長い金曜日
金曜日、私の朝は早い。かならず4時前に起きる。
日の出前の暗い家の中、ベッドの上で寝ぼけ眼をこすりながら反対の手でうろうろと、けたたましくアラームが鳴り響く携帯電話を探しあてる。この間、私は息を止める癖がある。
二つ折り式の携帯電話を開くと、まばゆい光が目に飛び込んできて、少しくらくらする私に時刻を教えてくれる。
ひとつ大きく呼吸をして、ベッドから身を起こし、明かりをつける。そして暖房を入れ、テレビをつける。
東京の冬は寒いと、北海道出身の人はいう。我が家も例に漏れず、小鳥ならば凍え死んでしまうであろう寒さだ。生活の匂いが染み込んだちゃんちゃんこを羽織り、さらに所々穴の空いたバスタオルをストールのように首から肩に掛けるように巻く。ガタガタ震えながら、時折ふくらはぎに目一杯力を入れ、体を暖める。その頃、ちょうど、4時になっている。
テレビには4人の女性が横並びになって、早朝の挨拶をしている。その横並びの、向かって一番左側に、背の順にへこみがあるのをメガネをかけてないぼんやりした視界で認識すると、私は安心してコーヒーを淹れることができる。
挨拶が終わると、テレビにしばらく彼女は現れないことを私は知っている。私は朝食をコーヒーで済ますのだが、この日はレーズンパンがあったので、生のままムササビのようにかじりついた。
暖房が効きはじめる頃、私の至福の時間が始まり、それは5時20頃に終わりを告げる。
興奮やタバコ、コーヒーなどの刺激物により完全に覚醒した私は眠れない。出勤時間まで2時間以上ある。
趣味である粘土細工に精を出すこともあれば、携帯電話をいじくり続ける日もある。この日は後者だった。携帯アプリで桃鉄をした。このアプリのランキング上位者はカオスの住人であることを、私は知っている。
非生産的な行為を貴重な時間を割いて費やしていると、まったくもって人間というやつは変なことを考えたりする。この日私は、夢を見たまま死んだらどうなるのだろう、そんなことを考えて、朝から死にたくないと強く思うハメになった。
仕事が終わると、金曜日の夜であるからして、夜の誘いがある。主にKさんからある。
Kさんは狂っている。以前、Kさんの祖母がお亡くなりになった時にも、Kさんから酒の誘いをいただいた。
「おれんち今ばあさまの遺体があんだよ」
Kさんは実家住まいだ。
「ちょっと見ていけよ。3人で酒のもうぜ」
私は言うまでもなく、丁重ならざる態度で断った。
断る理由も見つからず、私はKさんと酒をのむことになる。生来の貧乏性で、私は、卓一杯にアテを広げる、なんてことができない。Kさんも似たようなもので、ふたりして、厳密に値段を計算しながらちびちび飲み続ける。だいたい駅前をぶらついていれば、居酒屋のサンドイッチマンが割引券をくれ、情けなくもきっちりせこせこする。
夜が深まり、私はしつこく二件目に誘うKさんを犬畜生にするよう蹴倒し、罵詈雑言を吐き捨てながら帰路につく。いつものことだ。予定がなければつきあうのもやぶさかではないが、金曜日の深夜、私には予定がある。
家に帰り酒くさいため息とあくびを交互にしながら、急いで寝る支度をする。風呂、歯磨き、乾燥した肌にうるおいをもたらす魔法の白濁液を肩と腰回りに塗りたくる。
部屋を暗くして布団に入ると、ラジオをつける。ちょうど1時だ。毎週楽しみにしているお気に入りのラジオを聴きながら、私はじっと夢と闘う。夢と現実を行き来しながら聴く深夜ラジオというものは、ちょっとしたトリップ作用がある。ましてやアルコールを含んだ体で、まさしく夢現、不思議な感覚を覚えるものだ。
ラジオの話題がおっぱいについてとなった。おっぱいに囲まれたいと思わない男はいないと、少し音ががさつく我が家のラジオを通して、パーソナリティが語っている。
このとき、夢と闘う私の頭の中に、ある映像がはっきりと浮かんだ。手を伸ばせば届きそうな映像。
暗い、とても暗い場所、銀行の地下金庫のような場所に忍び込んだ男が懐中電灯で辺りを見回したらおっぱいだらけだった。
そんな映像がはっきりと私の頭に浮かんだ。
はて、この映画はなんだったかしらん。
あまりにはっきりと頭の中に映像が浮かんだものだから、私はそれをてっきり昔観た映画のワンシーンだと思った。
ラジオが終わる。3時を過ぎている。毎週訪れる私の長い1日がようやく終わりを告げようとしている。
あの映画は一体いつどこで観たものだったか。
眠りにつく直前、私ははたと答えに至った。
そうだ、あれは映画じゃない。このブログに書いた、いつかのモヤモヤシリーズの内容だ。
そう正解にたどり着いたと同時に、私はどっぷりと夢に落ちた。
夢の世界で私は、包丁を持って鬼気迫る表情を浮かべる、私が小さな頃に死んだ爺さんに見知らぬ町を追いかけ回されていた。そして、夢の世界の私は、このまま死にたくない、とつぶやいたが、爺さんに捕まり、あえなく………といったところで目がさめた。
おっぱいだらけの夢が見てえよ!!言いたいことはそれだけだ!!!!
日の出前の暗い家の中、ベッドの上で寝ぼけ眼をこすりながら反対の手でうろうろと、けたたましくアラームが鳴り響く携帯電話を探しあてる。この間、私は息を止める癖がある。
二つ折り式の携帯電話を開くと、まばゆい光が目に飛び込んできて、少しくらくらする私に時刻を教えてくれる。
ひとつ大きく呼吸をして、ベッドから身を起こし、明かりをつける。そして暖房を入れ、テレビをつける。
東京の冬は寒いと、北海道出身の人はいう。我が家も例に漏れず、小鳥ならば凍え死んでしまうであろう寒さだ。生活の匂いが染み込んだちゃんちゃんこを羽織り、さらに所々穴の空いたバスタオルをストールのように首から肩に掛けるように巻く。ガタガタ震えながら、時折ふくらはぎに目一杯力を入れ、体を暖める。その頃、ちょうど、4時になっている。
テレビには4人の女性が横並びになって、早朝の挨拶をしている。その横並びの、向かって一番左側に、背の順にへこみがあるのをメガネをかけてないぼんやりした視界で認識すると、私は安心してコーヒーを淹れることができる。
挨拶が終わると、テレビにしばらく彼女は現れないことを私は知っている。私は朝食をコーヒーで済ますのだが、この日はレーズンパンがあったので、生のままムササビのようにかじりついた。
暖房が効きはじめる頃、私の至福の時間が始まり、それは5時20頃に終わりを告げる。
興奮やタバコ、コーヒーなどの刺激物により完全に覚醒した私は眠れない。出勤時間まで2時間以上ある。
趣味である粘土細工に精を出すこともあれば、携帯電話をいじくり続ける日もある。この日は後者だった。携帯アプリで桃鉄をした。このアプリのランキング上位者はカオスの住人であることを、私は知っている。
非生産的な行為を貴重な時間を割いて費やしていると、まったくもって人間というやつは変なことを考えたりする。この日私は、夢を見たまま死んだらどうなるのだろう、そんなことを考えて、朝から死にたくないと強く思うハメになった。
仕事が終わると、金曜日の夜であるからして、夜の誘いがある。主にKさんからある。
Kさんは狂っている。以前、Kさんの祖母がお亡くなりになった時にも、Kさんから酒の誘いをいただいた。
「おれんち今ばあさまの遺体があんだよ」
Kさんは実家住まいだ。
「ちょっと見ていけよ。3人で酒のもうぜ」
私は言うまでもなく、丁重ならざる態度で断った。
断る理由も見つからず、私はKさんと酒をのむことになる。生来の貧乏性で、私は、卓一杯にアテを広げる、なんてことができない。Kさんも似たようなもので、ふたりして、厳密に値段を計算しながらちびちび飲み続ける。だいたい駅前をぶらついていれば、居酒屋のサンドイッチマンが割引券をくれ、情けなくもきっちりせこせこする。
夜が深まり、私はしつこく二件目に誘うKさんを犬畜生にするよう蹴倒し、罵詈雑言を吐き捨てながら帰路につく。いつものことだ。予定がなければつきあうのもやぶさかではないが、金曜日の深夜、私には予定がある。
家に帰り酒くさいため息とあくびを交互にしながら、急いで寝る支度をする。風呂、歯磨き、乾燥した肌にうるおいをもたらす魔法の白濁液を肩と腰回りに塗りたくる。
部屋を暗くして布団に入ると、ラジオをつける。ちょうど1時だ。毎週楽しみにしているお気に入りのラジオを聴きながら、私はじっと夢と闘う。夢と現実を行き来しながら聴く深夜ラジオというものは、ちょっとしたトリップ作用がある。ましてやアルコールを含んだ体で、まさしく夢現、不思議な感覚を覚えるものだ。
ラジオの話題がおっぱいについてとなった。おっぱいに囲まれたいと思わない男はいないと、少し音ががさつく我が家のラジオを通して、パーソナリティが語っている。
このとき、夢と闘う私の頭の中に、ある映像がはっきりと浮かんだ。手を伸ばせば届きそうな映像。
暗い、とても暗い場所、銀行の地下金庫のような場所に忍び込んだ男が懐中電灯で辺りを見回したらおっぱいだらけだった。
そんな映像がはっきりと私の頭に浮かんだ。
はて、この映画はなんだったかしらん。
あまりにはっきりと頭の中に映像が浮かんだものだから、私はそれをてっきり昔観た映画のワンシーンだと思った。
ラジオが終わる。3時を過ぎている。毎週訪れる私の長い1日がようやく終わりを告げようとしている。
あの映画は一体いつどこで観たものだったか。
眠りにつく直前、私ははたと答えに至った。
そうだ、あれは映画じゃない。このブログに書いた、いつかのモヤモヤシリーズの内容だ。
そう正解にたどり着いたと同時に、私はどっぷりと夢に落ちた。
夢の世界で私は、包丁を持って鬼気迫る表情を浮かべる、私が小さな頃に死んだ爺さんに見知らぬ町を追いかけ回されていた。そして、夢の世界の私は、このまま死にたくない、とつぶやいたが、爺さんに捕まり、あえなく………といったところで目がさめた。
おっぱいだらけの夢が見てえよ!!言いたいことはそれだけだ!!!!
