里山と熊鈴と私(甑岳・山形県村山市) | 里山と熊鈴と私

里山と熊鈴と私

朝寝坊と山を愛するあなたへ。日帰り、午後のゆるゆる登山。

 さて、今日も良い天気である。

 こんな日は、なるべく仕事のことを考えずに済むように、山にでも参りましょう。

岩手方面、と考えたんだけど、雷注意報が出ている。そこで、山形方面へと切り替え。

 

 甑岳(こしきだけ・1,015m)へ。村山市のソウル・マウンテン(?)である。

 48号線を西進し、村山市に着いたのは11:30過ぎ。

 いつもの通り、とてもゆっくりしたスタートである。

 

 それにしても、小っちゃくて静かな町。向こうに甑岳が見える。

 土蔵造りもちらほらしていて、昔ながらの情緒を感じる。街歩きをゆっくりしてみたいものである。

 

 東沢バラ園に車を置き、では、出発、といいたいところだけど、どちらへ進めばよいのか、良く分からない。当てずっぽうで、立派な舗装道路を登っていく。

 

 本日の脳内BGMは、ネオ・ソウルの女王、エリカ・バドゥの『ママズ・ガン』(Mama's Gun)より、「Didn't Cha Know」。エリカ様におかれては、リリース当時は小生も若すぎて、「ふーん。」ぐらいしか認識してなかったんだけど。

 

 久しぶりに聴いて、良くも悪くも「熟成」したオッサンの耳に、実に心地よく響く。

 確かに「妖艶」ではあるけれど、シャーデーとかより明るく無邪気な感じ。

 

 何というか、夕べ、大喧嘩しても、朝起きれば機嫌が直っていて、一緒に、さやいんげんの筋取りを手伝ってくれる女性のような(?)、そんな、性格の良さそうな声である。

 

 えーと(笑)、山の話であった。

 

 ほどなく、「甑岳登山入り口」っていう手書きの看板があり、どうやら正しかったようだ。そこを左折し、果樹園の中を登っていく。

 にしても、のどかなところである。貯水池と思われる施設の脇を抜け、林道を伝って森に入ると、ほどなく、登山道の看板が迎えてくれた。

 

 左わきに沢が流れていて、ここを直進するのか、と踏み入れた途端、

「ワンワン!」と物凄い勢いで吠えられた。5~6匹が物凄い勢いで向かってくる。

 

 すわ、野犬かと身がすくんだが、どこかのブリーダーさんが飼い犬に水浴びをさせていたらしく、「こらこら!」と犬たちを呼び戻してくれた。

 

 ふう。びっくりするなあ、もう!

 

 12:34、ここが本当の林道の終点らしく、丸木橋を渡って、本格的な山道へ。

 ふうふう。割ときつい道。いや、傾斜はそれほどでもない。小生が疲れているだけかもしれない。それとも、土日、実家でゴロゴロしていたので、筋肉が寝静まってしまったのかもしれない。

 

 ちょっと行くと、清水が流れ落ちるところがあった。さっと手を洗い、唇を潤す程度にする。おそらく、飲んでも構わないのだとは思うが、小生は、手書きの「飲めます」という親切な表示より、製造元/(株)コカ・コーラボトラーズと書かれた表示を崇拝する質である。

 

 ちょっと歩いて考えたのだが、では、「飲めます/(株)コカ・コーラボトラーズ」としっかりしたアクリル板に、印刷表示してあったら、迷うことなく飲んでしまうだろうなあ、と思い至り。

 

 自らの権威主義的性質に呆れつつ、さて、坂道をじりじり進む。

 

 12:55、馬立沼着。

 ふーむ。小さな、ちょっと濁った沼。周囲はうっそうとした森に覆われている。

 

 栗林を抜けていく。だんだん前方に光が増し、稜線が近いことを教えてくれる。

 だが、なかなかハチカ沢コースとの合流点に着かない。

 

 ふうふう。足が重い。どうも、今日は調子がイマイチである。ほぼ3分おきに小休止しながら、なんとか進む。

 

 13:25、合流点着。

 この辺りから展望が開けはじめ、宮城との県境に屹立する山々が視界に入ってくる。

 13:51、徳内坂、とかいうところに。標高940m。

 最上徳内さんっていう、郷土の探検家に由来している模様。

 それにしても、この表示の標高、本当に合っているのか?

