アノマニスからの脱却(5)
あれからどのぐらい時間が過ぎたろう。正解は約3年。解答早っ。あいつあれから何してたって?。色々あったよ、レイには。だけどなんにもなかったよ。レイにはさ。おれにはこれしかない、てやつが、もうないからねえ。
とりあえずあいつのことなんか放っておいて、あれから神見がどうしてたか、そっちのほうが大事だと思うんだ。
神見は見事、通過儀礼とでもいうのか、あれを経たのち教祖、すなわち、神延べ様になった。
神延べ様になった神見を有するアノマロカリス教は、それはそれは教徒を増やしてねえ。やっぱり変なおっさんよりも若い娘、どことなく淫靡で、どことなく白い夢を見ているような娘のほうが、そりゃあ、いいってもんだよねえ。神見を広告塔にした結果、爆発的に増えた教徒の数は日本の人口をはるか上回り、その数実に50億、こうなったら神も仏もないもんだ。アノマロカリス教は世界の政府期間を牛耳り、色々あって、まあなんて言うの?、そんな20世紀少年状態。
ってのはただの冗談だよ。20世紀少年状態かな?、この話って20世紀少年状態かな?、なんて思ってたりした読者がいたかもしれないからねえ。
神見はあれからすぐ、神延べ様になった。どことなく淫靡で、どことなく白い夢を見ている、その姿はまるで水を薄めたよう、きれいな教祖様。ちょっと愛嬌あるぐらいの顔の方が、淫らに拍車がかかる。精液顔、精液浴びたあとにかわいくなる顔ってあるじゃない?、常時、そんなの。
教徒の数は増えた。世界をどうこう、日本をどうこういう状況じゃないけど、以前とは比較にならないぐらい増えた。それもニートやひきこもりや、いままでその人生においてバレンタインデーにチョコなぞ貰った試しがないだろうモテない男達の教徒が爆発的に増えた。そしたら、家事手伝いやひきこもりや、いままでその人生においてホワイトデーにお返しを貰った試しがないだろう女達も次々入信してきた。
だってそうだろ?、かわいい教祖が夢みてるんだから。打ち震えるね。体が心が、打ち震えるよ。ひきこもりを味方にしたのはでかかったなあ。教団の存在理由が姥捨て山、ひきこもり捨て山になったんだよ。言い方が悪いか、いわばひきこもり再生工場さ。某ヨットスクールみたいなもんさ。駆け込み寺か。もういやだってさ、そりゃあひきこまれもしたら、親はそう思うよね。君は母親が夜な夜な口に出さない本音を書き連ねている日記を盗み見たことあるか?。その口に出さない本音が喉に詰まり、臨界点をむかえたときに、アノマロカリス教はあるんだ。格安で引き取ってくれるよ、厄介な命。
実際、ひきこもり再生工場はそれなりにうまく稼働して、それなりの実績作ってるよ。どうやって?、それはレイの場合と一緒だよ。
教団内で位があがると神延べ様と夜伽ができるという特典がある。誰彼構わずさ。男も女も老いも若いも誰彼構わずだよ。昼夜問わずに誰彼構わず、平等に。その霊験に、男も女もあまり差はないんだねえ。
アノマロカリス教の道場から帰ってきた息子や娘が、やたらすっきりした顔で帰ってきやがる。明るくて朗らかで、笑顔だよ。冗談なんか通じてね、「いやだなあ、あの頃のことは忘れておくれよ」なんて恥ずかしげもなく笑いながらさらりと言ってのけちまう。居間で。居間でだよ居間で。
親はそりゃ教団に感謝するよね。だから、働き出した子供が稼ぎ始めた給料から幾らかをまさかそこから生きて帰ってくるとは思わなかった教団におさめていても、見てみぬフリをするか、こっちの財布から倍でドンだよ。