アノマニスからの脱却(6)
そんな軽い気持ちで行ったものだから、実際にまだコンビニが現存し、ますます頭髪退行に拍車がかかった佐井九を見たとき、レイは焦った。
焦った、というのは特攻を決意した人間には不思議な感情だが、あまりに、あまりに軽い気持ちで、ニートだったころのよう、いつも通りといった体で行ったものだから、レイは焦るに至った。レイの希望的観測からしたら、3人はセットでいるはずだ、という期待もあった。
コンビニの前でレイはしばらく入るか入るまいか逡巡した。そして、どこか投げやりで客観的だったその決意がその身に落ち着いたころ、入ることに決めた。
佐井九は店に入ってきた男を見てぎょっとした。言うまでもなく、佐井九にはそれがレイであることに気がついたからだ。
いかにも閑古鳥の匂いがする閑散とした寂しい店内のレジで相対したふたり。しばし、ふたりの間に沈黙が流れ、その沈黙を破るように、遠くで消防車のサイレンが鳴った。
ここから如何なる修羅場に発展するのかと、おれは胸をときめかせたりしたもんだけど、そううまく問屋は卸さなかったよ。
改めて佐井九の面をまじまじと見たレイは、とてもおかしくなったのか、何を言う前に、ニヤリと笑った。そしてひとつ、大きくため息をつくと、そのまま店を出ようとした。復讐の旅に出たものが、標的たる人物を目の前に、笑い、ため息をつき、何もしない。こんなことがあるのだろうか。
わけもわからず、しかし思い当たる節があった佐井九は、レイを自動扉の前で呼び止め、二階の自宅に招いた。
レイは佐井九の顔をまじまじと見たとき、佐井九を強く憐れんだ。ふくよかだった顔は、遠目から見たらわからなかったが、見るも無惨に生気を失いぼやけた顔色、死んだ魚のように淀んだ瞳、当時の面影を少し残すぷくりとしたほっぺなどは、まるで口内に綿を含んでいるようで、目の下にはクマが色濃くありありと浮かんでいる。まさに棺桶片足だった。ちらりと店内を見渡せば、飼い犬は飼い主に似る、のそれだった。
レイは思った。ああ、こいつ捨てられたな、と。それはレイにとって充分憐みの対象になった。なぜならば、自分も捨てられたようなものだからだ。もちろん、ぶん殴ったりしたい気持ちもあるのだが、その憐れみとここで問題を起こしたら本懐を遂げられなくなる可能性という問題には遠く及ばないものだった。
佐井九からお呼びがかかるとレイは、なるようになれ、とつぶやいた。
小汚い居間で佐井九から話を訊けば、まさにレイの思った通りだった。佐井九は教団に、神見に捨てられていた。それは当然だといえば当然の仕打ちだが、ちょっと事情が違う。
なんでもあれからしばらく、オヤジ、神見と共に3人で教団を引っ張っていたのだが、教団の運営が予想だにしない形で軌道に乗り始めると、佐井九から教団を離れたらしいのだ。
「あれから何度も、何度も何度も、神見は私を求めてきたよ」
「そんなことをわざわざおれに言う神経を疑いますね」
「すまない。しかし聞いてくれ。ただ静かに」
「そうですか、ではひとつうるさく聞いてやりましょうか、お前バカヤローてめえこのお!、早く喋れバカヤロー!」
「………頼むよ」
「はい」
レイのテンションは高かった。その精神は悲しいはずの葬式で坊主の禿頭に一匹のハエが止まり笑わないように気をつけねばならない様に似ている。葬式じゃないから、思う存分に、はしゃぐ。心の奥底ではこいつをぶっ殺したい、しかしやらないと決めた。そのストレスのはけ口としてハイなテンションに繋がっている。
「私ははじめ、神見が私を愛していると思っていた。神見が私を認めていると思っていた。神見とは、すなわち、私の信ずる神様そのものであり、その神様から唯一私が愛を許された存在であると、私は嬉しかった。そして、満ち足りていたよ。教団にいた頃は否定していたが、いつの頃からか私も神見を愛していたのだろう」
「愛していたならあんなことするもんかよ」
「………しかし、神見が神延べ様になると、教団に信者が増えた。神見には人を惹きつける魅力があった。そしていままでにないぐらい教団に金が入ってきた。私はこの店の経営もそこそこにして、信者を含めた彼らと金回りを支えるシステムを構築した。ニートやひきこもりに特化した教団運営を考えたのも私だよ。今となってはそんなこと、だけども、そして」
「早く喋れよマジで、話の核を」
「ああ、そして」
「そしてじゃねえって、そして、なんて話の足し算だろ?、倍速で喋れ倍速で。おれは悠長にあんたの自伝を聞いてる暇はねえんだよ。かいつまめ」
「そして、今に至る」
「かいつまみ過ぎだろハゲコラ。ハハハ、おもしろいこと言いますねえ、とでもおれが言うと思ってんのか、おい」
「まあ、冗談はよしこちゃんにして」
そう言った佐井九の頭を、レイは結構強めに殴った。グーで。
「システムは単純で、ありきたりで、教団内ではっきりとしたヒエラルキーを敷き、長期に渡り彼らから金を搾取する寸法だった。それは教団に害をなす反乱分子を早い段階で見分けるのにも役立った」
「だから」
「そして」
「てめえ」
「それを確立してしばらくしたのち、私は教団を離れた」
「予防策を講じてんじゃねえぞ」
「………そのシステムの中で唯一、神見が提案したものがあった。上位者は神見の身の回りの世話をするってことだよ。私は反対したが、それと同時に私は信じていた。神見を信じきっていたから、それを組み込んだ。だが、私は間違っていた。何もかも、初めから何もかも間違っていた。神見は彼らを抱いたよ。狂ったように求めた。とっかえひっかえに。私なんて、神見にとって見れば、棒だよ。ただの棒に過ぎなかった。歩き回り考える棒に過ぎなかった」
「ま、ご立派な棒だけどな」
「神見は私など眼中になかった!!」
「うるせえ!、急に騒ぐな、そして人の冗談を無視すんな!」
「………私は喪失感に打ちひしがれた。私がいままでやってきたこと、教団の為神見の為にやってきたこと、そのすべては神見にとってどうでもいいことで、神見はただ快楽の淵に立っていたいだけだった。神見が私以外の男や女と日々まぐわっているのを、私は許せなかった。神延べ様である神見に、私は捨てられた、そう強く思ったと同時に、信仰を裏切ることはできない、という信仰心が立った。私はそのふたつの狭間から生じる煩悶に揺れた」
「あんたの話から信仰心なんて感じなかったけどな。ありきたりな金の亡者だろ」
「今の私はアノマロカリス教に信仰心がないから、そう聞こえたのだろう。当時の私はあくまでも、教団が繁栄するには金がいった、その一心だ。なにより、信仰心があればこそ、あの当時の神見にあんなことも出来た」
「一時の気狂いが免罪符になると思うなよ」
「悪かった。ひどいことをした」
「まあ、今はいい。そんで?」
「時を同じくして、私は先代から疎まれるようになった。教団のシステムが確立し、神見の御側御用の役目もなくなった私は、もはや教団にとっていらない人間になった。むしろ、邪魔者さ。色々と教団の暗部を知っているし、なにより私と先代の間には約束があった。それは私の親と先代との間で交わされた約束で、ま、アノマロカリス教の実質的な経営権の譲渡だ。金の亡者と君は言ったが、それは先代だよ。ちっぽけな個人経営の中小起業に過ぎなかったアノマロカリス教が巨大なものになるに連れ、赤の他人の私が邪魔になったのだろう」
「なんだ。あんたの代わりでも見つけてきたのか」
レイがそう口にだした時、頭で嫌な予感がした。
「神見に子供が産まれたんだ。まだ、教団の信者が増える前に、さ」
「誰の子だよ」
おそるおそる、レイは訊いた。
「君もわかっているように、時系列的に考えれば、私か、君か、先代の子、だろう。君は思い当たる節はあるか」
「おれじゃあない…はずだ」
避妊はしていたからだ。
「遺伝子検査なんかしたのか?」
「するもんか。まあ誰の子かは関係ない。先代は自分の子だと確信しているからね。あのとき、誰のものも皆、自分が掻きだしたわけだから」
「…………そうか。わかった。とにかく、それから辞めて、現状に至るってことだな。もういいよ。招かれた礼儀で話を訊いてやったが、今度はおれの質問に答えてもらう。そうだな、おれんちを燃やし、家族を殺した奴を知っているか、だ」
「…その質問にはどう答えるべきか。まず、私の話を聞いて欲しい」
「お前、人の話を聞いているのか?」
「まあ待ってくれ。その質問に関わりのある話なんだ」
「嘘だったら、大変な目にあわせるからな」
「さっき先代と親がそう約束したと言ったが、私の親はアノマロカリス教の設立に深く関わった人間なんだ。当時、どちらが教祖に、教祖家になるか、そう揉めたんだろう、そして妥協点として、アノマロカリス教の二代目はまだ子供だった私にする、という約束が交わされた。しかし、しばらくして、神見が生まれた。…………思えば私の生涯はずっと先代の邪魔者だった。それに気がつかずに、ずっと、信じてきた。お笑いものだよ。現状からわかるように、先代は私の親との約束を反故にする気だった。それには邪魔者がいる。約束を知る私の親だよ。私などは、アノマロカリス教団に忠誠を誓っていた私など、どうとでもなると、そう思っていたのだろう。神見が生まれた同時期に、私の親は事故で死んでいる。そう、そうだよ。殺されたんだよ。先代のことを信じきっていた私は、ああ、それを知るのにどれほどの時間を私はあいつの手のひらの上で過ごしてきたというのか。邪魔者はみな殺してしまう癖があるんだ、あいつには」
「おれの家族も同じく、か」
「そうだ」
「で、その話と実行犯とに、なんの関係があるんだ?。大変な目にあわされてえのかよ?」
「わからないのか」
「なんだよ」
「実行犯だなんて、そんな後ろめたい邪魔者、どういう目にあったかわからないのか?」
「………なるほど。しかしだ。あんたの話は信憑性が乏しいぜ。なんせ元身内だからなあ。いや、今だって身内かもしれない男だからなあ。そもそも、邪魔者は殺すって、あんたはまだ生きてるじゃないか」
「見ろよこの私を。今にも死にそうだ。この店だって来月にはなくなるよ。そういうふうに追い込まれたんだ。教団も名が売れたから、荒療治はやめたみたいだよ。じきに私は死ぬよ」
