からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -245ページ目

読んだら損する「運命はテイクアウト」(20)

「誰かがお腹を切っちゃったて、うーんとっても、痛いだろうにね」
三島由紀夫の自決、即ち自殺、を間接的に歌っている二番の歌詞。もうイントロは終わり歌い始めている。
ふと周りを見渡せば、曲の内容を知っていると思わしき人達がなんともいえない顔で僕を見ている。でも、やるしかない。引き返せないだろ。こうなったら…、
「誰かが屋根から、飛び降りちゃったって」
と、お決まりといえばお決まりに、歌詞を替えた。かなり寒い、が、中途半端に気を使って歌うよりかは、いっそのこと、ってやつだ。
「おいおい」
すぐさまおじさんが笑いながらツッコミを入れてくれたので、場は苦笑いで済んだ。僕を知らない、僕も知らない、人達は僕を奇異の目で見る。まあ、それは今に始まったことじゃないが。僕だって逆の立場ならそうしている。こんな席に短パンで来る奴なんてろくな奴じゃない。おまけに長髪で、ピアスまでしてる。
なんとか歌い終わり、逃げるようにトイレへ駆け込む。小便をしていると巨大な影が僕を包む。振り向けば小山さん。
「いやぁ、健一君。やらかしたねぇ。狙っていたのかい?」
膝を曲げて小便をしている小山さんがニコニコしながら僕に話しかける。
「いえ、なんというか、曲選びに失敗しました」
「ははは、でもあれは良かったよ」
「そう言ってもらえると助かります」
「ところで健一君」
手を洗っている僕に背中越しで話しかける。
「昨日、ほら、あの公園にいなかったかい?あの殺人事件の」
背筋が凍るとはこのことだろう。全身の毛が逆立つ。が、
「あぁ、昨日、バイトの帰りに、自転車で行ってましたんで、ちょっと気になりまして、帰り道のついでにふらふらと寄ってみたんです。小山さんあの時いたんですか?」
と、出来得る限り平静を保ち答えた。行っていない、と、しらばっくれることは出来ない。小山さんが僕を見間違えることなんて考えられない。ここはなるべく事実を言うしかない。それがベターだ。
「あぁ、ちょっと家族の方に用があってね。はは、あの時いたのかって、いたから君を見たんだよ」
いつもはふっくりしている小山さんの声が妙にはっきり聴こえる。
「そりゃそうですね」
「しかし、よくあの場所がわかったね」
「へ?」
ジャブジャブジャブ。手を洗いながら、以前小山さんに公園の場所を知らなかったフリをしたことを思い出した。
「ほら、前は知らなかったでしょ」
なんなんだ一体。僕に何か言わせたいのか。僕が…………。気が狂いそうになりながらも、
「まあ一応地元民ですから、大体の場所が分かれば。それに、あの、下世話な話、小山さんがあの話をしたあと地図で調べたりしましたから」
我ながら冷静な応えだ。
「では」
そう言ってトイレを出た。変な顔になっていないか、何度も手で顔を揉む。廊下に響く演歌。おじさんの声。やっぱり。襖を開ければ日常の戦場。普通にしているんだ、普通に、ただトイレに行って帰ってきただけだ。ただ小山さんとトイレで話しただけだ。
戻ってきた小山さんと目を合わす、と、決めた。顔を見ないなんて不自然だからだ。あれだけ目立つ人なのだから。
すうっ、扉が開く。準備万端。ばっちり顔を見てやった。が、小山さんがこちらを向くことはなかった。
僕は確信しなきゃならない。小山さんは僕を後輩殺しの犯人だと疑っている。被害妄想かもしれない。でも、小山さんに対して細心の注意を払わなければならないことに変わりはない。一生……?
宴会も終わりの時がやって来た。おじさんによる締めの挨拶。もう涙は無いが、やっぱりしんみりしてしまう。僕は相も変わらず「パグの飼い方」のことを想ったけども、短時間にやりすぎたのか、あまり効果がなかった。こんな時は風に吹かれるしかない。
レジに巨大な影、またか、会計を任されている小山さんだ。嫌だな、だけど今さら引き返すわけにもいかず、
「足りますか?」
なるだけ自然に話しかける。
「ああ、大丈夫。お釣りが結構あるよ。健一君はどうしたんだい?」
「いや、ちょっと外の風にあたろうかと、堅苦しい雰囲気になってきたので。苦手なんですよ、後片付けが」
「はは、後片付け、か。確かにね」
小山さんはにっこり笑い、
「ああ、そうだ」
と、ふっくりしている声で言った。わざとらしい言い方だ。

