里山と熊鈴と私(後烏帽子岳・宮城県蔵王町) | 里山と熊鈴と私

里山と熊鈴と私

朝寝坊と山を愛するあなたへ。日帰り、午後のゆるゆる登山。

 そんなわけで、後烏帽子岳(うしろえぼしだけ・1,681m)に登る。

 今日も、ゆっくりとした出発。

 途中、釜房湖手前でまさかの渋滞。結構、時間をロスした。

 

 遠刈田の街中を抜ける。

 温泉場は、なかなかの賑わいである。県外ナンバーもちらほら。

 

 11:30、えぼしスキー場の駐車場着。

 本当は、ここから頂上まで徒歩で登れば、本当のアルピニストの称号を得られるのかもしれないが、まあ、積極的に妥協してゴンドラで途中まで行くことにする。

 

 山も、人生も、そんな感じです。

 

 それにしても、レストハウスは閑散。あんまり賑わっていない。草サッカーにうち興じる若者数名と、後烏帽子に行くハイカーらしい、若いカップルのみ。

 

 よく見ると、入り口付近の小屋に張り紙がしてあって、16時にゲートを閉鎖するとのこと。あら。では、あんまりゆっくりもしていられない。

 11:40、2Fのレストランで片道720円のチケットを買い、ゴンドラ乗車。

 係のお兄さん2名は、いかにも暇そうである。

 下界は良い感じに晴れてたけれど、山頂付近は雲に覆われている。

 まあ、こんな日もあるでしょう。

 

 途中、「千年杉」っていう表示があって、慌ててゴンドラの半開きの窓から手を出し、シャッターを切る。

 

 うーむ。このどこかに千年杉様が写っているはずである。

 

 11:54,ゴンドラの終着駅着。

 冬場はここから2本のリフトを乗り継いでいけるのだが、今は休止中のこと。

 登山口に至るには、この、ゲレンデの急斜面を、登っていかなければならない。

 

 ゴンドラのオジサンに、声をかけられる。

 帰り道は、歩いて下山するのだ、と言うと、「気を付けて」と、あっさり送り出される。

 

 装備、体格、人間性(?)を総合的に勘案して、おそらく大丈夫だと思われたのだろう。オジサンの信任を得て、登山開始。

 

 先行するカップルを追うように、草が生い茂る斜面を登る。

 これが、結構、キツイ。なかなかの斜度。最初から体力を削られてしまう。

 

 でも、振り返るとどんどん景色が良くなり、慰めにはなる。

 今日が曇り空で良かった。ピーカンだったら、こんな野っぱらの中、太陽の直接攻撃を避けられないところであった。

 

 わき道に入り、リフトと並行するように登る。だんだん、天候は回復傾向。

 ゲレンデの緑が美しい。

 

 とうとう、リフトの終点まで登りつき、やっとここから本格的な登山が始まる。

 右手の登山口から登り始める。12:29。

 木の根とゴツゴツした岩が露出する、わりと平坦な山道。

 ササが両側からせり出して、時折かき分けながら進む。

 12:37,1本目の涸れ沢を横断。

 森の中の道がしばらく続く。


  12:43,2本目の涸れ沢を通過。

 この辺から、傾斜が急になり始め、道が階段状になる。

 

 このコースはそれなりに人気があるせいか、そこそこ道は整備されている。

 小学生くらいなら、余裕で登るだろう。

 

 それにしても、あまり、人に出会わない。

 中年の夫婦連れと、ベテランらしき初老の男性とすれ違う程度。

 鳥の声と、先行するカップルの鈴の音が遠く聞こえるばかり。

 

 今日の脳内BGMは、ナタリー・インブルーリア(Natalie Imbruglia)の『Counting Down the Days 』より「Sanctuary」。

 

 このアルバムの中では、ブリティッシュ・インヴェイジョン的な、ノスタルジックなイントロが付いた、比較的、ロック色の強い1曲。

 

 イントロとAメロの6拍子に意表を突かれる。

 サビの「アーアー!」からは4拍子なんだけれど、途中のヴァンプが6拍子+2拍子ってなる部分もあって、それなりに凝った作りになっている。

 

 で、ナタリーさんはデビュー作「torn」の世界的ヒットでそれなりに著名なんだけれど、英国で活躍中の女優さんでもある。ローワン・アトキンソン主演の「Johnny English」にも出ていた(あれは、ひどい映画だった・・・)。

 

 山の話であった(笑)。

 

 12:54,「八合目」との看板があった。ご親切に、どうも。

 13:08、「九合目」。もうすぐ頂上だ。ふうふう。

 前方がかなり明るくなってきて、すわ、頂上か、と思うと、まだ道は続いている。

 なかなかな焦らしっぷり。

 

 足が、かなり、重い。先週の吾妻山系での疲れが、まだ残っていたのかもしれない。

 

 うんとこせ、と、13:20,前烏帽子岳へ向かう道との分岐。

 それをまっすぐ進み、13:22、頂上(1,681m)着。

 やはり、霧に覆われ、視界は効かない。

 食事中のカップル以外、誰もいない。

 邪魔しないように、そうっと撮影。

 

 短い時間だったけれど、刈田岳方面の霧が晴れて、目の前の屏風と、遠くの蔵王山麓の稜線を垣間見ることができた。

 お揃いのTシャツを着たカップルは、「イエー」とか言って盛り上がっている。

 女性は、医療関係の方らしく、彼氏の様子をトリアージして、「脱水状態に近い」とか宣っている。楽しそう。

 

 チクショー!!