「…警察には行かないのか?」
「君だって、行かないだろ?。その理由は、その理由に行き着いた道は違えど、きっと同じようなものだよ」
「食えなくなるから死ぬのか?」
「いや、少し違う。今後もあいつは私をずっと、ずっと今のように邪魔してくる。この先ずっと、何をやってもきっと、うまくいかない。それを考えると、死にたくなるんだ。それに、私は生まれてこの方、ずっと、人生に目印があった。それの為ならば、変な話だが命も惜しくないほどだった。それももうない。生きてたって何にもないんだよ。この先ずっと、苦しみしかない。だったら、死ぬ。それがあいつが、喧嘩別れした私にかけた呪いだ」
「喧嘩別れだと?」
「親の死の真実を、まるで反吐を出すように、汚く罵りながら、あいつは私に語ったよ」
「そうか。復讐しようと思わないのか?」
「復讐だって?。私が?。私に復讐する権利はない。惨めに死ぬんだよ。それが、せめてもの償いだ」
「………あんたが、おれんちを燃やした奴らを殺したのか?。悪事に手を染めたことへの償い?」
「そういったことだ」
「へえ、あんたが。そりゃどうも」
「いや、礼には及ばない」
「当たり前だろムカつくな!。だいたいなんだよ!。お前みたいな奴を真面目のじ抜きってんだよ!。肝心なとこに目がいってねえ!」
続
焦った、というのは特攻を決意した人間には不思議な感情だが、あまりに、あまりに軽い気持ちで、ニートだったころのよう、いつも通りといった体で行ったものだから、レイは焦るに至った。レイの希望的観測からしたら、3人はセットでいるはずだ、という期待もあった。
コンビニの前でレイはしばらく入るか入るまいか逡巡した。そして、どこか投げやりで客観的だったその決意がその身に落ち着いたころ、入ることに決めた。
佐井九は店に入ってきた男を見てぎょっとした。言うまでもなく、佐井九にはそれがレイであることに気がついたからだ。
いかにも閑古鳥の匂いがする閑散とした寂しい店内のレジで相対したふたり。しばし、ふたりの間に沈黙が流れ、その沈黙を破るように、遠くで消防車のサイレンが鳴った。
ここから如何なる修羅場に発展するのかと、おれは胸をときめかせたりしたもんだけど、そううまく問屋は卸さなかったよ。
改めて佐井九の面をまじまじと見たレイは、とてもおかしくなったのか、何を言う前に、ニヤリと笑った。そしてひとつ、大きくため息をつくと、そのまま店を出ようとした。復讐の旅に出たものが、標的たる人物を目の前に、笑い、ため息をつき、何もしない。こんなことがあるのだろうか。
わけもわからず、しかし思い当たる節があった佐井九は、レイを自動扉の前で呼び止め、二階の自宅に招いた。
レイは佐井九の顔をまじまじと見たとき、佐井九を強く憐れんだ。ふくよかだった顔は、遠目から見たらわからなかったが、見るも無惨に生気を失いぼやけた顔色、死んだ魚のように淀んだ瞳、当時の面影を少し残すぷくりとしたほっぺなどは、まるで口内に綿を含んでいるようで、目の下にはクマが色濃くありありと浮かんでいる。まさに棺桶片足だった。ちらりと店内を見渡せば、飼い犬は飼い主に似る、のそれだった。
レイは思った。ああ、こいつ捨てられたな、と。それはレイにとって充分憐みの対象になった。なぜならば、自分も捨てられたようなものだからだ。もちろん、ぶん殴ったりしたい気持ちもあるのだが、その憐れみとここで問題を起こしたら本懐を遂げられなくなる可能性という問題には遠く及ばないものだった。
佐井九からお呼びがかかるとレイは、なるようになれ、とつぶやいた。
小汚い居間で佐井九から話を訊けば、まさにレイの思った通りだった。佐井九は教団に、神見に捨てられていた。それは当然だといえば当然の仕打ちだが、ちょっと事情が違う。
なんでもあれからしばらく、オヤジ、神見と共に3人で教団を引っ張っていたのだが、教団の運営が予想だにしない形で軌道に乗り始めると、佐井九から教団を離れたらしいのだ。
「あれから何度も、何度も何度も、神見は私を求めてきたよ」
「そんなことをわざわざおれに言う神経を疑いますね」
「すまない。しかし聞いてくれ。ただ静かに」
「そうですか、ではひとつうるさく聞いてやりましょうか、お前バカヤローてめえこのお!、早く喋れバカヤロー!」
「………頼むよ」
「はい」
レイのテンションは高かった。その精神は悲しいはずの葬式で坊主の禿頭に一匹のハエが止まり笑わないように気をつけねばならない様に似ている。葬式じゃないから、思う存分に、はしゃぐ。心の奥底ではこいつをぶっ殺したい、しかしやらないと決めた。そのストレスのはけ口としてハイなテンションに繋がっている。
「私ははじめ、神見が私を愛していると思っていた。神見が私を認めていると思っていた。神見とは、すなわち、私の信ずる神様そのものであり、その神様から唯一私が愛を許された存在であると、私は嬉しかった。そして、満ち足りていたよ。教団にいた頃は否定していたが、いつの頃からか私も神見を愛していたのだろう」
「愛していたならあんなことするもんかよ」
「………しかし、神見が神延べ様になると、教団に信者が増えた。神見には人を惹きつける魅力があった。そしていままでにないぐらい教団に金が入ってきた。私はこの店の経営もそこそこにして、信者を含めた彼らと金回りを支えるシステムを構築した。ニートやひきこもりに特化した教団運営を考えたのも私だよ。今となってはそんなこと、だけども、そして」
「早く喋れよマジで、話の核を」
「ああ、そして」
「そしてじゃねえって、そして、なんて話の足し算だろ?、倍速で喋れ倍速で。おれは悠長にあんたの自伝を聞いてる暇はねえんだよ。かいつまめ」
「そして、今に至る」
「かいつまみ過ぎだろハゲコラ。ハハハ、おもしろいこと言いますねえ、とでもおれが言うと思ってんのか、おい」
「まあ、冗談はよしこちゃんにして」
そう言った佐井九の頭を、レイは結構強めに殴った。グーで。
「システムは単純で、ありきたりで、教団内ではっきりとしたヒエラルキーを敷き、長期に渡り彼らから金を搾取する寸法だった。それは教団に害をなす反乱分子を早い段階で見分けるのにも役立った」
「だから」
「そして」
「てめえ」
「それを確立してしばらくしたのち、私は教団を離れた」
「予防策を講じてんじゃねえぞ」
「………そのシステムの中で唯一、神見が提案したものがあった。上位者は神見の身の回りの世話をするってことだよ。私は反対したが、それと同時に私は信じていた。神見を信じきっていたから、それを組み込んだ。だが、私は間違っていた。何もかも、初めから何もかも間違っていた。神見は彼らを抱いたよ。狂ったように求めた。とっかえひっかえに。私なんて、神見にとって見れば、棒だよ。ただの棒に過ぎなかった。歩き回り考える棒に過ぎなかった」
「ま、ご立派な棒だけどな」
「神見は私など眼中になかった!!」
「うるせえ!、急に騒ぐな、そして人の冗談を無視すんな!」
「………私は喪失感に打ちひしがれた。私がいままでやってきたこと、教団の為神見の為にやってきたこと、そのすべては神見にとってどうでもいいことで、神見はただ快楽の淵に立っていたいだけだった。神見が私以外の男や女と日々まぐわっているのを、私は許せなかった。神延べ様である神見に、私は捨てられた、そう強く思ったと同時に、信仰を裏切ることはできない、という信仰心が立った。私はそのふたつの狭間から生じる煩悶に揺れた」
「あんたの話から信仰心なんて感じなかったけどな。ありきたりな金の亡者だろ」
「今の私はアノマロカリス教に信仰心がないから、そう聞こえたのだろう。当時の私はあくまでも、教団が繁栄するには金がいった、その一心だ。なにより、信仰心があればこそ、あの当時の神見にあんなことも出来た」
「一時の気狂いが免罪符になると思うなよ」
「悪かった。ひどいことをした」
「まあ、今はいい。そんで?」
「時を同じくして、私は先代から疎まれるようになった。教団のシステムが確立し、神見の御側御用の役目もなくなった私は、もはや教団にとっていらない人間になった。むしろ、邪魔者さ。色々と教団の暗部を知っているし、なにより私と先代の間には約束があった。それは私の親と先代との間で交わされた約束で、ま、アノマロカリス教の実質的な経営権の譲渡だ。金の亡者と君は言ったが、それは先代だよ。ちっぽけな個人経営の中小起業に過ぎなかったアノマロカリス教が巨大なものになるに連れ、赤の他人の私が邪魔になったのだろう」
「なんだ。あんたの代わりでも見つけてきたのか」
レイがそう口にだした時、頭で嫌な予感がした。
「神見に子供が産まれたんだ。まだ、教団の信者が増える前に、さ」
「誰の子だよ」
おそるおそる、レイは訊いた。
「君もわかっているように、時系列的に考えれば、私か、君か、先代の子、だろう。君は思い当たる節はあるか」
「おれじゃあない…はずだ」
避妊はしていたからだ。
「遺伝子検査なんかしたのか?」
「するもんか。まあ誰の子かは関係ない。先代は自分の子だと確信しているからね。あのとき、誰のものも皆、自分が掻きだしたわけだから」
「…………そうか。わかった。とにかく、それから辞めて、現状に至るってことだな。もういいよ。招かれた礼儀で話を訊いてやったが、今度はおれの質問に答えてもらう。そうだな、おれんちを燃やし、家族を殺した奴を知っているか、だ」
「…その質問にはどう答えるべきか。まず、私の話を聞いて欲しい」
「お前、人の話を聞いているのか?」
「まあ待ってくれ。その質問に関わりのある話なんだ」
「嘘だったら、大変な目にあわせるからな」