すうぃーとめもりー

おれ最近走ってんだ。走ってんだっつっても30分ぐらいだけどさ。正直嫌だよ。健康の為なら死ねる、みたいな健康優良野郎みたいでさ。そんな奴にだけはなりたくないからね。でもおれにはメタボ以外の理由があるんだ。
膝が悪いんだ。両膝半月板損傷ってやつ。まあ最近ロッキングっつって膝が抜けるような感覚、半月板が膝のどっかに引っかかるらしい、にはならないし、日常生活では大した苦労はないんだけどさ。半月板は基本もうもとには戻らないから、予防策として膝上の筋肉を鍛えるのがいい、らしい。だからなんだ。走るんだ。腰がヘルニアになって以来走ったことなんかないからヘロヘロだよ。でも走るんだ。スイートメモリー聴きながら走る。あんまり、走る、なんてことでエレカシを聴きたくないんだけど、ロックの神様も走ってるからいいんじゃないかと自分に言い聞かせてる。思えば日本人は自分に言い聞かせるのが好きな民族だ。まあそれは置いといて、走ったあと膝に痣が出来る。水が溜まらないのがおれのいいところ。で、尚且つロッキングの気配がする。膝に負担がかかってるからね。あんまり長くは走らないことにしてるけど。膝の為に走ってることで、あの寝返りうつだけで両膝ロッキング地獄がやってくるかもしれない。矛盾してるんだ。というか膝の為には走らない方がいいに決まってる。太ももを鍛えるなら別のやり方もあるしね。でも走る。歌いながら走る。半狂
乱で走ってる。だからなんだ、と言われても、おれの口からは何も言えないよ。

