、リリース当時は小生も若すぎて、「ふーん。」ぐらいしか認識してなかったんだけど。

 

 久しぶりに聴いて、良くも悪くも「熟成」したオッサンの耳に、実に心地よく響く。

 確かに「妖艶」ではあるけれど、シャーデーとかより明るく無邪気な感じ。

 

 何というか、夕べ、大喧嘩しても、朝起きれば機嫌が直っていて、一緒に、さやいんげんの筋取りを手伝ってくれる女性のような(?)、そんな、性格の良さそうな声である。

 

 えーと(笑)、山の話であった。

 

 ほどなく、「甑岳登山入り口」っていう手書きの看板があり、どうやら正しかったようだ。そこを左折し、果樹園の中を登っていく。

 にしても、のどかなところである。貯水池と思われる施設の脇を抜け、林道を伝って森に入ると、ほどなく、登山道の看板が迎えてくれた。

 

 左わきに沢が流れていて、ここを直進するのか、と踏み入れた途端、

「ワンワン!」と物凄い勢いで吠えられた。5~6匹が物凄い勢いで向かってくる。

 

 すわ、野犬かと身がすくんだが、どこかのブリーダーさんが飼い犬に水浴びをさせていたらしく、「こらこら!」と犬たちを呼び戻してくれた。

 

 ふう。びっくりするなあ、もう!

 

 12:34、ここが本当の林道の終点らしく、丸木橋を渡って、本格的な山道へ。

 ふうふう。割ときつい道。いや、傾斜はそれほどでもない。小生が疲れているだけかもしれない。それとも、土日、実家でゴロゴロしていたので、筋肉が寝静まってしまったのかもしれない。

 

 ちょっと行くと、清水が流れ落ちるところがあった。さっと手を洗い、唇を潤す程度にする。おそらく、飲んでも構わないのだとは思うが、小生は、手書きの「飲めます」という親切な表示より、製造元/(株)コカ・コーラボトラーズと書かれた表示を崇拝する質である。

 

 ちょっと歩いて考えたのだが、では、「飲めます/(株)コカ・コーラボトラーズ」としっかりしたアクリル板に、印刷表示してあったら、迷うことなく飲んでしまうだろうなあ、と思い至り。

 

 自らの権威主義的性質に呆れつつ、さて、坂道をじりじり進む。

 

 12:55、馬立沼着。

 ふーむ。小さな、ちょっと濁った沼。周囲はうっそうとした森に覆われている。

 

 栗林を抜けていく。だんだん前方に光が増し、稜線が近いことを教えてくれる。

 だが、なかなかハチカ沢コースとの合流点に着かない。

 

 ふうふう。足が重い。どうも、今日は調子がイマイチである。ほぼ3分おきに小休止しながら、なんとか進む。

 

 13:25、合流点着。

 この辺りから展望が開けはじめ、宮城との県境に屹立する山々が視界に入ってくる。

 13:51、徳内坂、とかいうところに。標高940m。

 最上徳内さんっていう、郷土の探検家に由来している模様。

 それにしても、この表示の標高、本当に合っているのか?

 

 14:00、ガイドブックに「すばらしい展望」と書かれてあった場所に。

 確かに。

                                                          

 「すばらしい展望」!!

 村山の街並みや田畑はもとより、その向こうの葉山、月山、鳥海などなどが素晴らしい。

 ちょっと元気になった。

 

 なんとか力をフル稼働させ、14:04、頂上広場着。

 石造りの祠、簡素な表示、そして最上徳内先生を称える碑があった。

 ここは1004m、本当の頂上はもう少し先である。

 ま、眺めも良いし、ここで昼食にする。西側、東側が大きく開け、主要な山々はほとんど見渡せる。天気も素晴らしい。

 

 と、どこからともなくFMラジオの音がする。

 新山登山口から登ってきたらしい、ご老人がひとり、2本ストックを突いて登ってきた。

 

 軽く会釈。2人とも、終始、無言である。

 女性DJが語り終え、番組のエンディング曲と思われる、80年代っぽい、ライトなインストが山頂を彩る。ジャジーなピアノソロが、この景色になかなかマッチしている。

 