「さっき先代と親がそう約束したと言ったが、私の親はアノマロカリス教の設立に深く関わった人間なんだ。当時、どちらが教祖に、教祖家になるか、そう揉めたんだろう、そして妥協点として、アノマロカリス教の二代目はまだ子供だった私にする、という約束が交わされた。しかし、しばらくして、神見が生まれた。…………思えば私の生涯はずっと先代の邪魔者だった。それに気がつかずに、ずっと、信じてきた。お笑いものだよ。現状からわかるように、先代は私の親との約束を反故にする気だった。それには邪魔者がいる。約束を知る私の親だよ。私などは、アノマロカリス教団に忠誠を誓っていた私など、どうとでもなると、そう思っていたのだろう。神見が生まれた同時期に、私の親は事故で死んでいる。そう、そうだよ。殺されたんだよ。先代のことを信じきっていた私は、ああ、それを知るのにどれほどの時間を私はあいつの手のひらの上で過ごしてきたというのか。邪魔者はみな殺してしまう癖があるんだ、あいつには」
「おれの家族も同じく、か」
「そうだ」
「で、その話と実行犯とに、なんの関係があるんだ?。大変な目にあわされてえのかよ?」
「わからないのか」
「なんだよ」
「実行犯だなんて、そんな後ろめたい邪魔者、どういう目にあったかわからないのか?」
「………なるほど。しかしだ。あんたの話は信憑性が乏しいぜ。なんせ元身内だからなあ。いや、今だって身内かもしれない男だからなあ。そもそも、邪魔者は殺すって、あんたはまだ生きてるじゃないか」
「見ろよこの私を。今にも死にそうだ。この店だって来月にはなくなるよ。そういうふうに追い込まれたんだ。教団も名が売れたから、荒療治はやめたみたいだよ。じきに私は死ぬよ」
「…警察には行かないのか?」
「君だって、行かないだろ?。その理由は、その理由に行き着いた道は違えど、きっと同じようなものだよ」
「食えなくなるから死ぬのか?」
「いや、少し違う。今後もあいつは私をずっと、ずっと今のように邪魔してくる。この先ずっと、何をやってもきっと、うまくいかない。それを考えると、死にたくなるんだ。それに、私は生まれてこの方、ずっと、人生に目印があった。それの為ならば、変な話だが命も惜しくないほどだった。それももうない。生きてたって何にもないんだよ。この先ずっと、苦しみしかない。だったら、死ぬ。それがあいつが、喧嘩別れした私にかけた呪いだ」
「喧嘩別れだと?」
「親の死の真実を、まるで反吐を出すように、汚く罵りながら、あいつは私に語ったよ」
「そうか。復讐しようと思わないのか?」
「復讐だって?。私が?。私に復讐する権利はない。惨めに死ぬんだよ。それが、せめてもの償いだ」
「………あんたが、おれんちを燃やした奴らを殺したのか?。悪事に手を染めたことへの償い?」
「そういったことだ」
「へえ、あんたが。そりゃどうも」
「いや、礼には及ばない」
「当たり前だろムカつくな!。だいたいなんだよ!。お前みたいな奴を真面目のじ抜きってんだよ!。肝心なとこに目がいってねえ!」
続
アノマニスからの脱却(5)
あれからどのぐらい時間が過ぎたろう。正解は約3年。解答早っ。あいつあれから何してたって?。色々あったよ、レイには。だけどなんにもなかったよ。レイにはさ。おれにはこれしかない、てやつが、もうないからねえ。
とりあえずあいつのことなんか放っておいて、あれから神見がどうしてたか、そっちのほうが大事だと思うんだ。
神見は見事、通過儀礼とでもいうのか、あれを経たのち教祖、すなわち、神延べ様になった。
神延べ様になった神見を有するアノマロカリス教は、それはそれは教徒を増やしてねえ。やっぱり変なおっさんよりも若い娘、どことなく淫靡で、どことなく白い夢を見ているような娘のほうが、そりゃあ、いいってもんだよねえ。神見を広告塔にした結果、爆発的に増えた教徒の数は日本の人口をはるか上回り、その数実に50億、こうなったら神も仏もないもんだ。アノマロカリス教は世界の政府期間を牛耳り、色々あって、まあなんて言うの?、そんな20世紀少年状態。
ってのはただの冗談だよ。20世紀少年状態かな?、この話って20世紀少年状態かな?、なんて思ってたりした読者がいたかもしれないからねえ。
神見はあれからすぐ、神延べ様になった。どことなく淫靡で、どことなく白い夢を見ている、その姿はまるで水を薄めたよう、きれいな教祖様。ちょっと愛嬌あるぐらいの顔の方が、淫らに拍車がかかる。精液顔、精液浴びたあとにかわいくなる顔ってあるじゃない?、常時、そんなの。
教徒の数は増えた。世界をどうこう、日本をどうこういう状況じゃないけど、以前とは比較にならないぐらい増えた。それもニートやひきこもりや、いままでその人生においてバレンタインデーにチョコなぞ貰った試しがないだろうモテない男達の教徒が爆発的に増えた。そしたら、家事手伝いやひきこもりや、いままでその人生においてホワイトデーにお返しを貰った試しがないだろう女達も次々入信してきた。
だってそうだろ?、かわいい教祖が夢みてるんだから。打ち震えるね。体が心が、打ち震えるよ。ひきこもりを味方にしたのはでかかったなあ。教団の存在理由が姥捨て山、ひきこもり捨て山になったんだよ。言い方が悪いか、いわばひきこもり再生工場さ。某ヨットスクールみたいなもんさ。駆け込み寺か。もういやだってさ、そりゃあひきこまれもしたら、親はそう思うよね。君は母親が夜な夜な口に出さない本音を書き連ねている日記を盗み見たことあるか?。その口に出さない本音が喉に詰まり、臨界点をむかえたときに、アノマロカリス教はあるんだ。格安で引き取ってくれるよ、厄介な命。
実際、ひきこもり再生工場はそれなりにうまく稼働して、それなりの実績作ってるよ。どうやって?、それはレイの場合と一緒だよ。
教団内で位があがると神延べ様と夜伽ができるという特典がある。誰彼構わずさ。男も女も老いも若いも誰彼構わずだよ。昼夜問わずに誰彼構わず、平等に。その霊験に、男も女もあまり差はないんだねえ。
アノマロカリス教の道場から帰ってきた息子や娘が、やたらすっきりした顔で帰ってきやがる。明るくて朗らかで、笑顔だよ。冗談なんか通じてね、「いやだなあ、あの頃のことは忘れておくれよ」なんて恥ずかしげもなく笑いながらさらりと言ってのけちまう。居間で。居間でだよ居間で。
親はそりゃ教団に感謝するよね。だから、働き出した子供が稼ぎ始めた給料から幾らかをまさかそこから生きて帰ってくるとは思わなかった教団におさめていても、見てみぬフリをするか、こっちの財布から倍でドンだよ。
そう、子女らが元気で帰ってきたはいいものの、もれなく別の厄介が代わりにやってきやがる。だけど、ようやく、働かざる者食うべからずの因果律に乗った子供に、何を言う、何を言えるっていうんだよ。何か言って結局また、ってなったら最悪の事態だろ。
そんな具合だね、神見は。腰を振るよ神見は。のの字にさ。神見は平等に悦楽を与えてるんじゃない。彼らはみな神見の平等な快楽のはけ口さ。
最近までは、知る人ぞ知る教団で、口コミやらなんやらで耳から耳へと狭い世界を伝わる程度だったんだけどねえ。そんだけ派手にやってりゃ、耳だけじゃなく目も集めるわな。ましてや基本的には宗教屋さんで通ってるからねえ。いなたい週刊誌からテレビへと、段々マスコミの扱いがでかくなってきた。
「セックス教団現る」
とか、はじめはそんな見出しが誌面に踊ったもんだよ。教団側のガードも甘かったからねえ。だけど、秘密ってやつは押しつけでもした日には、それに鍵をかける方法はひとつ、死人に口なし、だけどさ、秘密にしてない秘密ってのは堅いね。教徒達が自発的に鍵かけちまいやがるからさ。まあ、そんなことじゃなくて、単に、「神延べ様に童貞を捧げました」、なんて、言わないわな。親バレじゃん。初体験が親バレしちゃうじゃん。それに、一応夜伽まで頑張る奴は、盲信者だし。「働く喜びを教えてくれました」だなんて、違うヨロコビだろ。
「ひきこもり脱却に新たな手法」
「社会問題に取り組む宗教」
「子供のひきこもり、悩める親に朗報」
とかさ。媒体が大きくなるほど、ややもすると実態からかけ離れていくもんだよ。ま、教団がメディア操作に何も手を尽くしていなかったとは言わないけど。いやそんな妄想めいたこと、ないない。
こうなればだ、嫌でもレイの耳目にアノマロカリス教の現在は伝わる。
だけど、レイは、我関せず、だったよ。ずいぶん嫌な思いをさせられたからねえ。
今レイは東北にいる。あのときあれからさ、とにかく北を、日本海を目指してたんだけど、やっぱり嫌なことあったら日本海てなもんでさ、でもなぜか気がついたら東北の太平洋側にいたという始末。そこで下働きしてるよ。港でさ。いやなに、親戚のツテがあって。
全然世捨て人ではないよ?。ちゃっかり、恋人なんてものもいたりする。結構風にたなびく柳みたいにさ、さらさらと人並みにしあわせな生活を営んでいるよ。え、ああ、あの火災の事後処理やらなんやらは、少ーし、ほんの少ーし、放浪生活したあと、ちゃんとやったよ?。だって、ちゃんとやらなきゃ、じゃん。そういうことは、ちゃんとやらなきゃ、じゃん。いわゆる行方不明者になってからすぐにその親戚に連絡入れたし。ま、思い当たる火災の原因、だけは誰にも言わなかったけどさ。そのせいで当然のように犯人扱いされたこともあったりしたけど、疑いはすぐに晴れたよ。だって、神見が証言したもんね。彼はあのときうちに遊びにきていましたって。
え、ああ、あのあと割かしすぐにふたりは一回顔をあわせてるよ?。警察署で。それがどうした?。
でもさ、神見は、「放火の首謀者は私の父親です」とは紅連次郎に、もとい、ポリスには言わなかったんだよ。世間知らずの神見だってあのタイミングでああいうことが起きりゃ犯人の目星のひとつぐらいつくだろうに、極めて静かにそう言った。それがすべて、それがすべてだろ。
警察署から出ると、レイは神見に、「大丈夫か?」って言おうとしたんだけど、どこか愉しげな神見は薄く笑ってるだけでさ、レイはその神見の表情を見て息をのむと、さようならも言わないで神見は勝手に帰っていった。さすがにそれ以来会ってはいないねえ。
レイは家族が死んだことを、自分のせいにしたんだ。いやまあレイが危ない女を抱いちゃったからそうなったんだけど、そうじゃなくて。鬱屈したニート時代、なんべんもなんべんもなんべんもなんべんもなんべんもさ。「みんな死ねばいい」なんて思ったり、その状況を妄想して楽しんだり、自分で作った不可知論的発想からくるひどく都合のいい操り人形みたいな神様に本気で夜通しそれを祈ったりしてたもんだからさ。風呂場の床に小さな石鹸をわざと落としておいたりさ。