ボツ台本KY

「KY」


『KYって言葉が流行ってますね』
「もう結構前の話だけどな」
『結構前?日本の庶民にローマ字が身近なものとして普及したのは第二次大戦後だからそんな昔ではないぜ』
「なに言ってんだよ!そんな歴史的な話じゃねえよ!一年ぐらい前の話だ!」
『一年前?ていうとカツオがまだ小学生の頃だ』
「カツオはずっと小学生だよ!」
『そんな子供おらへんやろ』
「大木こだま・ひびきさんのモノマネ!?しょうがないだろアニメだし原作者死んじゃってるし。もし毎年カツオが歳を重ねていったらカツオもう還暦ぐらいになるんじゃねえか!?」
『ああ、KYか』
「KYではねえよ!大人の事情だ!」
『カツオ座る度に、よっこいしょと言う』
「おっさんじゃねえか!KYの意味違うよ!」
『カツオ、ゆっくり死ぬ』
「やめろ!そんなこと言うな!」
『宝物は、いつも大人の、もの』
「なんだそれ!宝物はいつも大人のもの?TIMじゃねえか!なんなんだよ!」
『TIMといえば有名なギャグがありますね。亀頭!』
「命な!亀頭じゃ有名になる前に消されちゃうよ!KYってのは、空気が、読めない、って意味だよ」
『亀頭!』
「やめろって!」
『亀頭!』
「だからやめろって!なんだよ!KYか!」
『ニヤニヤ』
「うわっなんだか凄い恥ずかしい」
『空気が読めないとはどういう状態のことですか?幽霊に本でも読まされてるんですか?』
「違うよ。空気が読めないってのは今さっきのお前みたいに、場の空気を壊す奴だよ、暗黙の了解を無視したり、ノリが悪かったり」
『なるほど、イエスマン野郎ってことだな』
「まああながち間違いではないよ」
『クソだな。おれなんかNOと言える日本人だからね。都合が悪けりゃ上の立場の人からの誘いも断るし、後輩の都合が悪くても呼び出すからね』
「後輩はお前と同じように先輩であるお前にNOって言ったのにな」
『そしたら誰からも相手にされなくなった』
「そうだろうな。皮肉なことにKYってのが人間関係に大きく影響を及ぼしているってのがよくわかった」
『まあジャイアンのリサイタルみたいなもんだね』
「そうだね、まさにKYだよ」
『いるよね、クラスに一人や二人さ、リサイタルを開く奴』
「リサイタルの話!?まあ確かにな。音楽に走る奴はいるよな。バンドとか、ヒップホップ系とか、ゆずっぽい人とか」
『クラス全員に君が代を聴かせる奴とかな』
「そっちの話はいいよ!リサイタルって集会のことかよ!まあいるけどよクラスに一人ぐらいそっちに走る奴」
『学校の式典で君が代を頑なに歌わない教師はKYだよな』
「まあまあKYだよな。別にいいだろって思うもの」
『私も卒業式では歌いませんでしたね』
「お前の場合恥ずかしさからくるものだろ!たくさんいるタイプだよ!」
『違うよ!卒業式であまりに感極まってさ、むせび泣いていて歌おうにも歌えなかったんだ』
「まあそういうことにしておくか」
『音楽の教師がまたKYでさ。リハーサルの時に、声が小さい!やり直し!つって延々やらされた』
「まあKYというか指導だよな」
『オィース』
「ドリフか!」
『加藤、横!』
「…志村、後ろ!な」
『KYだよ』
「うるせー!気付いたけどわざと無視したんだよ!」
『志村も後ろには気付いてるんだけどな』
「逆に気付いてなかったら問題だろ!」
『KYなことってのは、例えば徳川埋蔵金が本当に出て来ちゃったり』
「ああ、そうかもな、本当に出ちゃったら、出ちゃったよ!ってなるもんな」
『小池百合子を大臣にしたり』
「小池百合子のイニシャルがKYなだけだろ!」
『果たしてそれだけかな?』
「うるせー!いいよ!」
『なかまをなまかと言ったり』
「あれはひどくKYだったよな。流行らねえっつうのにごり押ししてたもんな」
『なまかゆえきだバカヤローコノヤロー』
「仲間由紀恵な!半分以上たけしさんのモノマネになっちゃってるだろ!」
『ハンセンバカヤロー!』
「ダンカンな!」
『水泳の話だよ』
「ああ、北島康介のライバルのハンセンね。200mでまさかのオリンピック落選。まあ確かにKYだよな。オリンピックでの対決を見たかったわけだし」
『そうだよ。北島なんかレーザーレーサー着て世界記録出したのにさ。ハンセンはレーザーレーサー着て代表落選。ここはハンセンが世界記録更新して、オリンピックで決着をってパターンだろ!どんだけKYなんだよ!』
「まあそれは最高のシチュエーションだな。だけど現実はなかなかうまくいかないよね」
『あとあれだよ!新東京タワーの名前!』
「ああ、東京スカイツリーだっけ?」
『あれ、候補の中から選ばれたんだけどさ、候補の中にろくな名前無かったからな、最悪だよ』
「まあお偉いさんが考えることだからな」
『東京EDOタワーとか、夢見櫓とか、シンジラレナーイ』
「元日ハム監督のヒルマンのマネは置いといて、センスないよな」
『日本らしいというか下町らしい名前をつけたかったってのはわからなくはないけどね』
「向島辺りに建つからね。浅草の川向こう」
『それだったら東京ゲイシャタワーのがよっぽどいいぜ』
「ゲイシャは駄目だろ!」
『外人はみんな知ってるぜ?向島だし』
「そうだけど!」
『東京ゲイシャタワーに東京フジヤマタワー、東京テンプラタワー、東京サムライタワー、東京ニンジャタワー、東京スカイツリー、さてどれを選ぶ?』
「一概にスカイツリーを選べないのがまたなんとも」
『他にもあるぜ、東京アキバタワー』
「秋葉原に建つわけじゃないからな」
『東京トヨタタワーとか東京ホンダタワー』
「自動車会社が建てるわけじゃないからな」
『東京クララタワーとか』
「クララは建てない!いや立つけど!」
『東京日本の科学力は世界一ィィィイイタワーとか』
「シュトロハイムか!」
『まあどうせ新東京タワーが建ったところで2011年にテレビ業界は自殺する予定だから』
「多分潰れやしねえよ!」
『まったくKYだぜ。地デジってやつは。地デジはやってこない!』
「やって来る!ていうかもう来てる!もういいよ!」