そう、子女らが元気で帰ってきたはいいものの、もれなく別の厄介が代わりにやってきやがる。だけど、ようやく、働かざる者食うべからずの因果律に乗った子供に、何を言う、何を言えるっていうんだよ。何か言って結局また、ってなったら最悪の事態だろ。
そんな具合だね、神見は。腰を振るよ神見は。のの字にさ。神見は平等に悦楽を与えてるんじゃない。彼らはみな神見の平等な快楽のはけ口さ。
最近までは、知る人ぞ知る教団で、口コミやらなんやらで耳から耳へと狭い世界を伝わる程度だったんだけどねえ。そんだけ派手にやってりゃ、耳だけじゃなく目も集めるわな。ましてや基本的には宗教屋さんで通ってるからねえ。いなたい週刊誌からテレビへと、段々マスコミの扱いがでかくなってきた。
「セックス教団現る」
とか、はじめはそんな見出しが誌面に踊ったもんだよ。教団側のガードも甘かったからねえ。だけど、秘密ってやつは押しつけでもした日には、それに鍵をかける方法はひとつ、死人に口なし、だけどさ、秘密にしてない秘密ってのは堅いね。教徒達が自発的に鍵かけちまいやがるからさ。まあ、そんなことじゃなくて、単に、「神延べ様に童貞を捧げました」、なんて、言わないわな。親バレじゃん。初体験が親バレしちゃうじゃん。それに、一応夜伽まで頑張る奴は、盲信者だし。「働く喜びを教えてくれました」だなんて、違うヨロコビだろ。
「ひきこもり脱却に新たな手法」
「社会問題に取り組む宗教」
「子供のひきこもり、悩める親に朗報」
とかさ。媒体が大きくなるほど、ややもすると実態からかけ離れていくもんだよ。ま、教団がメディア操作に何も手を尽くしていなかったとは言わないけど。いやそんな妄想めいたこと、ないない。
こうなればだ、嫌でもレイの耳目にアノマロカリス教の現在は伝わる。
だけど、レイは、我関せず、だったよ。ずいぶん嫌な思いをさせられたからねえ。
今レイは東北にいる。あのときあれからさ、とにかく北を、日本海を目指してたんだけど、やっぱり嫌なことあったら日本海てなもんでさ、でもなぜか気がついたら東北の太平洋側にいたという始末。そこで下働きしてるよ。港でさ。いやなに、親戚のツテがあって。
全然世捨て人ではないよ?。ちゃっかり、恋人なんてものもいたりする。結構風にたなびく柳みたいにさ、さらさらと人並みにしあわせな生活を営んでいるよ。え、ああ、あの火災の事後処理やらなんやらは、少ーし、ほんの少ーし、放浪生活したあと、ちゃんとやったよ?。だって、ちゃんとやらなきゃ、じゃん。そういうことは、ちゃんとやらなきゃ、じゃん。いわゆる行方不明者になってからすぐにその親戚に連絡入れたし。ま、思い当たる火災の原因、だけは誰にも言わなかったけどさ。そのせいで当然のように犯人扱いされたこともあったりしたけど、疑いはすぐに晴れたよ。だって、神見が証言したもんね。彼はあのときうちに遊びにきていましたって。
え、ああ、あのあと割かしすぐにふたりは一回顔をあわせてるよ?。警察署で。それがどうした?。
でもさ、神見は、「放火の首謀者は私の父親です」とは紅連次郎に、もとい、ポリスには言わなかったんだよ。世間知らずの神見だってあのタイミングでああいうことが起きりゃ犯人の目星のひとつぐらいつくだろうに、極めて静かにそう言った。それがすべて、それがすべてだろ。
警察署から出ると、レイは神見に、「大丈夫か?」って言おうとしたんだけど、どこか愉しげな神見は薄く笑ってるだけでさ、レイはその神見の表情を見て息をのむと、さようならも言わないで神見は勝手に帰っていった。さすがにそれ以来会ってはいないねえ。