それが、叶った。叶ってしまった。
そう思ったりしたから、そう思うことにした。単純なことだったよ。とても悲しかったけど、そう思うことで、少しは楽になれたんじゃないかな、レイの場合は。
といってもすべてを水に流せたわけじゃない。心に深い傷が、そりゃ深い残ってる。性欲体力ともに有り余っている年齢なのにインポテンツになるぐらい、傷は残ってる。だけど、いまさらの話なんだよ。どうしろってんだよ。レイは忘れたいのにさ。忘却の彼方を目指して今東北にいるのにさ。あっちが有名になって追いついてきたからって、レイにどうしろと言うんだよ。
おれなら言うね、うじうじ悩んでインポテンツになってるぐらいなら、めんどくせえから復讐の旅に出ろ、と。
うん、だからレイは教団に、オヤジに、佐井九に、受けた傷を10倍にして返してやろうと復讐を決意した。港近くの集会所で昼間のワイドショーに映る神見の目にモザイク入れられた写真を漁師達と観ながら密かにね。たわわに白く輝く半分あらわになった乳房を観ながらね!!。
いやまあ、そんなメタな「機会仕掛けの神様」もないだろうと、多少なりともレイがどうして、それなりの幸福な生活を捨ててまでその決意をしたのか説明せにゃならん。
テレビで紹介された神見の右耳に、自分がプレゼントした赤い小さなイヤリングがつけられていたから。
だね。
それ以上何か述べるのは、野暮ってものだよ。
そうして、レイはある日港をあとにした。生きて帰ってこれるとは思っちゃいない。恋も愛も親戚にも港の人達にも未練はない。どうせおれはインポだし、どうせおれはインポだし。今のままならこれからずっとインポだし。お先真っ暗じゃないか、せっかくニートじゃなくなったのに、これじゃあお先真っ暗じゃないか。
ただ、昔背負ったでっかい荷物(インポ)を返しにいくだけだ。レイはそればかり思って、東北新幹線の上り線に乗り込み、上野でおり、日比谷線に乗り換え、ついに、また教団本部のあるこの町へと戻ってきた。
武器も持たず、裸でレイは教団本部に、すなわち、神見の実家前までやってきた。
が、
そこには違う人が住んでいた。バリケードなくなってたし、すっかり普通の家にリフォームされてた。すかされたねえ。レイはすかされたよ。まるでRPGゲームの序盤。責任感の欠如した村人のメッセージに右往左往するハメになった勇者のごとく、レイはすかされたねえ。
しかし、中世をモチーフにしたRPGゲームには無い、とても都合のいいアイテムをレイは持っている。文明の利器、携帯電話だ!!。これがあればいつでも遠くの人と連絡が取れるし、大概のことは判明する。地図だって見れるし、行き先案内もしてくれる。もう、この村には用はない。レイは颯爽と駅へと向かい歩いて行った。
いや、待てよ。
結構な時間歩いたこととぽかぽか陽気とに誘われ、何か飲み物を求めコンビニに立ち寄ろうとしたとき、ふと、あのコンビニはまだあるのか、という思いに至った。あのコンビニとはもちろん、ニート時代に通いつめ、神見と出逢うきっかけにもなった佐井九のコンビニだ。本丸への特攻ばかり先に立ち、すっかりあのコンビニのことなど頭から離れていた。
教団本部が移ったならあいつももういないのだろう、そんな軽い気持ちで、レイはそこに向かうことにした。
続
とりあえずあいつのことなんか放っておいて、あれから神見がどうしてたか、そっちのほうが大事だと思うんだ。
神見は見事、通過儀礼とでもいうのか、あれを経たのち教祖、すなわち、神延べ様になった。
神延べ様になった神見を有するアノマロカリス教は、それはそれは教徒を増やしてねえ。やっぱり変なおっさんよりも若い娘、どことなく淫靡で、どことなく白い夢を見ているような娘のほうが、そりゃあ、いいってもんだよねえ。神見を広告塔にした結果、爆発的に増えた教徒の数は日本の人口をはるか上回り、その数実に50億、こうなったら神も仏もないもんだ。アノマロカリス教は世界の政府期間を牛耳り、色々あって、まあなんて言うの?、そんな20世紀少年状態。
ってのはただの冗談だよ。20世紀少年状態かな?、この話って20世紀少年状態かな?、なんて思ってたりした読者がいたかもしれないからねえ。
神見はあれからすぐ、神延べ様になった。どことなく淫靡で、どことなく白い夢を見ている、その姿はまるで水を薄めたよう、きれいな教祖様。ちょっと愛嬌あるぐらいの顔の方が、淫らに拍車がかかる。精液顔、精液浴びたあとにかわいくなる顔ってあるじゃない?、常時、そんなの。
教徒の数は増えた。世界をどうこう、日本をどうこういう状況じゃないけど、以前とは比較にならないぐらい増えた。それもニートやひきこもりや、いままでその人生においてバレンタインデーにチョコなぞ貰った試しがないだろうモテない男達の教徒が爆発的に増えた。そしたら、家事手伝いやひきこもりや、いままでその人生においてホワイトデーにお返しを貰った試しがないだろう女達も次々入信してきた。
だってそうだろ?、かわいい教祖が夢みてるんだから。打ち震えるね。体が心が、打ち震えるよ。ひきこもりを味方にしたのはでかかったなあ。教団の存在理由が姥捨て山、ひきこもり捨て山になったんだよ。言い方が悪いか、いわばひきこもり再生工場さ。某ヨットスクールみたいなもんさ。駆け込み寺か。もういやだってさ、そりゃあひきこまれもしたら、親はそう思うよね。君は母親が夜な夜な口に出さない本音を書き連ねている日記を盗み見たことあるか?。その口に出さない本音が喉に詰まり、臨界点をむかえたときに、アノマロカリス教はあるんだ。格安で引き取ってくれるよ、厄介な命。
実際、ひきこもり再生工場はそれなりにうまく稼働して、それなりの実績作ってるよ。どうやって?、それはレイの場合と一緒だよ。
教団内で位があがると神延べ様と夜伽ができるという特典がある。誰彼構わずさ。男も女も老いも若いも誰彼構わずだよ。昼夜問わずに誰彼構わず、平等に。その霊験に、男も女もあまり差はないんだねえ。
アノマロカリス教の道場から帰ってきた息子や娘が、やたらすっきりした顔で帰ってきやがる。明るくて朗らかで、笑顔だよ。冗談なんか通じてね、「いやだなあ、あの頃のことは忘れておくれよ」なんて恥ずかしげもなく笑いながらさらりと言ってのけちまう。居間で。居間でだよ居間で。
親はそりゃ教団に感謝するよね。だから、働き出した子供が稼ぎ始めた給料から幾らかをまさかそこから生きて帰ってくるとは思わなかった教団におさめていても、見てみぬフリをするか、こっちの財布から倍でドンだよ。
そう、子女らが元気で帰ってきたはいいものの、もれなく別の厄介が代わりにやってきやがる。だけど、ようやく、働かざる者食うべからずの因果律に乗った子供に、何を言う、何を言えるっていうんだよ。何か言って結局また、ってなったら最悪の事態だろ。
そんな具合だね、神見は。腰を振るよ神見は。のの字にさ。神見は平等に悦楽を与えてるんじゃない。彼らはみな神見の平等な快楽のはけ口さ。
最近までは、知る人ぞ知る教団で、口コミやらなんやらで耳から耳へと狭い世界を伝わる程度だったんだけどねえ。そんだけ派手にやってりゃ、耳だけじゃなく目も集めるわな。ましてや基本的には宗教屋さんで通ってるからねえ。いなたい週刊誌からテレビへと、段々マスコミの扱いがでかくなってきた。
「セックス教団現る」
とか、はじめはそんな見出しが誌面に踊ったもんだよ。教団側のガードも甘かったからねえ。だけど、秘密ってやつは押しつけでもした日には、それに鍵をかける方法はひとつ、死人に口なし、だけどさ、秘密にしてない秘密ってのは堅いね。教徒達が自発的に鍵かけちまいやがるからさ。まあ、そんなことじゃなくて、単に、「神延べ様に童貞を捧げました」、なんて、言わないわな。親バレじゃん。初体験が親バレしちゃうじゃん。それに、一応夜伽まで頑張る奴は、盲信者だし。「働く喜びを教えてくれました」だなんて、違うヨロコビだろ。
「ひきこもり脱却に新たな手法」
「社会問題に取り組む宗教」
「子供のひきこもり、悩める親に朗報」
とかさ。媒体が大きくなるほど、ややもすると実態からかけ離れていくもんだよ。ま、教団がメディア操作に何も手を尽くしていなかったとは言わないけど。いやそんな妄想めいたこと、ないない。
こうなればだ、嫌でもレイの耳目にアノマロカリス教の現在は伝わる。
だけど、レイは、我関せず、だったよ。ずいぶん嫌な思いをさせられたからねえ。
今レイは東北にいる。あのときあれからさ、とにかく北を、日本海を目指してたんだけど、やっぱり嫌なことあったら日本海てなもんでさ、でもなぜか気がついたら東北の太平洋側にいたという始末。そこで下働きしてるよ。港でさ。いやなに、親戚のツテがあって。
全然世捨て人ではないよ?。ちゃっかり、恋人なんてものもいたりする。結構風にたなびく柳みたいにさ、さらさらと人並みにしあわせな生活を営んでいるよ。え、ああ、あの火災の事後処理やらなんやらは、少ーし、ほんの少ーし、放浪生活したあと、ちゃんとやったよ?。だって、ちゃんとやらなきゃ、じゃん。そういうことは、ちゃんとやらなきゃ、じゃん。いわゆる行方不明者になってからすぐにその親戚に連絡入れたし。ま、思い当たる火災の原因、だけは誰にも言わなかったけどさ。そのせいで当然のように犯人扱いされたこともあったりしたけど、疑いはすぐに晴れたよ。だって、神見が証言したもんね。彼はあのときうちに遊びにきていましたって。
え、ああ、あのあと割かしすぐにふたりは一回顔をあわせてるよ?。警察署で。それがどうした?。
でもさ、神見は、「放火の首謀者は私の父親です」とは紅連次郎に、もとい、ポリスには言わなかったんだよ。世間知らずの神見だってあのタイミングでああいうことが起きりゃ犯人の目星のひとつぐらいつくだろうに、極めて静かにそう言った。それがすべて、それがすべてだろ。