終わり なーむー

読んだら損する「運命はテイクアウト」(19)

ギリギリに、しかし静かに、張り詰めた緊張感。リアルに膝にリアル爆弾を抱えているみたいなものだ。このギリギリの雰囲気で重宝したのは甥。こいつがなにかする度に笑顔がうまれる。義兄はこの雰囲気の中、どうしていればいいのかわからなそうにしている。ていうか僕と一緒に黙ってポテチ食ってる。パリポリ。コンソメ味がなくなった。そして義兄は姉に呼ばれて行った。
と、思ったら、甥を連れて義兄が再度僕のもとへ。甥をいじらないといけない雰囲気だったので、甥の目の前にポテチを一枚差し出す。掴み取ろうとする甥。当然、ポテチは甥の手から素早く逃げて僕の口へ。まあ犬とかによくやるやつ。きょとんとした顔で甥が僕を見る。濁りのない白目黒目。純心。そんな目で僕を見るなよ。義兄もきょとん。あんたもか。パリポリ。僕がもう一度同じことを繰り返すと甥はもう悔しさと恐怖が入り混じった感情を惜しげもなく披露した。泣いた泣いた。
「なにをしてんのあんたは」
姉が僕の延髄辺りをはたく。
「いや、自然界ではこうやって獲物を捕ることを覚えさすんだよ」
「猫じゃないんだからさぁ。まったく。ねえ、叔父さんにいじわるされたねえ。いじわるな叔父さんだねえ」
姉の胸に顔をうずめて泣く甥。みんな甥を見ている。微笑ましいとはこんなことなんだろう。僕は苦笑いを浮かべて喫煙エリアに向かった。やはりここでもタバコは追いやられている。ヘビースモーカーである僕の父親は、僕が記憶している限り、幼児だった僕の前でも平気で吸ってたもんだったのだが。やはり孫の力は偉大だ。
全員揃ったので近くのしゃぶしゃぶ屋に移動する段になった。総勢20人ぐらいだろうか。みんな喪服なりなんなり、ちゃんとした格好。ちゃんとしてないのは僕と甥だけ。甥はあれ以来僕と目が合うとぐずる。学習能力というやつか。
徒歩10分。すんなり予約された部屋に通される。思い思いに席へ。ビールがマッハで座に回る。
献杯の挨拶。
「えー、この度は、宮川太郎道助の…」
今まで冗談を言ったりしていたおじさんが泣き崩れた。周りからも泣き声や鼻をすする音がする。おそらくここが今日の泣きどころのクライマックスだろう。道助の親戚と思われるおばさんなんか息が出来ない程泣いている。僕は泣かない。そう決めてきた。だけど、ヤバい。僕はバッグの中の「パグの飼い方」を想って、必死になって涙をこらえた。泣いてたまるか。「パグの飼い方」に助けられ、僕はなんとか山場を越えた。
甥がパジェットガエルの鳴き声みたく泣き出したのを境に場の雰囲気が変わった。おじさんも恥ずかしげに笑って、ビールを順々に回している。ただあの親戚らしきおばさんだけは尾を引いている。まあどこにでも一人ぐらいはこんな人いる。風物詩みたいなものだ。
しゃぶしゃぶとポン酢の酸っぱさに涙は似合わない。なんていうか、明日世界が無くなってしまうことが分かった時のような明るい雰囲気。僕は多分ただ一人法律が気になっていた。
酒が一回りした頃、誰かがカラオケを持ち出して歌い始めた。マイクが家庭を、席を、回る、回る。そして僕らのところへ。
「よっ健ちゃん」
酔っ払ったおじさんの一言で僕は一曲歌わざるを得ない状況に追い込まれた。僕より前に歌っていた人達の中に若い奴もいて、若い奴それなりの歌を歌っていたことがせめてもののことだった。この雰囲気の中若い奴のトップバッターは普通の精神を持ってる奴にはきつい。
さて、選曲である。当たり前だがしゃぶしゃぶ屋のカラオケなんかに僕のレパートリーであるアングラ、サブカルソングは入ってない。入ってないし、歌ったところで誰も知らない。やはりどうせ歌うなら白けた空気は避けたい。
僕は遠藤賢司の「カレーライス」をチョイスした。これならおじさん達にうけるだろう、と、嫌らしく計算した結果だ。
ピッピッピッ。番号を入力をしてイントロが流れ始めて、
「しまった!」
心の中で叫んだ。でももう曲が始まってしまっている。どうしよう。