 おじいさんは、こちらに遠慮したのか、ものの数分で下って行ってしまった。

 

 さて、リュックを背負い、山頂へ。

 14:46、10分足らずで着いてしまった。

 予想通り、何もない。木々に覆われ、眺望もない。手書きの木製看板と、三角点があるのみである。

 

 さて、このまま直進して新山登山口に向かおうか、とも思うけれど、ちょっと今日は疲労度がいつもより重たい。林道をぐるっと、バラ園まで延々歩くのはいかにもしんどい。

 来た道を戻り、ハチカ沢コースを目指すことにする。

 

 15:24、分岐点を直進し、ロープが張ってある急坂を降りる。

 下から、これまたおじいさんが登ってきた。

 

 会釈をして、すれ違おうとしたら、おじいさん、

「こんちくしょう!」と一言、手ぬぐいを振り下ろす。

 

 怒られたのは小生ではなくて、オジイサンにまとわりつく、羽虫なのだった。

もう、今日はびっくりさせられることが多い。

 

 と、表示を見たら、この坂の名前は、「苦楽ノ坂」なのであった。

 

 16:12、ちょっとしたピークがあって、甑岳の全体が良く見える。

 素晴らしい眺めである。

 この先は、難路。とにかくガラで覆われていて、どんどん滑る。ロープにしがみつき、そろそろ降りる。16:53、なんとかかんとか、突破した。

 おだやかな道となり、林道に接続する三叉路に。

 沢までたどり着き、岩神コース登山口に着いたのは、17:04。

 ここにも、3~4台ぐらい停められるスペースがあったのだった。

 

 両足の小指が痛い。下り坂で、踏ん張ったせいだろう。


 往路では気づかなかったのだが、赤い鳥居があった。山の神 聖徳太子尊 なる碑がある。

 関西に住んでいた頃は、よく、こういう祠を見たが…。

 東北における聖徳太子信仰っていうのは、どのようなものだったんでしょうね。

 

 しずかだ。懐かしい貯水施設、そして果樹園。

 振り返れば、のどかな山の姿。

 

 なんとなくだけど、山形県の里山は、優しい。

 月山の向こうに陽が沈もうとしている。

 17:23、駐車場着。意外にも、バラ園の客の車が何台か残っていた。


 山の深さ、奥深さ。噛みしめつつ、リュックの中から車のキーを探す。

(2020824)

 

 そんなわけで、かねてより考えていた、刈田岳~不忘山縦走を敢行。

 

 たまたま蔵王ハイラインが無料だったので、お釜まで行ってみる。ものすごい風。さむ。

 

 緑色の湖面を見ながら、脇のカップルがやたら、いちゃついている。曇れ、曇れと心の中で念じたら、ほんとうに一瞬でガスってしまった(笑)。

 

 エコーライン脇の駐車スペースは満車につき、刈田峠のリフト乗り場に駐車。

 そこから15分くらい歩って、登山口へ。

 

 9:25,スタート。しばらく湿地帯が続き、次第に岩場の登りとなる。振り返ると、刈田岳さんの雄姿がドーン、と。

 前山を経て、10:08、杉が峰(1,745.3m)着。ガスって、ほとんど景色は見えない。

 

 10:27、芝草平(1,652m)着。池塘がところどころに見える。植物を紹介する看板や、木道が整備されていて、晴れていたらひなたぼっこが気持ちいいのだろう。

 今日の脳内BGMは、ブラッド・メルドーの『The Art of The Trio Vol.3』から「Bewitched~」。それがいつの間にか、竹内まりやの「純愛ラプソディ」(笑)に変わってしまっていた。

 

 「あいしか~た 何ひとつ 知らない まま~ で~♪」って感じ。

 

 このへんから、登りが続く。水引平方面の景色が急に開け始める。

 11:02、屏風ヶ岳(1,825m)着。沢山のハイカーがお弁当をしている。

 