 

 14:00、ガイドブックに「すばらしい展望」と書かれてあった場所に。

 確かに。

                                                          

 「すばらしい展望」!!

 村山の街並みや田畑はもとより、その向こうの葉山、月山、鳥海などなどが素晴らしい。

 ちょっと元気になった。

 

 なんとか力をフル稼働させ、14:04、頂上広場着。

 石造りの祠、簡素な表示、そして最上徳内先生を称える碑があった。

 ここは1004m、本当の頂上はもう少し先である。

 ま、眺めも良いし、ここで昼食にする。西側、東側が大きく開け、主要な山々はほとんど見渡せる。天気も素晴らしい。

 

 と、どこからともなくFMラジオの音がする。

 新山登山口から登ってきたらしい、ご老人がひとり、2本ストックを突いて登ってきた。

 

 軽く会釈。2人とも、終始、無言である。

 女性DJが語り終え、番組のエンディング曲と思われる、80年代っぽい、ライトなインストが山頂を彩る。ジャジーなピアノソロが、この景色になかなかマッチしている。

 

 おじいさんは、こちらに遠慮したのか、ものの数分で下って行ってしまった。

 

 さて、リュックを背負い、山頂へ。

 14:46、10分足らずで着いてしまった。

 予想通り、何もない。木々に覆われ、眺望もない。手書きの木製看板と、三角点があるのみである。

 

 さて、このまま直進して新山登山口に向かおうか、とも思うけれど、ちょっと今日は疲労度がいつもより重たい。林道をぐるっと、バラ園まで延々歩くのはいかにもしんどい。

 来た道を戻り、ハチカ沢コースを目指すことにする。

 

 15:24、分岐点を直進し、ロープが張ってある急坂を降りる。

 下から、これまたおじいさんが登ってきた。

 

 会釈をして、すれ違おうとしたら、おじいさん、

「こんちくしょう!」と一言、手ぬぐいを振り下ろす。

 

 怒られたのは小生ではなくて、オジイサンにまとわりつく、羽虫なのだった。

もう、今日はびっくりさせられることが多い。

 

 と、表示を見たら、この坂の名前は、「苦楽ノ坂」なのであった。

 

 16:12、ちょっとしたピークがあって、甑岳の全体が良く見える。

 素晴らしい眺めである。

 この先は、難路。とにかくガラで覆われていて、どんどん滑る。ロープにしがみつき、そろそろ降りる。16:53、なんとかかんとか、突破した。

 おだやかな道となり、林道に接続する三叉路に。

 沢までたどり着き、岩神コース登山口に着いたのは、17:04。

 ここにも、3~4台ぐらい停められるスペースがあったのだった。

 

 両足の小指が痛い。下り坂で、踏ん張ったせいだろう。


 往路では気づかなかったのだが、赤い鳥居があった。山の神 聖徳太子尊 なる碑がある。

 関西に住んでいた頃は、よく、こういう祠を見たが…。

 東北における聖徳太子信仰っていうのは、どのようなものだったんでしょうね。

 

 しずかだ。懐かしい貯水施設、そして果樹園。

 振り返れば、のどかな山の姿。

 

 なんとなくだけど、山形県の里山は、優しい。

 月山の向こうに陽が沈もうとしている。

 17:23、駐車場着。意外にも、バラ園の客の車が何台か残っていた。


 山の深さ、奥深さ。噛みしめつつ、リュックの中から車のキーを探す。

(2020824)