レイは家族が死んだことを、自分のせいにしたんだ。いやまあレイが危ない女を抱いちゃったからそうなったんだけど、そうじゃなくて。鬱屈したニート時代、なんべんもなんべんもなんべんもなんべんもなんべんもさ。「みんな死ねばいい」なんて思ったり、その状況を妄想して楽しんだり、自分で作った不可知論的発想からくるひどく都合のいい操り人形みたいな神様に本気で夜通しそれを祈ったりしてたもんだからさ。風呂場の床に小さな石鹸をわざと落としておいたりさ。
それが、叶った。叶ってしまった。
そう思ったりしたから、そう思うことにした。単純なことだったよ。とても悲しかったけど、そう思うことで、少しは楽になれたんじゃないかな、レイの場合は。
といってもすべてを水に流せたわけじゃない。心に深い傷が、そりゃ深い残ってる。性欲体力ともに有り余っている年齢なのにインポテンツになるぐらい、傷は残ってる。だけど、いまさらの話なんだよ。どうしろってんだよ。レイは忘れたいのにさ。忘却の彼方を目指して今東北にいるのにさ。あっちが有名になって追いついてきたからって、レイにどうしろと言うんだよ。
おれなら言うね、うじうじ悩んでインポテンツになってるぐらいなら、めんどくせえから復讐の旅に出ろ、と。
うん、だからレイは教団に、オヤジに、佐井九に、受けた傷を10倍にして返してやろうと復讐を決意した。港近くの集会所で昼間のワイドショーに映る神見の目にモザイク入れられた写真を漁師達と観ながら密かにね。たわわに白く輝く半分あらわになった乳房を観ながらね!!。
いやまあ、そんなメタな「機会仕掛けの神様」もないだろうと、多少なりともレイがどうして、それなりの幸福な生活を捨ててまでその決意をしたのか説明せにゃならん。
テレビで紹介された神見の右耳に、自分がプレゼントした赤い小さなイヤリングがつけられていたから。
だね。
それ以上何か述べるのは、野暮ってものだよ。
そうして、レイはある日港をあとにした。生きて帰ってこれるとは思っちゃいない。恋も愛も親戚にも港の人達にも未練はない。どうせおれはインポだし、どうせおれはインポだし。今のままならこれからずっとインポだし。お先真っ暗じゃないか、せっかくニートじゃなくなったのに、これじゃあお先真っ暗じゃないか。
ただ、昔背負ったでっかい荷物(インポ)を返しにいくだけだ。レイはそればかり思って、東北新幹線の上り線に乗り込み、上野でおり、日比谷線に乗り換え、ついに、また教団本部のあるこの町へと戻ってきた。
武器も持たず、裸でレイは教団本部に、すなわち、神見の実家前までやってきた。
が、
そこには違う人が住んでいた。バリケードなくなってたし、すっかり普通の家にリフォームされてた。すかされたねえ。レイはすかされたよ。まるでRPGゲームの序盤。責任感の欠如した村人のメッセージに右往左往するハメになった勇者のごとく、レイはすかされたねえ。
しかし、中世をモチーフにしたRPGゲームには無い、とても都合のいいアイテムをレイは持っている。文明の利器、携帯電話だ!!。これがあればいつでも遠くの人と連絡が取れるし、大概のことは判明する。地図だって見れるし、行き先案内もしてくれる。もう、この村には用はない。レイは颯爽と駅へと向かい歩いて行った。
いや、待てよ。
結構な時間歩いたこととぽかぽか陽気とに誘われ、何か飲み物を求めコンビニに立ち寄ろうとしたとき、ふと、あのコンビニはまだあるのか、という思いに至った。あのコンビニとはもちろん、ニート時代に通いつめ、神見と出逢うきっかけにもなった佐井九のコンビニだ。本丸への特攻ばかり先に立ち、すっかりあのコンビニのことなど頭から離れていた。