 ちょっと下った三叉路。ここからの南屏風岳と不忘山の眺めはほんと、素晴らしい。

 ふうふう。11:36、南屏風岳(1,810m)山頂に着く。

 

 ここからやせ尾根になり、両側が谷底まで急速に落ち込んでいる。ちょっとお尻がゾクっとします。

 

 急な尾根を下り、再び岩場を登り返す。

 

 不忘山手前で、ここであきらめて撤収するよ、というニコニコ顔の初老のパーティに会う。

 ここからグーンと下って、また登りなおさなければならない。うーむ。たしかに、ツライ。

 そんなこんなで、12:11、不忘山(1,705.3m)着。わあ、やはり眺めは圧倒的。

 ここでお昼。わあ。にわかにすごい風。クリームパンが砂でジャリジャリします。

 

 ちょっと寒くなってきた。20分いたかいないかで、引き返す。

 

 ポクポクと、快調な帰り道。だんだん、天候は回復傾向。朝は見えなかった刈田岳の全景と、山形方面の山々がきれいに見える。

 帰るのがほんと、もったいない。

 温暖化、異常気象、ダイオキシン、PM2.5といろいろあるけれど、まだまだ地球は美しい。

 誰もいないのを確認のうえ、「いえーい!」と、両手を強く掲げ、ダブルピースで山道をぐんぐん歩くのでした。

 

 いろんな人がいる。

 山の中で、木の葉っぱをなでさすっている大学生くらいのお嬢さんがいた。バインダー片手に、何かの調べ物をしていたみたい。

 撮影中のカメラクルーにも出会った。BSかなんかの番組の撮影だったみたい。

 

 結構、疲れた。なつかしいリフト乗り場に、15:45着。

 わあ。もう影がこんなに伸びている。

 で、遠刈田温泉の町中まで降りる。

 

 ここに台湾飲茶のカフェがあるってことを知り合いから聞いてたもんで、かねてより行ってみたいと思ってたのだ。

 

 クランクを抜け、温泉施設を過ぎてすぐの商店街にある「慢瑤茶 (まんようちゃ)」さん。

 すぐ裏に1時間無料の駐車場がある。 

 お茶の種類がいろいろあるんだけど、「バニラの香り」というのが気になって、金萱(きんせん)を注文。

 

ほう、こんな感じですか。はっきり言って、台湾茶の作法など分からん。で、お店の方にいれ方を教わる。

 この茶葉が入った透明なポットに、飲む分のお湯を入れ、所定の時間が経ったら、銀色のボタンを押す。すると、下の器に「ジュ!」って、お茶が溜まるので、それを器に注ぐ。

 

 ふーむ。なるほど、たしかにバニラのような、あまーい香り。

 小生は知らなかったのだけど、この店の一番人気なんだそうだ。あったまるねえええ。

 

 店内は、台湾風の装飾はわりと控えめで、オシャレCafeな雰囲気。BGMもMPB(エミペベ)だし。

 

 男性ボーカルのバラードに、Clがからんだり、はたまた賑やかなサンバチューンがあったり。気になって、お店の人に聞いたら、「minaswing(ミナスウイング)」っていう日本人中心のユニット?のアルバムだった。村田陽一(Tb)先生も参加している。

 

 奥の方にCDの棚がある。チェックしたら、やはりラテンものが多い。ジョアン・ボスコからジャヴァンまでいろいろ。

 

 さてさて、月餅(130円)のくるみ味もいただく。

 ふむ。見た目より歯ごたえがある。黒糖の風味がきいていて、お茶うけにはたいへん結構でございました。

 

 約40分、マターリと、疲れた足を休ませる。日が傾き、嗚呼、サウダージな店内。

 

 帰り際、外出してたマスターが帰ってこられたんだけど、お客さんを大事になさる姿勢が伝わってきて、とても良い雰囲気の方であった。

 

 今度、いつ来るかは分からないけれど、ポイントカードを作ってもらう。いつか、またお邪魔しますね。

 

 刈田岳~不忘山縦走 往復約14Km,6時間の行程。思ったより、ハードってこともなかった。急激なアップダウンがないので、さほど疲れない。景色もいいし、小学生くらいだったら飽きずに楽勝で歩けると思う。