ボツ台本肝試し

「肝試し。最悪」



『お前肝試しってしたことある?』
「いや、個人的にはないな、小学校の林間学校の時とかのレクリエーションでやったかなぁ。いってもお化け屋敷みたいなもんだけどさ」
『したことないってことは怖い?』
「うーん、まあ怖いよ。それになんか遊びでそういうことすると駄目って言うでしょ?憑いてきちゃうとかさ」
『ということは幽霊の存在を信じてるのね?』
「そうなっちゃうのかなぁ、でもそこまでではないよ」
『はっきりしねえな!どういうこと?』
「いや、肝試しとかお化け屋敷って怖いじゃん。怖いようになってるというかさ。それに霊が憑いてきちゃうとか言われるとさ、あんまり信じていなくてもなんか嫌だし怖いよな。幽霊の存在を信じてるか、と聞かれても、信じてる信じていない、どちらとも断言出来ないよ。見たことないし」
『あ、お前幽霊見たことないの?』
「ないな。ない、どころか幽霊なんていないと思ってる」
『でも幽霊が怖いんだろ?』
「まあもう説明出来ないからいいよ。見たことないの?って聞いてきたってことは、お前見たことあるの?幽霊」
『ある。あれは怖かったなぁ。怖いっつっても“饅頭怖い”の怖いじゃないけど』
「当たり前だろ!饅頭怖いが幽霊怖いだったらサゲの部分どうなるんだよ」
『お茶が怖いでいいだろ』
「良くねえよ!なんも成立してないだろ!」
『幽霊が好きでお茶も好きってだけでいいじゃん』
「駄目だよ!落語なんだと思ってるんだ!」
『あ、じゃあ煙草が怖いにすれば』
「幽霊が怖いつって幽霊と二人きりにさせられたあと煙草を要求したら、それ確実に幽霊とやっちゃってるよな!ピロースモークかよ!まあでも一応成立するのか?」
『幽霊から性病うつされちゃって』
「ねえよ!多分そんなことねえよ!」
『この世の病院じゃ治せないってんで幽霊病院にいったら、生きてる人は治療出来ませんって言われて』
「八方塞がりだな!つうか幽霊病院ってなんだよ!」
『しょうがないから阿部定に頼んでちんこだけ殺してもらって』
「わざわざ阿部定に頼むな!」
『幽霊病院で確かに死んだちんこの性病は治った』
「わけわからなくなってきたな」
『だけどちんこは死んじゃってるわけだから、もう二度とつけ直せない』
「よく考えてから治療にあたれよ!セカンドオピニオンとかよ!」
『夜な夜な部屋に自分のちんこの亡霊がやってきては、なにをするでもなく、勃ったり勃たなかったりしてる』
「なに言ってんだよ!」
『さすがに息子が勃ったり勃たなかったりしている様子は見るに耐えないってことで、今度は万個の霊を見つけてきて』
「どこにいんだよ万個の霊なんてよ!」
『テンガ作ってる工場』
「なるほど、だからテンガはあんなに気持ちいいってばかやろう」
『ひとりとちんこと万個で仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし』
「めでたしならそれでいいんだけど!」
『でも後日談がありまして』
「続くのかよ。アメリカのドラマか!」
『そいつ万個の霊に手を出しちゃってね。ちんこは無いから文字通り手を出し入れしちゃって』
「うるせー!」
『思い悩む万個。ヌレヌレ』
「なんで濡れるんだよ!」
『いや、涙でだよ。お前何を想像したんだよ』
「ああ、涙でか。いやお前がヌレヌレなんて言うからさ」