警察署から出ると、レイは神見に、「大丈夫か?」って言おうとしたんだけど、どこか愉しげな神見は薄く笑ってるだけでさ、レイはその神見の表情を見て息をのむと、さようならも言わないで神見は勝手に帰っていった。さすがにそれ以来会ってはいないねえ。
レイは家族が死んだことを、自分のせいにしたんだ。いやまあレイが危ない女を抱いちゃったからそうなったんだけど、そうじゃなくて。鬱屈したニート時代、なんべんもなんべんもなんべんもなんべんもなんべんもさ。「みんな死ねばいい」なんて思ったり、その状況を妄想して楽しんだり、自分で作った不可知論的発想からくるひどく都合のいい操り人形みたいな神様に本気で夜通しそれを祈ったりしてたもんだからさ。風呂場の床に小さな石鹸をわざと落としておいたりさ。
それが、叶った。叶ってしまった。
そう思ったりしたから、そう思うことにした。単純なことだったよ。とても悲しかったけど、そう思うことで、少しは楽になれたんじゃないかな、レイの場合は。
といってもすべてを水に流せたわけじゃない。心に深い傷が、そりゃ深い残ってる。性欲体力ともに有り余っている年齢なのにインポテンツになるぐらい、傷は残ってる。だけど、いまさらの話なんだよ。どうしろってんだよ。レイは忘れたいのにさ。忘却の彼方を目指して今東北にいるのにさ。あっちが有名になって追いついてきたからって、レイにどうしろと言うんだよ。
おれなら言うね、うじうじ悩んでインポテンツになってるぐらいなら、めんどくせえから復讐の旅に出ろ、と。
うん、だからレイは教団に、オヤジに、佐井九に、受けた傷を10倍にして返してやろうと復讐を決意した。港近くの集会所で昼間のワイドショーに映る神見の目にモザイク入れられた写真を漁師達と観ながら密かにね。たわわに白く輝く半分あらわになった乳房を観ながらね!!。
いやまあ、そんなメタな「機会仕掛けの神様」もないだろうと、多少なりともレイがどうして、それなりの幸福な生活を捨ててまでその決意をしたのか説明せにゃならん。
テレビで紹介された神見の右耳に、自分がプレゼントした赤い小さなイヤリングがつけられていたから。
だね。
それ以上何か述べるのは、野暮ってものだよ。
そうして、レイはある日港をあとにした。生きて帰ってこれるとは思っちゃいない。恋も愛も親戚にも港の人達にも未練はない。どうせおれはインポだし、どうせおれはインポだし。今のままならこれからずっとインポだし。お先真っ暗じゃないか、せっかくニートじゃなくなったのに、これじゃあお先真っ暗じゃないか。
ただ、昔背負ったでっかい荷物(インポ)を返しにいくだけだ。レイはそればかり思って、東北新幹線の上り線に乗り込み、上野でおり、日比谷線に乗り換え、ついに、また教団本部のあるこの町へと戻ってきた。
武器も持たず、裸でレイは教団本部に、すなわち、神見の実家前までやってきた。
が、
そこには違う人が住んでいた。バリケードなくなってたし、すっかり普通の家にリフォームされてた。すかされたねえ。レイはすかされたよ。まるでRPGゲームの序盤。責任感の欠如した村人のメッセージに右往左往するハメになった勇者のごとく、レイはすかされたねえ。
しかし、中世をモチーフにしたRPGゲームには無い、とても都合のいいアイテムをレイは持っている。文明の利器、携帯電話だ!!。これがあればいつでも遠くの人と連絡が取れるし、大概のことは判明する。地図だって見れるし、行き先案内もしてくれる。もう、この村には用はない。レイは颯爽と駅へと向かい歩いて行った。
いや、待てよ。
結構な時間歩いたこととぽかぽか陽気とに誘われ、何か飲み物を求めコンビニに立ち寄ろうとしたとき、ふと、あのコンビニはまだあるのか、という思いに至った。あのコンビニとはもちろん、ニート時代に通いつめ、神見と出逢うきっかけにもなった佐井九のコンビニだ。本丸への特攻ばかり先に立ち、すっかりあのコンビニのことなど頭から離れていた。
教団本部が移ったならあいつももういないのだろう、そんな軽い気持ちで、レイはそこに向かうことにした。
続
途中で投げようとした微笑シリーズ。かっこいい言い訳
『早く漏れたときの言い訳考えようぜ』
「早漏、ってやつだな?」
『いや、早漏となると、それは慢性的なものになってくるだろ?、しかし、たとえ普段早漏ではなくても何かの拍子にその場限りで早く漏れることがあるだろ』
「真面目に答えられた。まあとにかく、先にイっちゃった場合の言い訳ってことだよな?」
『そう』
「言い訳ねえ」
『お前ならなんて言う?』
「なんて言うもなにも、ごめん、と謝るしかないよな」
『言い訳してねえじゃねえか』
「言い訳っつってもそんな場合に言い訳もクソもないだろ。出してるわけだから。目に見えて出してるわけだから。シュンってなってきてるわけだから」
『だから考えようって言ってんだろ』
「考えようって言われてもな。なんだ、昨日食ったもんが悪かったとかか?」
『ガキじゃねえんだから、それに直前に精力がつく的な云われの何かを食ってたらどうすんだよ。スッポン食ってたらどうすんだよ』
「その時は、引き続き二回戦を」
『はん』
「突っぱねられた」
『限らないね。二回戦できるスタミナと精神力が残されてるとは限らないね!』
「ああ、そうですか」
『まったくもって限らないよ』
「言い訳ねえ、ああそうだ、忘れてたけど、いつもはこうじゃないって言うよな」
『出た。いつもはこうじゃない宣言』
「いつもはこうじゃない宣言」
『はん』
「また突っぱねられた」
『あなた何かで人に、いつもはこうじゃない、って言われて、それを信用しますか?』
「まあ、そうなんだ、と」
『嘘だね!、はん、嘘だね!、嘘嘘!』
「いや」
『嘘だね!、はん、嘘ついちゃってまあ、お前はんときたら』
「はんはんうるさいよ」
『いつもはこうじゃないって言われたら、そんなもん、普段からこうですって言ってるのと同じだろ!』
「まあ、そういうもんかなあ」
『そういうもんだろ』
「あの、友達の話なんだけど、みたいな」
『いや、友達の話は実際に友達がなんかしたって話だろ』
「そっちは信用すんのかよ」
『いや相手が、友達がおれしかいない奴、なら話は別ですよ?』
「そりゃそうだ、そりゃそうだよ」
『自分がなんかした話をわざわざ友達に置き換える必要がないだろ』
「いやだから、その行動やら言動やらが自分が行ったと知られたくないときに友達が出てくるんだよ」
『へー、例えば』
「例えば、そりゃ、友達の彼氏が極度の早漏でその友達悩んでるんだって、とか」
『なるほど、話を戻すのですなあ!』
「はい」
『例えばさ』
「先にイっちゃった場合の言い訳ね」
『楽しい時間は早く過ぎるものさ、とか』
「なんかそれ、言い訳というよりももはや自虐的な皮肉だよな」
『先立つ不幸をお許しくださいとか』
「謝っちゃってるじゃねえか」
『おれが先にいくからお前はあとからついて来い、とか』
「どういうセックスしたらそんなこと言われて納得できるんだよ」
『………まあ、他にはなんも思いつかないな』
「短い春だなおい」
『…………うん、なんも思いつかない。おれはなんも思いつかないよ』
「そうか。じゃあというか、先にイっちゃった場合はさ、目に見えて結果出てるわけじゃん。もはや言い訳挟む余地ないじゃん?」
『ある!、きっとある!』
「いや、おれの進行を折るなよ。だからさ、言い訳言ったところで相手のテンション下がるだけだからさ」
『いやきっとある!、どちらも得する言い訳が、いわばウィンウィンの言い訳が』
「ウィンウィン言われても、もうバイブの擬音にしか聞こえねえよ」
『そうだ、バイブを使おう』
「そうだ京都に行こうみたく言うな」
『で?』
「で?って。まあだからさ、もうね、先にイっちゃった場合、言い訳じゃなくて、もうそうなると、相手になんて言われたら二回戦いく気になれるかだと思うんだ」
『ああ、女性がどうフォローすんのかと』
「うん。役立たず!、なんて言われたらトラウマもんだぜ?」
『おれはむしろ燃えるけどな』
「M」
投げた、ものにちょっと足した。
そうそう、友達の話なんだけど、なんか今ブログで書いてる連続物語のあまりのつまらなさに絶望して消去したいらしいよ。思ってたのと違うんだって。まだそれ物語の途中らしいんだけど、続きを書くつもりはないんだってさ。
だってさあ、完全に見切り発車だったもの。完全に見切り発車だったもの。
見切り発射って書くと………………
さようなら。
「早漏、ってやつだな?」
『いや、早漏となると、それは慢性的なものになってくるだろ?、しかし、たとえ普段早漏ではなくても何かの拍子にその場限りで早く漏れることがあるだろ』
「真面目に答えられた。まあとにかく、先にイっちゃった場合の言い訳ってことだよな?」
『そう』
「言い訳ねえ」
『お前ならなんて言う?』
「なんて言うもなにも、ごめん、と謝るしかないよな」
『言い訳してねえじゃねえか』
「言い訳っつってもそんな場合に言い訳もクソもないだろ。出してるわけだから。目に見えて出してるわけだから。シュンってなってきてるわけだから」
『だから考えようって言ってんだろ』
「考えようって言われてもな。なんだ、昨日食ったもんが悪かったとかか?」
『ガキじゃねえんだから、それに直前に精力がつく的な云われの何かを食ってたらどうすんだよ。スッポン食ってたらどうすんだよ』
「その時は、引き続き二回戦を」
『はん』
「突っぱねられた」
『限らないね。二回戦できるスタミナと精神力が残されてるとは限らないね!』
「ああ、そうですか」
『まったくもって限らないよ』
「言い訳ねえ、ああそうだ、忘れてたけど、いつもはこうじゃないって言うよな」
『出た。いつもはこうじゃない宣言』
「いつもはこうじゃない宣言」
『はん』
「また突っぱねられた」
『あなた何かで人に、いつもはこうじゃない、って言われて、それを信用しますか?』
「まあ、そうなんだ、と」
『嘘だね!、はん、嘘だね!、嘘嘘!』
「いや」
『嘘だね!、はん、嘘ついちゃってまあ、お前はんときたら』
「はんはんうるさいよ」
『いつもはこうじゃないって言われたら、そんなもん、普段からこうですって言ってるのと同じだろ!』