 

 不忘山の景色は言うまでも無く、屏風岳から杉が峰にかけての景色は、まさに絶景。うーむ。また、来たい。

(20151004)

 というわけで、山形県の黒伏山(くろぶしやま・1,226.7m)に。


 途中、48号線沿いにコンビニを探したんだけど、結局、熊ヶ根のセブンイレブンが最後のお店だったようだ。飲み物は自販機で調達か、と思って峠を超えたら、「泉や」さんが出現。

 「まだ、開店前なんだけんど…」。わあ。山一つ越えただけで、こんなにも方言のアクセントが変わる。

 そんなオバチャンから、温かいお茶2本と、味噌おにぎりを購入。


 高度差300m、東北を代表する壁、黒伏山の南壁が見えてきた。わあ。ものすごい迫力です。

 黒伏スノーパークの駐車場はたくさんあって、逆に、どこに置けばよいのか良く分からない。    

 結局、4~5台停まっていた、P3に駐車。P3とP4の間に、登山口があるようだ。なお、スキー場にはトイレがあるんだけど、オフシーズンゆえか、しっかりカギがかけられていた。

 

 9:55、歩き始める。「クマ出没注意」ののぼりが掲げられているのが、何とも言えない感じである。

 

 ちょっと下った先に沢がある。

 仮設橋が架けられているんだけど、ほんとの仮設って感じで、幅30cmの板を恐るおそる渡る。

 結構、くわんくわん揺れる。最初から、サバイバル感満点です。

 

 左に折れて、ちょっとだけ急坂を登れば、あとは平坦なブナ林歩き。

 わあ、森が深い。印象としては、県境をまたいだ船形山の森に近い感じ。

 本日の脳内BGMは、ノラ・ジョーンズの『Feels like home』より「Sunrize」。

 ノラ女史は、もともとジャズ寄りだったと思うのだけど、すっかり今やポップスターである。

 

 テイラー・スウィフト女史しかり、あの国で売れるというのは、こういうことなのだろうな、と思う。

 

 それにしても、このアルバムの曲は、この曲と「Creepin'In」以外、ほとんど印象に残らないのはなぜ?

 

 山の話でしたね。

 

 10:16、涸沢に出たところで、道が分からなくなった。上り下りを繰り返しても、ピンク色の目印が見つからない。東側に平場があるようなので、ちょっと行ってみたら、踏み跡のようなものがある。ダメもとで登ってみることに。

 

 ふうふう。急な坂。登り切ったら、南壁の直下に出た。ものすごい迫力の壁がドーン、と。

 どうやら、ロッククライマーさんたちの道に迷い込んでしまった模様。しまった。でも振り返ればスキー場の方面が開け、なかなか良い景色。

 

 むしろ、得したとポジティブ・シンキングして、再び急降下。

 

 沢を西へと伝ったら、あら、なんだ、ちゃんとした道がありました。このまましばらく、南壁の下を回り込む。

 

 12時少し手前、尾根に達し、遅沢分岐と思われるT字路。だけど、表示も何もない。いくつかのブログには、白い円形の道標の画像が載っているのだが、どうしてもそれを見つけられない。半信半疑のまま、右に折れて急斜面を登る。

 

 ふうふう。ものすごい傾斜。さっきの南壁手前で体力を使ってしまい、なかなか捗らない。

 

 12:35、やっと南壁の上に出る。素晴らしい景色。

 右方向に道があったけど、しばらく行くと行き止まりになるようだ。崖が鋭く切れ落ちていて、ゾクっとする。あまり長居したくない感じ。

 

 左方向に丸っこい頂上が見える。あと少し。

 

 13:01、黒伏山山頂着。灌木に覆われて、眺望はない。

 誰もいない。ど真ん中に座り込み、オバチャン手製の「味噌おにぎり」を頂く。

 13:18、白森方面へ。

 尾根沿いの、さほど起伏がない道をしばらく歩く。

 

 前方の、尖がったきれいなシルエットが白森なのかな?