 

 なあんて歯噛みしていても仕方ないので、13:32、麦茶を数口含んだだけで、とっとと下山しましょう。

 

 前烏帽子岳方面に向かう。さっきまでと違い、さほど整備されていない道。

 でも、静かで気持ちの良い道である。

 

 唯一懸念すべきは、クマさんとの鉢合わせ。

 熊鈴を必要以上に鳴らして、先を急ぐ。

 

 何度かアップダウンすると、ゴツゴツした巨岩が目立ち始める。

 標識のある三叉路を右に折れると、ほどなく巨石が林立する、前烏帽子岳山頂(1,402.1m)。14:06。

 

 わあ、断崖絶壁。足元がゾクゾクする。下から、霧が吹きあがって来て、相変わらずあまり視界が効かない。

 ここで、さっきカップルに遠慮して摂り損なったお昼ごはん。

 岩の割れ目に、なんとか腰かける場所を探し、さっきセブンイレブンで買った菓子パンを食する。

 

 と、紙パックのグレープジュースが手から滑り落ち、うっかり谷底へ、

 と思ったら、1mほど下の、崖の途中の木の根に引っかかった。

 

 ふーむ。山の環境維持のためにも、なんとか回収したい。

 まるで修行者のように、崖から頭を出し、えいっと手を伸ばす。こわ。

 

 ふう。良かった。無事回収できました。

 

 おや、ちょっと雨がパラついてきた。

 そろそろ移動しましょう。14:18。

 

 スキー場の方へ、鋭角的に曲がった道を下る。かなりの急傾斜。なかなか、膝に来る。ストックを持って来ればよかったと、後悔。

 

 15分くらい歩いた。ガイドブックによれば、この辺りにゴンドラ駅へと向かう分岐があるはずなのだが、出会うこともなく。 さっき、ロープで結界がしてあったけれど、あれがその道だったのかな?とすると、現在は使用されていないということか。

 

 では、このまま進むしかない。

 霧の中、黙々と歩く。たまに出会う巨木が、異世界感を漂わせてくれる。

 道端に腰かけて、「やあ!」と声をかけてくれたような巨木さん。

 15:07,と、途端に巨石群が現れる。ほとんど、人工的ともいえるような積み重なりようで、避難場所に使えそうな洞穴もあった。

 と、思うと、これも古代の遺跡かと思えるような、いかにも人工的な、平べったいテーブル状の岩。

 このあたりから、だんだん水の音が強くなってきた。

 15:27、沢のほとりに出る。

 霧の中、苔むした石が美しい。

 水をすくい、二の腕まで振り掛ける。実にひんやり。

 思ったより流量が豊富。だが、道は沢の向こう岸に続いている。

 

 渡渉できるポイントを探す。ちょっと上流に戻って回り込み、なんとか飛び石を渡る。

 長きに渡る下山で、かなり足に来ている。

 

 ガクガクとおぼつかない足を何とか奮い立たせ、向こう岸に到着。

 

 15:40、前烏帽子岳への登山口着。

 来るときは気がつかなかったのだが、ここに半円状の駐車スペースがあり、10台くらいは停められる。

 

 えぼしスキー場の門限が気になる場合は、ここに車を置いて行くのも良いのかもしれない。

 

 舗装道路をエッチラ歩く。途中、千年杉コースへの入り口があった。

 わりと整備されていて、ファミリー向けなのかなあとも思う。

 さっきの、前烏帽子岳山頂直下の、スキー場への分岐、あそこが解明できれば、このコースを使って下山するのもありかと思う。

 

 そんなこんなで、15:52、えぼしスキー場の駐車場に到着。

 なんとか、門限に間に合った。

 見事に小生の車だけが、ポツンと待ってくれていた。

 

 誰もいない。

 係のお兄さんが、緩慢な仕草で「営業終了」の看板を掲げに来た。

 

 16:30、遠刈田温泉着。さすがに夕暮れ時、観光客の姿はまばらになっていた。

 

 どこかでアイスコーヒーでも飲もうかと、神社手前の無料駐車場に車を置く。

 ここには「空カフェ」さんとか、有名なカフェがあるのだが、いずれもすでに営業時間外。開いていたとしても、観光シーズンゆえ、激コミであったろう。

 

 頼みの綱、商店街の中の台灣喫茶 慢瑤茶(まんようちゃ) さんも、本日は臨時休業とのこと。あらま。残念。

 

 仕方なく、町中をうろうろ。

 

 立派な蔵王大権現の鳥居。

 新しくできたらしい、小洒落たパン屋さん、「BRING」。へええ、ドイツ仕込みなんだそうだ。美味しそう。

 橋から山のほうを見やると、やはり、相変わらず雲に覆われていた。

 その反対方向の青麻山方面は、すっかり晴れている。

 

 青麻山も、標高は低いけれど、蔵王の山々を望む眺めは格別であるようで、いつか挑戦したいと思っているのだけど、車を駐車できるスペースが限られているのが難点。これも今後の宿題である。

 

 風が涼しくなってきた。

 目つきが色っぽい、遠刈田こけしさんの巨大なオブジェに別れを告げる。

 後烏帽子岳頂上での展望は望めなかったけれど、しずかで、良い山行きだった。

 頂上から芝草平方面に向かうとか、その途中で股窪方面に右に折れ、澄川と平行にスキー場まで戻ってくるコースとか、色々バリエーションがあるようだ。

 

 またいつか、来てみたい。

(2021.7.25)