『まあ万個には涙腺がありませんから出るとこは一緒なんですが』
「想像通りじゃねえかよ!」
『で、思い悩んだ万個は家を出て行っちゃう。それを追ってちんこも出てっちゃう。男はひとり寂しく暮らしていきましたとさ。めでたしめでたし』
「めでたくねえだろ!」
『いや、だって気持ち悪いだろ、部屋にちんこと万個の霊がいたら』
「元は自分で切ったちんこだろ!仲良く暮らしてたんじゃねえのかよ!」
『どうでもいいじゃねえか、てきとーな作り話なんだから』
「そうだけど!少しは作者としての自覚を持てよ!」
『えーと、なんの話してたんだっけ?』
「お前が幽霊見たことある、って話」
『ああ、あれは高校生の頃だな、近所で有名な心霊スポットに友達と行ったんだよ』
「まあよくあるんだろうね、そういう状況」
『田中の家って呼ばれてる廃屋なんだけど』
「随分普通の名前だなおい」
『外見は普通の家なんだよ。表札が残っててね、表札に書いてある名前が…なんて書いてあると思います?』
「田中だろ?」
『…………正解』
「なんでいきなりクイズ形式にした!?正解しちゃったし!まあでもそういう普通の場所って怖いかもな。妙に生活感が残ってる感じが」
『そこが何故田中の家って呼ばれてるのかって言ったら、そこに田中が住んでたからなんだ』
「なにをいまさら、だよ!」
『夜中、田中の家の前に到着した我々一行』
「探検隊みたく言うな」
『入る前にちょっとしたイベントがあるんだ』
「イベント?」
『ある時間にインターホンを三回鳴らすと出るはずのない応答があって、それに応じちゃうと死ぬってわけ』
「ああ、それは怖いな。よく出来てる」
『でまあ鳴らすのよ。当然時間を合わせて。どうせなんもないんだろっつってさ。ほら高校生なんていきがってるでしょ』
「うん、ビビってるところは見せたくないよな。肝試しっていうぐらいだし」
『ピンポーン、一回、ピンポーン、二回、なにも起こらない、ピンポーン、三回、ガチャ』
「うわぁ」
『はい、どちら様?こんな時間に。この世のものとは思えない声で言うんだ』
「怖っ!」
『もう友達なんかパニクっちゃてさ。でもおれは幽霊なんて信じちゃいなかったから、応答してやったんだよ』
「よくやったなお前」
『とっさに田中君の友達ですって言ったの。家族の幽霊だって話だったから』
「なるほど」
『そしたら、鍵開いてるからどうぞって』
「うわぁ」
『確かに鍵開いてるのよ。恐る恐るドアを開けると、変な匂いがして、やけに暗くてさ。まあ夜だから当たり前なんだけど、もう明らかにこの世のものとは思えない闇の空間が広がってる』
「怖いなぁ、入ったの?」
『入るか入るまいか悩んだけど、ここでいかなきゃ男じゃないでしょ』
「入ったんだ。凄いな」
『入った。入ったらさ、音が聞こえるんだよ。ラップ音っていうの?バタバタバタバタって誰かが歩き回っているかのような音が』
「うわぁ」
『友達の誰かが、もう帰ろうって言ってくれるのを期待してるんだけど、みんな自分から言い出せないわけ』
「そうかもな、ひよってるって言われちゃうしな」
『前に進むしかないんだ。今考えればもうあっちの世界に一歩踏み込んでておれ達の行動が支配されていたのかもしれない』
「簡単に引き返せないんだ」