 まさか、あそこを通過するわけじゃないよね、と思っていたら、道はどんどん、そっちの方向に続いている。

 

 わあ。高度が上がり、けっこう怖い。「どう」と風に体を持っていかれそうになり、急斜面を四つん這いで登り切ると、白森(1,263m)の頂上であった。13:55。

 

 絶景。

 月山、朝日連峰、遠くには鳥海山。太平洋側には、船形山、蔵王、雁戸山、面白山などなど、オールスターキャスト。

 

 黒伏山の肩越しに、スキー場の斜面が見える。森が刈られて草地が筋状に伸びている。なんとも痛々しい。改めて、人間の傲慢さを思い知らされる。

 

 なんて自分も、ちょっと前までは、繰り返し聞かせられる広瀬香美の「ロマンスの神様」のハイトーンに辟易しながら、ゴンドラに揺られる一人だったわけだが…。

 

 あとは時計回りに気持ちの良い縦走路。

 向こうに見えるのが銭山か。あれも超えないといけないみたい。

 

 ひとつ難所を超えると、また強敵が現れる。本連載末期の『聖闘士星矢』みたいだ。

 

 14:42、銭山(1,237m)山頂。

 この道は、ずっと、眺めが良いのがうれしい。

 船形山が間近に見える。山頂の山小屋まで見えそうなくらいに。

 いつだったか、船形山の山頂で、どっかのオジサンが「黒伏が見えるよ!」と嬉しそうにおっしゃっていたのを思い出した。

 

 それにしても、誰にも会わない。しずかだ。

 陽が傾き、景色が黄金色になる。うつくしい。

 このあたりの脳内BGMは、スティングの「Fortress Around Your Heart」から「Fields of Gold」への流れ。

 

 15:16、福碌山(1,211m)山頂。

 ここから、ものすごい急降下が始まる。柴倉山コースから周回する人は、ここを登るのだろうけど、結構大変そうである。

 

 15:24、柴倉山への分岐。青い円盤の道標が、木の根元に無造作に置かれていた。

 森の中を、登ったり、降りたりの繰り返し。なかなか、黒伏山南壁が近寄ってこない。

 下り坂で踏ん張り続けるため、両足の小指が痛くなってきたし、両腿もかなり、しんどい。

 

 ものすごい急降下。木の根を階段代わりに、ソロソロと。

  つーか、これ、道かなあ?

 なんだか、良く分からなくなってきた。ちょっと、時間がかかり過ぎないかい?別の道を来ちゃったのかな?

 

 陽がどんどん陰ってくる。せめて、太陽が黒伏の向こうに行ってしまう前に、この下りを終えてしまいたい。

 

 「まだ日は沈まぬ。」急傾斜なんで、メロスの様に走るわけにはいかない。ひたすら無言でずんずん歩く。

 

 やっとこさ反対側の稜線に出たら、スキー場の建物が見えて、ホッとする。

 

 ずんずん下る。沢の音が強くなり、なつかしい仮設橋が見えれば、ゴールはもうすぐ。

 16:50、登山口着。ずいぶんかかってしまった。

 見事に、我が車だけしか残っていない駐車場。

 

 太陽は、山の陰に隠れてしまった。セリヌンティウスさん、間に合わなくてごめんなさい。

 

 黒伏山が、その名の通り黒いシルエットとなって聳えていた。

 思ったよりハードだったなあ、と。だけど、急斜面を一気に登ってしまえば、あとはアップダウンの少ない縦走路を、景色を眺めながら、ポクポク歩くことができる。

 白森からの眺めは圧倒的だし、また来たくなる山です。

 

 機会があったら、今度は、柴倉山にもチャレンジしてみましょう。

(20161016)

 拝啓

 この手紙 読んでいる

 あだたら ~ ♪

 

 というわけで、福島県の安達太良山(1,699.6m)へ。たまには、ポピュラーな山にも登りましょう。いつもより、ちょっとだけ早起き。

 

 福島松川スマートICで降りる。途中、どこかで昼飯を調達しよう、と思ったのだけど、油断していた。あだたら高原スキー場に着くまで、コンビニ1軒、見当たらないのである。