「まあ、そういうもんかなあ」
『そういうもんだろ』
「あの、友達の話なんだけど、みたいな」
『いや、友達の話は実際に友達がなんかしたって話だろ』
「そっちは信用すんのかよ」
『いや相手が、友達がおれしかいない奴、なら話は別ですよ?』
「そりゃそうだ、そりゃそうだよ」
『自分がなんかした話をわざわざ友達に置き換える必要がないだろ』
「いやだから、その行動やら言動やらが自分が行ったと知られたくないときに友達が出てくるんだよ」
『へー、例えば』
「例えば、そりゃ、友達の彼氏が極度の早漏でその友達悩んでるんだって、とか」
『なるほど、話を戻すのですなあ!』
「はい」
『例えばさ』
「先にイっちゃった場合の言い訳ね」
『楽しい時間は早く過ぎるものさ、とか』
「なんかそれ、言い訳というよりももはや自虐的な皮肉だよな」
『先立つ不幸をお許しくださいとか』
「謝っちゃってるじゃねえか」
『おれが先にいくからお前はあとからついて来い、とか』
「どういうセックスしたらそんなこと言われて納得できるんだよ」
『………まあ、他にはなんも思いつかないな』
「短い春だなおい」
『…………うん、なんも思いつかない。おれはなんも思いつかないよ』
「そうか。じゃあというか、先にイっちゃった場合はさ、目に見えて結果出てるわけじゃん。もはや言い訳挟む余地ないじゃん?」
『ある!、きっとある!』
「いや、おれの進行を折るなよ。だからさ、言い訳言ったところで相手のテンション下がるだけだからさ」
『いやきっとある!、どちらも得する言い訳が、いわばウィンウィンの言い訳が』
「ウィンウィン言われても、もうバイブの擬音にしか聞こえねえよ」
『そうだ、バイブを使おう』
「そうだ京都に行こうみたく言うな」
『で?』
「で?って。まあだからさ、もうね、先にイっちゃった場合、言い訳じゃなくて、もうそうなると、相手になんて言われたら二回戦いく気になれるかだと思うんだ」
『ああ、女性がどうフォローすんのかと』
「うん。役立たず!、なんて言われたらトラウマもんだぜ?」
『おれはむしろ燃えるけどな』
「M」
投げた、ものにちょっと足した。
そうそう、友達の話なんだけど、なんか今ブログで書いてる連続物語のあまりのつまらなさに絶望して消去したいらしいよ。思ってたのと違うんだって。まだそれ物語の途中らしいんだけど、続きを書くつもりはないんだってさ。
だってさあ、完全に見切り発車だったもの。完全に見切り発車だったもの。
見切り発射って書くと………………
さようなら。
微笑シリーズ。困ったときのファミレスさわやか変
「あー腹へった。ファミレスか、よし」
『いらっしゃいませ。お客様は何名様で』
「ひとり」
『ひとり?、ひとりでございますか?』
「えっ、ひとりだけど?」
『…………』
「なん…ですか?」
『………あのお客様』
「なに」
『もしよろしければ、店にいる間、わたしのことを生き別れた双子の兄だと』
「は!?、なにそれ」
『ジョン、ジョンじゃないか!』
「いや、人を飼い犬みたく呼ぶなよ。なんだよ急に!」
『当店ではお一人様でご来店なされたお客様にはもれなく疑似家族をサービスいたしております』
「なんだよそのサービス!、いらないよ!、いいだろひとりでファミレスに来たって!」
『久しぶりなのにつれないなジョン』
「だからジョンって呼ぶなよ!、そのサービスいらないから!、ていうかなんでジョンなんだよ!、おれぱっと見ジョンって顔じゃないだろ!」
『ちゃんとした名前を付けてしまうと情が移ってしまう』
「捨て犬!、捨て犬の理論だろそれ!、客を捨て犬扱いすんなよ!」
『情が移ってしまいます』
「情が移ってしまいますじゃねえよ!、やめろ!」
『えっ、ではサービスをお受けにならないと?』
「当たり前だろ」
『では、お客様はなぜ当店に?』
「メシを食いにだよ!、ファミレスだろここ!、そういうプレイする場所じゃないだろ!?」
『残飯をあさりに』
「脳内で言葉が変換されてるだろ!、駄目だろ客に残飯だしたら。ちゃんとしたメシ食いにだよ!」
『メシを食いに』
「そうだよ!」
『ひとりで食べるご飯よりも生き別れた双子の』
「いいから!、もういいから!、ていうかお前兄なのな!、弟でいいだろ!、まあいいや、早く席案内して」
『そうですか、ではお客様、お席のほう、ダンボールの席と屋根付きの席が』
「ジョン!、ジョン引きずってるよ!」
『冗談ですよ』
「言わなくていいんだよ」
『では、喫煙席と禁煙席』
「ああ、喫煙ね」
『それと、風の吹き抜ける席がございますが』
「え?なにもう一回言って」
『ですからぁ』
「客にですからとか言うなよ。ギャルかお前は」
『喫煙席と』
「うん」
『禁煙席と』
「うん」
『風の吹き抜ける席です』
「風の吹き抜ける席!?」
『風の吹き抜ける席です』
「なにそれ」
『風の吹き抜ける席ですよ』
「いやよくわかんねえけど」
『ですからぁ』
「だから客に向かってそんなあきれた口調でしゃべるなよ」
『風の吹き抜ける席は』
「うん」
『風の吹き抜ける席です』
「うん、解決しないままだけど、このままやりあっててもらちがあきそうにないからもういいや。おれ喫煙席だし」
『喫煙席で』
「うん」
『ああ、お客様、あいにく喫煙席はただいま満席でして』
「ああそう」
『あ、ちょっと待ってください。…………。お客様、いま確認しましたところ相席ならばなんとかなりそうなんですけど』
「相席?、ファミレスで?」
『はい、ただ、相席なされるときにはお客様には、相手のお客様のグレ始めた息子だと』
「やだよ!そのサービスやりたくねえよ!」
『そうですか』
「どうしておれが見ず知らずの人のグレ始めた息子やんなきゃなんねえんだよ」
『では、しばらく待って頂くことになりますが』
「そうなの?」
『あ、お客様、風の吹き抜ける席ならいますぐに』
「風の吹き抜ける席ねえ。なんだか知らねえけど、そこはタバコ吸えんの?」
『タバコが吸えりゃいいんですか!?』
「は!?」
『タバコが吸えりゃいいんですか!?』
「なんだよ急に」
『タバコが吸えりゃ、なんでもいいんですか!?』
「なんなんだよお前」
『タバコが吸えりゃ、あなたそれでいいんですか!?』
「別にお前にそこまで言われる筋合いないだろ。喫煙席がいっぱいだから聞いてみただけで」
『風の吹き抜ける席はねえ!、風の吹き抜ける席はねえ!』
「なんだよ」
『喫煙可能です』
「じゃあそこで」
『はい、ではこちらへどうぞ』
「急に丁寧になったな。あ、ていうかつい風の吹き抜ける席OKしちまった。まあいいや」
『はい、こちらです』
「………ここ?」
『はい』
「普通の席、だよね?」
『いえ、風の吹き抜ける席です』
「どうやら、別に風は吹き抜けてる様子は見受けられないけど」
『吹き抜けてますよ』
「え、どこに?」
『お客様、あちらをご覧ください』
「うん」
『あちらの七三わけのサラリーマンさん』
「うん」
『実は1ヶ月前にリストラにあって現在無職でございますが、家族には黙っていなさってまして、時間を潰すために当店へ。いやあ、不況の風が吹き抜けてますなあ!』
「なに!?、不況の風!?」
『あちらのお客様に至っては』
「至ってはってお前」
『あちらの子連れの夫婦に至っては、このあと離婚します』
「離婚!?」
『いやあ、最後の晩餐ですか。なんとか最後ぐらい楽しい思い出のひとつでも残そうとしておるのでしょうが、子供のあのひどい顔、いやあ、家族仲に冷え切った風が吹き抜けてますなあ』
「なに、風の吹き抜ける席ってそういうことなの!?」
『あちらのお客様なぞは』
「なぞは」
『秋川雅史さんです』
「千の風になって!?」
『いやあ、一発屋の風が吹き抜けてますなあ』
「ああいう人に一発屋とか言うなよ!、違うだろ!」
『それとあちらのお客様が獣神サンダー・ライガーの中の人です』
「リバプールの風になった人!?」
『いやあ頭頂部にさみしい風が吹き抜けてますなあ』
「そういうこと言うのやめろよ」
『たなびく長い髪は』
「やめろって」
『あちらのお客様は、口笛おじさんです』
「なんでもありかよ」
『…えっと、お客様は?』
「え」
『お客様は一体どのような風が吹き抜けているんですか?』
「どのような風がって、なに、それがないとこの席座れないの?」
『座れないこともありませんけど』
「けど、なんだよ」
『他のお客様からは白い目で見られますが』
「白い目で」
『お客様には尋常ではない疎外感を味わって頂く形になります』
「そんな形やだよ」
『それに、やはり仲間外れということで、お客様は他のお客様から襲われます』
「ここファミレスだよな!?。襲われるってどういうことだよ。無人島かここは。無人島で仲間外れか。いやだよ襲われるの。リバプールの風の人がいるから特にいやだよ」
『では、お客様にはどのような風が吹き抜けていらっしゃる?』
「どのような風って、不況は?、不況の風は駄目なの?」
『そんなオリジナリティのかけらもない』
「駄目なの!?、おしなべて不況じゃん!、日本いまおしなべて不況じゃん!、オリジナリティないって不況はあの人のなの!?、いまの不況はあの人ショックなの!?」
『他の風に思いあたりは?』
「なかなか、なかなか風に思いあたりってないぜ!?」
『では、他のお客様に襲われる形で』
「だからそれ駄目な形だから!、やっちゃ駄目な形だから!」
『では、どのような風が?』
「ふりだしだよ結局。風、風だろ、…………ああ、世間の風、とか?」
『世間の風、でございますか、それは吹き抜けるものではなくて、あたるものだと思いますが』
「審査厳しいなおい!、口笛おじさんがよくて世間の風駄目なのかよ」
『まあ、はい』
「そうだろうね!」
『では、襲われる形に』
「だからそれ駄目な形だっつってんだろ!、なんなんだよさっきから!、どういう店だよ!、風の吹き抜ける席ってなんだよ!」
『ああ、なるほど、だめ出しの嵐、というわけですか』
「そうじゃねえけど!」
『でも、嵐と風は違う』
「うるせえ!」
『カモン、ライガー』