『意を決して進む。心臓がバクンバクン脈打ってるのが自分でよくわかった。で、まあ、田中君の友達ですって言った手前やっぱり子供部屋を目指すわけ』
「律儀だな」
『ていうか自然と足がそっちの方に向かうんだよね』
「ああ、そっか」
『階段を上がってさ。また階段がえらく急でさ。しかも一段上がる度に音がする。ギィー、ギィー』
「怖すぎだろ」
『二階に上がると、もうここだってわかるんだよね、ここが子供部屋だって、ドアの隙間から光が漏れてるんだよ。ついてるはずのない光が』
「うわぁ、もう開けるなよ。でも開けたんだろ?」
『開けたよ。ゆっくり、段々と光の漏れが大きくなっておれ達を照らしていく。そして部屋の中が見渡せるようになると、いたんだよ!幽霊が!田中が!』
「ああもう!」
『おれ、いやおれ達全員、時間が止まったみたいに体が固まっちゃってさ。そんなおれ達に向かって幽霊がさ、よく来たね、一緒に遊ぼう、なんて言ってきた』
「で、どうした?」
『そこが限界だった、みんな悲鳴をあげて家から出てった』
「ああ、出られたんだ。よかったじゃん。まあでられなかったらここにはいないわけだけど」
『帰り道、みんな黙りこくっちゃってさ』
「そりゃそうだろ。軽い気持ちで行ってこの始末だろ?」
『でもなんか違和感があるんだ。そう。友達がひとり増えてるんだ』
「ってことはまさか」
『おれそれに気がついてさ。うわあぁ!って悲鳴をあげたら、ひどいじゃないか、って声が聴こえて、人間が走る足音がしたんだ』
「うわ怖いわぁ」
『で、その日はみんなそれぞれ家に帰って。次の日学校でみんなと会った』
「様子が変わってた奴とかいなかったの?」
『いや、みんな元気だった。でも怖くなったから田中のケータイにメールすることにしたんだ、昨日はごめんね、って』
「え?田中のケータイに?どういうこと?」
『ほら、田中って中学の同級生だったから』
「ちょっと待て!意味がわからないんだけど!」
『わかれよ!中学の同級生だったんだけど色々あったんだよ!でもケータイはまだ通じるから』
「色々ってやっぱり不幸なことが?」
『そうだよ!田中だけ違う高校に行ったんだ』
「全然不幸なことじゃねえよ!大した問題じゃねえ!なんだよ!結局田中は生きてんのか!?」
『生きてるよ。多分』
「生きてんのかよ!肝試しでもなんでもねえじゃねえか!ただ夜に友達の家に行っただけじゃねえか!悪質なイタズラだ!勝手に心霊スポット扱いしてよ!」
『でもあれ以来メールしても返事が返ってこないんだよ。死んでるのかも』
「そりゃ深夜にそんなイタズラされりゃ怒るよ!田中の身にもなれ!縁切られたんだよ!」
『まさか、田中っておとなしい奴だったんだぜ?』
「だからだよ!もう関わりあいになりたくなかったんだよ!お前ら中学の頃田中いじめてねえよな!?」
『いじめてねえよ!変なこと言うな!』
「ああ、いじめてないならいいんだ」
『ボケでもいじめてたなんて言うもんか!』
「いやここは、やっぱりいじめてたんじゃねえかよ!って流れだろ!」
『お前いじめなんて言葉を軽々しく扱うな!いじめられてる奴やいじめられてた奴が聞いたらどんな思いになると思ってんだ!』
「悪かったよ」
『ったく、田中の身にもなってみろよ!』
「やっぱりいじめてたんじゃねえかよ!もういいよ!」
『本当はいじめてねえんだよ!』
「わかってくれるから!」


終わり なーむー