 

 これは、しまった。

 仕方なく、レストハウス内の売店でお土産物の「窯焼工房チーズケーキ」を買い、お昼代わりにする。

 

 9:00、出発。

 良い天気。とにかく、ゆっくり歩きましょう。

 ゴンドラもあるのだけど、ここは男らしく(?)、奥岳登山口からくろがね小屋方面へ地道に歩く。

 

 しばらくは森林帯の中、馬車道と呼ばれる、幅2m強の砂利道をジグザグに進む。

 

 今日の脳内BGMは、スティービー・ワンダーの名盤、『Fulfillingness' First Finale』より「Smile Please」。

 

 このコードワーク、エレピのヴォイシング、エレキギターのさりげなさ。1974年の作品なのに、全然、古びていないのは凄い。

 

 山の話でしたね。

 

 大学生と思しき2人連れと抜きつ抜かれつ。男子も女子も今は、山ウェアもオシャレだなあ。

 わたくし、上から下までノースフェイス、なあんてタイプではないので。

 ユニクロのグレーTシャツに、どっかのアウトレットで買ったカーキ色のパンツ、ブラウンのターバンという、「大地と一体化ウェア」で地味に進む。

 

 9:54、勢至平着。ちょっとわき道にそれて様子をみたけど、花のシーズンじゃないみたいで、特に何もない。灌木がどこまでも広がっている平原。

 

 10:07、峰の辻分岐。このまま直進。その直後、道の向こうに初めて安達太良山のてっぺんが見えた。 ちょっとだけ、モチベーションが上がる。

 石垣の間の管から、ジョボジョボっと水が滴っている。これが「金明水」らしい。さっそく口に含み、顔を濡らして先を急ぐ。

 

 緑の中に黄白色の火口の淵が見えてきた。

 と、ふいに硫黄のにおいがし始める、という粋な演出。近くにいたオネエサンと、つい顔を見合わせる。

 

 10:20、くろがね小屋着(※現在、営業休止中)。わあ。ものすごく、立派な小屋。410円で温泉入浴もできる。

 テラスに出ると、下から吹き上げる風が涼しい。

 

 ここに黒い鐘が吊るしてあって、それが小屋名の由来となっている。中に入ると、歴史を感じさせる、よい雰囲気。

 

 タイガース・ファッションのオジイサンが、女性2人組にやたら話しかけている。大阪から来たようだ。

 

 全国あちこち登っているベテランらしく、白馬の雪渓を超えたらどうのこうの。と蘊蓄を披露。

 

 こういう年寄りにはなるまいと誓い(笑)、小屋を後にする。

 

 ここから直登するルートもかつてあったようだけど、以前、硫化水素による事故があったようで、今は通行禁止。

 

 ガレ場をふうふう言いつつ、登る。

 

 11:19、「馬の背」着。わあ。本当に、お馬の背中みたいな土手が目の前に。その向こうに、ポコッとした山頂も見える。

 ふうふう。結構、キツい。さっき、小屋を同時に出たオネエサンは、余裕でサクサク登っていく。もう100m以上の差をつけられている。負けた。

 

 ふうふう。右手の、鉄山の荒々しい岩肌が凄い。

 

 安達太良山は1900年にも爆発。

 磐梯山は1888年に爆発。

 吾妻山はいまだにドコドコしている。福島の山は、まだまだ落ち着いていない模様。

 

 11:41、火口の淵にたどり着く。と、いきなり、この絶景。

 来てよかった。

 

 沼ノ平。荒涼たる谷を額縁に、その向こうの秋元湖・檜原湖の美しさが映える。

 

 そのまま、左に進み、山頂へ。夏休み期間ということもあって、子供連れも多い。

 ヤッホー、ヤッホーの大合唱。だが、誰かが叫ぶと間髪入れずに誰かが叫ぶので、「やまびこ」が全然、聞こえないぞ!少年少女諸君!