教団本部が移ったならあいつももういないのだろう、そんな軽い気持ちで、レイはそこに向かうことにした。
続
とりあえずあいつのことなんか放っておいて、あれから神見がどうしてたか、そっちのほうが大事だと思うんだ。
神見は見事、通過儀礼とでもいうのか、あれを経たのち教祖、すなわち、神延べ様になった。
神延べ様になった神見を有するアノマロカリス教は、それはそれは教徒を増やしてねえ。やっぱり変なおっさんよりも若い娘、どことなく淫靡で、どことなく白い夢を見ているような娘のほうが、そりゃあ、いいってもんだよねえ。神見を広告塔にした結果、爆発的に増えた教徒の数は日本の人口をはるか上回り、その数実に50億、こうなったら神も仏もないもんだ。アノマロカリス教は世界の政府期間を牛耳り、色々あって、まあなんて言うの?、そんな20世紀少年状態。
ってのはただの冗談だよ。20世紀少年状態かな?、この話って20世紀少年状態かな?、なんて思ってたりした読者がいたかもしれないからねえ。
神見はあれからすぐ、神延べ様になった。どことなく淫靡で、どことなく白い夢を見ている、その姿はまるで水を薄めたよう、きれいな教祖様。ちょっと愛嬌あるぐらいの顔の方が、淫らに拍車がかかる。精液顔、精液浴びたあとにかわいくなる顔ってあるじゃない?、常時、そんなの。
教徒の数は増えた。世界をどうこう、日本をどうこういう状況じゃないけど、以前とは比較にならないぐらい増えた。それもニートやひきこもりや、いままでその人生においてバレンタインデーにチョコなぞ貰った試しがないだろうモテない男達の教徒が爆発的に増えた。そしたら、家事手伝いやひきこもりや、いままでその人生においてホワイトデーにお返しを貰った試しがないだろう女達も次々入信してきた。
だってそうだろ?、かわいい教祖が夢みてるんだから。打ち震えるね。体が心が、打ち震えるよ。ひきこもりを味方にしたのはでかかったなあ。教団の存在理由が姥捨て山、ひきこもり捨て山になったんだよ。言い方が悪いか、いわばひきこもり再生工場さ。某ヨットスクールみたいなもんさ。駆け込み寺か。もういやだってさ、そりゃあひきこまれもしたら、親はそう思うよね。君は母親が夜な夜な口に出さない本音を書き連ねている日記を盗み見たことあるか?。その口に出さない本音が喉に詰まり、臨界点をむかえたときに、アノマロカリス教はあるんだ。格安で引き取ってくれるよ、厄介な命。
実際、ひきこもり再生工場はそれなりにうまく稼働して、それなりの実績作ってるよ。どうやって?、それはレイの場合と一緒だよ。
教団内で位があがると神延べ様と夜伽ができるという特典がある。誰彼構わずさ。男も女も老いも若いも誰彼構わずだよ。昼夜問わずに誰彼構わず、平等に。その霊験に、男も女もあまり差はないんだねえ。
アノマロカリス教の道場から帰ってきた息子や娘が、やたらすっきりした顔で帰ってきやがる。明るくて朗らかで、笑顔だよ。冗談なんか通じてね、「いやだなあ、あの頃のことは忘れておくれよ」なんて恥ずかしげもなく笑いながらさらりと言ってのけちまう。居間で。居間でだよ居間で。
親はそりゃ教団に感謝するよね。だから、働き出した子供が稼ぎ始めた給料から幾らかをまさかそこから生きて帰ってくるとは思わなかった教団におさめていても、見てみぬフリをするか、こっちの財布から倍でドンだよ。
そう、子女らが元気で帰ってきたはいいものの、もれなく別の厄介が代わりにやってきやがる。だけど、ようやく、働かざる者食うべからずの因果律に乗った子供に、何を言う、何を言えるっていうんだよ。何か言って結局また、ってなったら最悪の事態だろ。