「ライガーを犬みたく呼ぶな!」
『ハウス!』
「プロレスネタが古いんだよ!、その件にライガー関係ねえし!」
『バルス!』
「ラピュタが落ちちゃう!」
『殺す!』
「誰をだよ!、急に物騒になったな!」
『あ、お客様』
「なんだよ」
『いま、喫煙席のお父さまが店をでました』
「お父さんじゃねえよ!」
終わり。
まるで関係のない話だけど、友人が有吉の風を吹かせて某金星に行ったことある女性にあだ名をつけたんだ。聞いてくれ。ずばり、
「現役AV女優」
だ。てめえんとこのファーストレディつかまえて現役AV女優たあ言ったもんだよ。
ちなみに友人はそれを言ったあと何度も、
「そう思ってみただけだよ。そう思ってみただけだよ」
って言ったんだ。それを聞いたおれは一抹の不安と疑惑が晴れ、安心して、
「なんだ、そう思ってみただけか」
って言ったんだよって話。
現役AV女優…か………確かに、おだてりゃ出そうだな。
いや、そう思ってみただけだよ。そう思ってみただけ。
そう思ってみただけなんだ。
ちなみにちなみに、現役AV女優の旦那に友人がつけたあだ名は、「カリ首」だったよ。ひどいよね。どのあたりからカリ首という命名に至ったのかよくわからないしさ。
現役AV女優で調子にのって二匹目のどじょう狙ったこの結果が友人こと高橋君の限界だよ。
『いらっしゃいませ。お客様は何名様で』
「ひとり」
『ひとり?、ひとりでございますか?』
「えっ、ひとりだけど?」
『…………』
「なん…ですか?」
『………あのお客様』
「なに」
『もしよろしければ、店にいる間、わたしのことを生き別れた双子の兄だと』
「は!?、なにそれ」
『ジョン、ジョンじゃないか!』
「いや、人を飼い犬みたく呼ぶなよ。なんだよ急に!」
『当店ではお一人様でご来店なされたお客様にはもれなく疑似家族をサービスいたしております』
「なんだよそのサービス!、いらないよ!、いいだろひとりでファミレスに来たって!」
『久しぶりなのにつれないなジョン』
「だからジョンって呼ぶなよ!、そのサービスいらないから!、ていうかなんでジョンなんだよ!、おれぱっと見ジョンって顔じゃないだろ!」
『ちゃんとした名前を付けてしまうと情が移ってしまう』
「捨て犬!、捨て犬の理論だろそれ!、客を捨て犬扱いすんなよ!」
『情が移ってしまいます』
「情が移ってしまいますじゃねえよ!、やめろ!」
『えっ、ではサービスをお受けにならないと?』
「当たり前だろ」
『では、お客様はなぜ当店に?』
「メシを食いにだよ!、ファミレスだろここ!、そういうプレイする場所じゃないだろ!?」
『残飯をあさりに』
「脳内で言葉が変換されてるだろ!、駄目だろ客に残飯だしたら。ちゃんとしたメシ食いにだよ!」
『メシを食いに』
「そうだよ!」
『ひとりで食べるご飯よりも生き別れた双子の』
「いいから!、もういいから!、ていうかお前兄なのな!、弟でいいだろ!、まあいいや、早く席案内して」
『そうですか、ではお客様、お席のほう、ダンボールの席と屋根付きの席が』
「ジョン!、ジョン引きずってるよ!」
『冗談ですよ』
「言わなくていいんだよ」
『では、喫煙席と禁煙席』
「ああ、喫煙ね」
『それと、風の吹き抜ける席がございますが』
「え?なにもう一回言って」
『ですからぁ』
「客にですからとか言うなよ。ギャルかお前は」
『喫煙席と』
「うん」
『禁煙席と』
「うん」
『風の吹き抜ける席です』
「風の吹き抜ける席!?」
『風の吹き抜ける席です』
「なにそれ」
『風の吹き抜ける席ですよ』
「いやよくわかんねえけど」
『ですからぁ』
「だから客に向かってそんなあきれた口調でしゃべるなよ」
『風の吹き抜ける席は』
「うん」
『風の吹き抜ける席です』
「うん、解決しないままだけど、このままやりあっててもらちがあきそうにないからもういいや。おれ喫煙席だし」
『喫煙席で』
「うん」
『ああ、お客様、あいにく喫煙席はただいま満席でして』
「ああそう」
『あ、ちょっと待ってください。…………。お客様、いま確認しましたところ相席ならばなんとかなりそうなんですけど』
「相席?、ファミレスで?」
『はい、ただ、相席なされるときにはお客様には、相手のお客様のグレ始めた息子だと』
「やだよ!そのサービスやりたくねえよ!」
『そうですか』
「どうしておれが見ず知らずの人のグレ始めた息子やんなきゃなんねえんだよ」
『では、しばらく待って頂くことになりますが』
「そうなの?」
『あ、お客様、風の吹き抜ける席ならいますぐに』
「風の吹き抜ける席ねえ。なんだか知らねえけど、そこはタバコ吸えんの?」
『タバコが吸えりゃいいんですか!?』
「は!?」
『タバコが吸えりゃいいんですか!?』
「なんだよ急に」
『タバコが吸えりゃ、なんでもいいんですか!?』
「なんなんだよお前」
『タバコが吸えりゃ、あなたそれでいいんですか!?』
「別にお前にそこまで言われる筋合いないだろ。喫煙席がいっぱいだから聞いてみただけで」
『風の吹き抜ける席はねえ!、風の吹き抜ける席はねえ!』
「なんだよ」
『喫煙可能です』
「じゃあそこで」
『はい、ではこちらへどうぞ』
「急に丁寧になったな。あ、ていうかつい風の吹き抜ける席OKしちまった。まあいいや」
『はい、こちらです』
「………ここ?」
『はい』
「普通の席、だよね?」
『いえ、風の吹き抜ける席です』
「どうやら、別に風は吹き抜けてる様子は見受けられないけど」
『吹き抜けてますよ』
「え、どこに?」
『お客様、あちらをご覧ください』
「うん」
『あちらの七三わけのサラリーマンさん』
「うん」
『実は1ヶ月前にリストラにあって現在無職でございますが、家族には黙っていなさってまして、時間を潰すために当店へ。いやあ、不況の風が吹き抜けてますなあ!』
「なに!?、不況の風!?」
『あちらのお客様に至っては』
「至ってはってお前」
『あちらの子連れの夫婦に至っては、このあと離婚します』
「離婚!?」
『いやあ、最後の晩餐ですか。なんとか最後ぐらい楽しい思い出のひとつでも残そうとしておるのでしょうが、子供のあのひどい顔、いやあ、家族仲に冷え切った風が吹き抜けてますなあ』
「なに、風の吹き抜ける席ってそういうことなの!?」
『あちらのお客様なぞは』
「なぞは」
『秋川雅史さんです』
「千の風になって!?」
『いやあ、一発屋の風が吹き抜けてますなあ』
「ああいう人に一発屋とか言うなよ!、違うだろ!」
『それとあちらのお客様が獣神サンダー・ライガーの中の人です』
「リバプールの風になった人!?」
『いやあ頭頂部にさみしい風が吹き抜けてますなあ』
「そういうこと言うのやめろよ」
『たなびく長い髪は』
「やめろって」
『あちらのお客様は、口笛おじさんです』
「なんでもありかよ」
『…えっと、お客様は?』
「え」
『お客様は一体どのような風が吹き抜けているんですか?』
「どのような風がって、なに、それがないとこの席座れないの?」
『座れないこともありませんけど』
「けど、なんだよ」
『他のお客様からは白い目で見られますが』
「白い目で」
『お客様には尋常ではない疎外感を味わって頂く形になります』
「そんな形やだよ」
『それに、やはり仲間外れということで、お客様は他のお客様から襲われます』
「ここファミレスだよな!?。襲われるってどういうことだよ。無人島かここは。無人島で仲間外れか。いやだよ襲われるの。リバプールの風の人がいるから特にいやだよ」
『では、お客様にはどのような風が吹き抜けていらっしゃる?』
「どのような風って、不況は?、不況の風は駄目なの?」
『そんなオリジナリティのかけらもない』
「駄目なの!?、おしなべて不況じゃん!、日本いまおしなべて不況じゃん!、オリジナリティないって不況はあの人のなの!?、いまの不況はあの人ショックなの!?」
『他の風に思いあたりは?』
「なかなか、なかなか風に思いあたりってないぜ!?」
『では、他のお客様に襲われる形で』
「だからそれ駄目な形だから!、やっちゃ駄目な形だから!」
『では、どのような風が?』
「ふりだしだよ結局。風、風だろ、…………ああ、世間の風、とか?」
『世間の風、でございますか、それは吹き抜けるものではなくて、あたるものだと思いますが』
「審査厳しいなおい!、口笛おじさんがよくて世間の風駄目なのかよ」
『まあ、はい』
「そうだろうね!」
『では、襲われる形に』
「だからそれ駄目な形だっつってんだろ!、なんなんだよさっきから!、どういう店だよ!、風の吹き抜ける席ってなんだよ!」
『ああ、なるほど、だめ出しの嵐、というわけですか』
「そうじゃねえけど!」
『でも、嵐と風は違う』
「うるせえ!」
『カモン、ライガー』
「ライガーを犬みたく呼ぶな!」
『ハウス!』
「プロレスネタが古いんだよ!、その件にライガー関係ねえし!」
『バルス!』
「ラピュタが落ちちゃう!」
『殺す!』
「誰をだよ!、急に物騒になったな!」
『あ、お客様』
「なんだよ」
『いま、喫煙席のお父さまが店をでました』
「お父さんじゃねえよ!」
終わり。
まるで関係のない話だけど、友人が有吉の風を吹かせて某金星に行ったことある女性にあだ名をつけたんだ。聞いてくれ。ずばり、
「現役AV女優」
だ。てめえんとこのファーストレディつかまえて現役AV女優たあ言ったもんだよ。
ちなみに友人はそれを言ったあと何度も、
「そう思ってみただけだよ。そう思ってみただけだよ」
って言ったんだ。それを聞いたおれは一抹の不安と疑惑が晴れ、安心して、
「なんだ、そう思ってみただけか」
って言ったんだよって話。
現役AV女優…か………確かに、おだてりゃ出そうだな。
いや、そう思ってみただけだよ。そう思ってみただけ。
そう思ってみただけなんだ。
ちなみにちなみに、現役AV女優の旦那に友人がつけたあだ名は、「カリ首」だったよ。ひどいよね。どのあたりからカリ首という命名に至ったのかよくわからないしさ。
現役AV女優で調子にのって二匹目のどじょう狙ったこの結果が友人こと高橋君の限界だよ。