 

 山頂直下の広場では、沢山の人がお昼中。

 

 右側の鎖場は混んでいるので、左側の鉄梯子を登る。ゴツゴツした岩をつかみ、体を引き起こせば、そこが山頂なのであった。12:05。

 あのオネエサンは、とっくに着いていた。負けた。

 と、ごく個人的な敗北感に打ちひしがれつつ、お昼にする。チーズケーキは、ブランデー風味の贅沢なもの。こんな岩場でガツガツ頬張っちゃって、すいません。

 

 こんなことを言っては何だけど、山頂でスポンジケーキは危険。どんどん、水分を持っていかれ、水筒の残量が気になる事態(笑)。

 

 ちょっとガスってはいるけれど、目の前に船明神山、そして向こうには磐梯山が見える。

 エエ眺めです。

 

 薬師岳方面に下山。ゴンドラ経由で登ってくる家族連れと沢山、すれ違う。ズック靴の人もいるけど、そんなにカジュアルなコースでもない。かなり段差のある階段部分もあるし、こっちのコースもなかなか侮れませんね。

 

 ゴンドラ乗り場への分岐。ここも、男らしく(?)徒歩での下山を選択。

 薬師岳の展望台へ。ここから、山の姿が良く見える。

 さすがに疲れた。木製のベンチでしばし休憩。

 

 で、ここから怒涛の下山路。あんまり利用されてないみたいで、結構荒れている。道幅も狭い。

 

 背後から、熊鈴の音が聞こえる。こっちはかなりのハイスピードで進んでいるのに、鈴の音がどんどん大きくなる。結局、スキーゴンドラが見えたあたりで首位の座を明け渡した。ちょっと太目なお兄さんであった。

 

 ここでも、個人的な敗北感を噛みしめつつ、冬はスキーゲレンデとなる平原を下る。

 

 誰の 言葉を 信じ 歩けば いいの~ ♪ っと。

 

 くろがね小屋コースと合わせて、15:00、登山口着。

 まだまだたくさんの人。日帰り温泉もあって、家族連れで来てもよさそうである。

 

 さすがは百名山、安達太良山。それなりに登りごたえがあるし、山頂からの景色は素晴らしい。

 

 ゴンドラで上がるのも良いけれど、ふうふう言った末に観る、沼ノ平の絶景は忘れがたい。なので、くろがね小屋を目指すコースをお勧めしときますね。

 

 今度来たときは、箕輪山・鬼面山方面も攻めてみたいですね。体力が残ってたら。

 

 その後、福島市街まで降りる。

 本当は、土湯温泉の「空cafe」さんがお目当てだったんだけど、あえなく定休日でした。

 

 そこで、福島市No.1オシャレcafeと評判の、「Kawaberry cafe」さんへ。

 本当に阿武隈川の川べりにある。

 

 ブルーの可愛らしい外観。使われていない小屋をリノベしたとのこと。

 入って右側に厨房とカウンター。

 

 市内のケーキ屋さんの系列とのことで、スイーツも充実。必死で我慢し、水出しアイスコーヒーを注文。

 

 高い天井、ウッドの壁面に麻袋をあしらった、さりげない装飾。窓際のアヒルの置物もなごみます。いろんな形の家具もオシャレですね。

 16時過ぎ、苦戦しそうな時間帯だけど、しっかり5テーブルのうち4つが埋まっていた。ピーク時には利用時間を区切ったりもするそうだから、繁盛しているのでしょう。

 

 何といっても、7台置ける駐車場、この存在が大きい。店なんつうのは、1にも2にもロケーションである。実に、良い場所を見つけられたなあ、と思う。

 

 BGMは、50~60年代ジャズ。ポール・デズモンドなど、無難なものだった。ごく個人的には、ジョニ・ミッチェルとか、ジャニス・イアンとかがかかっても、良い雰囲気なのかなあ、と思ったのでした。

 

 とにかく、のんべりー過ごせるお店です。

 

 オシャレな感じのお店の女性が、話しかけたら思いのほか、フクシマ的に素朴な感じだったのもgoodだったのでした。

 

 川べりの風が、日焼けに火照った顔に涼しい。

 また、いつか、来ましょう。

(20160813)