そんな具合だね、神見は。腰を振るよ神見は。のの字にさ。神見は平等に悦楽を与えてるんじゃない。彼らはみな神見の平等な快楽のはけ口さ。
最近までは、知る人ぞ知る教団で、口コミやらなんやらで耳から耳へと狭い世界を伝わる程度だったんだけどねえ。そんだけ派手にやってりゃ、耳だけじゃなく目も集めるわな。ましてや基本的には宗教屋さんで通ってるからねえ。いなたい週刊誌からテレビへと、段々マスコミの扱いがでかくなってきた。
「セックス教団現る」
とか、はじめはそんな見出しが誌面に踊ったもんだよ。教団側のガードも甘かったからねえ。だけど、秘密ってやつは押しつけでもした日には、それに鍵をかける方法はひとつ、死人に口なし、だけどさ、秘密にしてない秘密ってのは堅いね。教徒達が自発的に鍵かけちまいやがるからさ。まあ、そんなことじゃなくて、単に、「神延べ様に童貞を捧げました」、なんて、言わないわな。親バレじゃん。初体験が親バレしちゃうじゃん。それに、一応夜伽まで頑張る奴は、盲信者だし。「働く喜びを教えてくれました」だなんて、違うヨロコビだろ。
「ひきこもり脱却に新たな手法」
「社会問題に取り組む宗教」
「子供のひきこもり、悩める親に朗報」
とかさ。媒体が大きくなるほど、ややもすると実態からかけ離れていくもんだよ。ま、教団がメディア操作に何も手を尽くしていなかったとは言わないけど。いやそんな妄想めいたこと、ないない。
こうなればだ、嫌でもレイの耳目にアノマロカリス教の現在は伝わる。
だけど、レイは、我関せず、だったよ。ずいぶん嫌な思いをさせられたからねえ。
今レイは東北にいる。あのときあれからさ、とにかく北を、日本海を目指してたんだけど、やっぱり嫌なことあったら日本海てなもんでさ、でもなぜか気がついたら東北の太平洋側にいたという始末。そこで下働きしてるよ。港でさ。いやなに、親戚のツテがあって。
全然世捨て人ではないよ?。ちゃっかり、恋人なんてものもいたりする。結構風にたなびく柳みたいにさ、さらさらと人並みにしあわせな生活を営んでいるよ。え、ああ、あの火災の事後処理やらなんやらは、少ーし、ほんの少ーし、放浪生活したあと、ちゃんとやったよ?。だって、ちゃんとやらなきゃ、じゃん。そういうことは、ちゃんとやらなきゃ、じゃん。いわゆる行方不明者になってからすぐにその親戚に連絡入れたし。ま、思い当たる火災の原因、だけは誰にも言わなかったけどさ。そのせいで当然のように犯人扱いされたこともあったりしたけど、疑いはすぐに晴れたよ。だって、神見が証言したもんね。彼はあのときうちに遊びにきていましたって。
え、ああ、あのあと割かしすぐにふたりは一回顔をあわせてるよ?。警察署で。それがどうした?。
でもさ、神見は、「放火の首謀者は私の父親です」とは紅連次郎に、もとい、ポリスには言わなかったんだよ。世間知らずの神見だってあのタイミングでああいうことが起きりゃ犯人の目星のひとつぐらいつくだろうに、極めて静かにそう言った。それがすべて、それがすべてだろ。
警察署から出ると、レイは神見に、「大丈夫か?」って言おうとしたんだけど、どこか愉しげな神見は薄く笑ってるだけでさ、レイはその神見の表情を見て息をのむと、さようならも言わないで神見は勝手に帰っていった。さすがにそれ以来会ってはいないねえ。
