長い金曜日 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

長い金曜日

金曜日、私の朝は早い。かならず4時前に起きる。
日の出前の暗い家の中、ベッドの上で寝ぼけ眼をこすりながら反対の手でうろうろと、けたたましくアラームが鳴り響く携帯電話を探しあてる。この間、私は息を止める癖がある。
二つ折り式の携帯電話を開くと、まばゆい光が目に飛び込んできて、少しくらくらする私に時刻を教えてくれる。
ひとつ大きく呼吸をして、ベッドから身を起こし、明かりをつける。そして暖房を入れ、テレビをつける。
東京の冬は寒いと、北海道出身の人はいう。我が家も例に漏れず、小鳥ならば凍え死んでしまうであろう寒さだ。生活の匂いが染み込んだちゃんちゃんこを羽織り、さらに所々穴の空いたバスタオルをストールのように首から肩に掛けるように巻く。ガタガタ震えながら、時折ふくらはぎに目一杯力を入れ、体を暖める。その頃、ちょうど、4時になっている。
テレビには4人の女性が横並びになって、早朝の挨拶をしている。その横並びの、向かって一番左側に、背の順にへこみがあるのをメガネをかけてないぼんやりした視界で認識すると、私は安心してコーヒーを淹れることができる。
挨拶が終わると、テレビにしばらく彼女は現れないことを私は知っている。私は朝食をコーヒーで済ますのだが、この日はレーズンパンがあったので、生のままムササビのようにかじりついた。
暖房が効きはじめる頃、私の至福の時間が始まり、それは5時20頃に終わりを告げる。
興奮やタバコ、コーヒーなどの刺激物により完全に覚醒した私は眠れない。出勤時間まで2時間以上ある。
趣味である粘土細工に精を出すこともあれば、携帯電話をいじくり続ける日もある。この日は後者だった。携帯アプリで桃鉄をした。このアプリのランキング上位者はカオスの住人であることを、私は知っている。
非生産的な行為を貴重な時間を割いて費やしていると、まったくもって人間というやつは変なことを考えたりする。この日私は、夢を見たまま死んだらどうなるのだろう、そんなことを考えて、朝から死にたくないと強く思うハメになった。
仕事が終わると、金曜日の夜であるからして、夜の誘いがある。主にKさんからある。
Kさんは狂っている。以前、Kさんの祖母がお亡くなりになった時にも、Kさんから酒の誘いをいただいた。
「おれんち今ばあさまの遺体があんだよ」
Kさんは実家住まいだ。
「ちょっと見ていけよ。3人で酒のもうぜ」
私は言うまでもなく、丁重ならざる態度で断った。
断る理由も見つからず、私はKさんと酒をのむことになる。生来の貧乏性で、私は、卓一杯にアテを広げる、なんてことができない。Kさんも似たようなもので、ふたりして、厳密に値段を計算しながらちびちび飲み続ける。だいたい駅前をぶらついていれば、居酒屋のサンドイッチマンが割引券をくれ、情けなくもきっちりせこせこする。
夜が深まり、私はしつこく二件目に誘うKさんを犬畜生にするよう蹴倒し、罵詈雑言を吐き捨てながら帰路につく。いつものことだ。予定がなければつきあうのもやぶさかではないが、金曜日の深夜、私には予定がある。
家に帰り酒くさいため息とあくびを交互にしながら、急いで寝る支度をする。風呂、歯磨き、乾燥した肌にうるおいをもたらす魔法の白濁液を肩と腰回りに塗りたくる。
部屋を暗くして布団に入ると、ラジオをつける。ちょうど1時だ。毎週楽しみにしているお気に入りのラジオを聴きながら、私はじっと夢と闘う。夢と現実を行き来しながら聴く深夜ラジオというものは、ちょっとしたトリップ作用がある。ましてやアルコールを含んだ体で、まさしく夢現、不思議な感覚を覚えるものだ。
ラジオの話題がおっぱいについてとなった。おっぱいに囲まれたいと思わない男はいないと、少し音ががさつく我が家のラジオを通して、パーソナリティが語っている。
このとき、夢と闘う私の頭の中に、ある映像がはっきりと浮かんだ。手を伸ばせば届きそうな映像。
暗い、とても暗い場所、銀行の地下金庫のような場所に忍び込んだ男が懐中電灯で辺りを見回したらおっぱいだらけだった。
そんな映像がはっきりと私の頭に浮かんだ。
はて、この映画はなんだったかしらん。
あまりにはっきりと頭の中に映像が浮かんだものだから、私はそれをてっきり昔観た映画のワンシーンだと思った。
ラジオが終わる。3時を過ぎている。毎週訪れる私の長い1日がようやく終わりを告げようとしている。
あの映画は一体いつどこで観たものだったか。
眠りにつく直前、私ははたと答えに至った。
そうだ、あれは映画じゃない。このブログに書いた、いつかのモヤモヤシリーズの内容だ。
そう正解にたどり着いたと同時に、私はどっぷりと夢に落ちた。
夢の世界で私は、包丁を持って鬼気迫る表情を浮かべる、私が小さな頃に死んだ爺さんに見知らぬ町を追いかけ回されていた。そして、夢の世界の私は、このまま死にたくない、とつぶやいたが、爺さんに捕まり、あえなく………といったところで目がさめた。




おっぱいだらけの夢が見てえよ!!言いたいことはそれだけだ!!!!