レイは家族が死んだことを、自分のせいにしたんだ。いやまあレイが危ない女を抱いちゃったからそうなったんだけど、そうじゃなくて。鬱屈したニート時代、なんべんもなんべんもなんべんもなんべんもなんべんもさ。「みんな死ねばいい」なんて思ったり、その状況を妄想して楽しんだり、自分で作った不可知論的発想からくるひどく都合のいい操り人形みたいな神様に本気で夜通しそれを祈ったりしてたもんだからさ。風呂場の床に小さな石鹸をわざと落としておいたりさ。
それが、叶った。叶ってしまった。
そう思ったりしたから、そう思うことにした。単純なことだったよ。とても悲しかったけど、そう思うことで、少しは楽になれたんじゃないかな、レイの場合は。
といってもすべてを水に流せたわけじゃない。心に深い傷が、そりゃ深い残ってる。性欲体力ともに有り余っている年齢なのにインポテンツになるぐらい、傷は残ってる。だけど、いまさらの話なんだよ。どうしろってんだよ。レイは忘れたいのにさ。忘却の彼方を目指して今東北にいるのにさ。あっちが有名になって追いついてきたからって、レイにどうしろと言うんだよ。
おれなら言うね、うじうじ悩んでインポテンツになってるぐらいなら、めんどくせえから復讐の旅に出ろ、と。
うん、だからレイは教団に、オヤジに、佐井九に、受けた傷を10倍にして返してやろうと復讐を決意した。港近くの集会所で昼間のワイドショーに映る神見の目にモザイク入れられた写真を漁師達と観ながら密かにね。たわわに白く輝く半分あらわになった乳房を観ながらね!!。
いやまあ、そんなメタな「機会仕掛けの神様」もないだろうと、多少なりともレイがどうして、それなりの幸福な生活を捨ててまでその決意をしたのか説明せにゃならん。
テレビで紹介された神見の右耳に、自分がプレゼントした赤い小さなイヤリングがつけられていたから。
だね。
それ以上何か述べるのは、野暮ってものだよ。
そうして、レイはある日港をあとにした。生きて帰ってこれるとは思っちゃいない。恋も愛も親戚にも港の人達にも未練はない。どうせおれはインポだし、どうせおれはインポだし。今のままならこれからずっとインポだし。お先真っ暗じゃないか、せっかくニートじゃなくなったのに、これじゃあお先真っ暗じゃないか。
ただ、昔背負ったでっかい荷物(インポ)を返しにいくだけだ。レイはそればかり思って、東北新幹線の上り線に乗り込み、上野でおり、日比谷線に乗り換え、ついに、また教団本部のあるこの町へと戻ってきた。
武器も持たず、裸でレイは教団本部に、すなわち、神見の実家前までやってきた。
が、
そこには違う人が住んでいた。バリケードなくなってたし、すっかり普通の家にリフォームされてた。すかされたねえ。レイはすかされたよ。まるでRPGゲームの序盤。責任感の欠如した村人のメッセージに右往左往するハメになった勇者のごとく、レイはすかされたねえ。
しかし、中世をモチーフにしたRPGゲームには無い、とても都合のいいアイテムをレイは持っている。文明の利器、携帯電話だ!!。これがあればいつでも遠くの人と連絡が取れるし、大概のことは判明する。地図だって見れるし、行き先案内もしてくれる。もう、この村には用はない。レイは颯爽と駅へと向かい歩いて行った。
いや、待てよ。
結構な時間歩いたこととぽかぽか陽気とに誘われ、何か飲み物を求めコンビニに立ち寄ろうとしたとき、ふと、あのコンビニはまだあるのか、という思いに至った。あのコンビニとはもちろん、ニート時代に通いつめ、神見と出逢うきっかけにもなった佐井九のコンビニだ。本丸への特攻ばかり先に立ち、すっかりあのコンビニのことなど頭から離れていた。
教団本部が移ったならあいつももういないのだろう、そんな軽い気持ちで、レイはそこに向かうことにした。
続