読んだら損する「運命はテイクアウト」(20) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(20)

「誰かがお腹を切っちゃったて、うーんとっても、痛いだろうにね」
三島由紀夫の自決、即ち自殺、を間接的に歌っている二番の歌詞。もうイントロは終わり歌い始めている。
ふと周りを見渡せば、曲の内容を知っていると思わしき人達がなんともいえない顔で僕を見ている。でも、やるしかない。引き返せないだろ。こうなったら…、
「誰かが屋根から、飛び降りちゃったって」
と、お決まりといえばお決まりに、歌詞を替えた。かなり寒い、が、中途半端に気を使って歌うよりかは、いっそのこと、ってやつだ。
「おいおい」
すぐさまおじさんが笑いながらツッコミを入れてくれたので、場は苦笑いで済んだ。僕を知らない、僕も知らない、人達は僕を奇異の目で見る。まあ、それは今に始まったことじゃないが。僕だって逆の立場ならそうしている。こんな席に短パンで来る奴なんてろくな奴じゃない。おまけに長髪で、ピアスまでしてる。
なんとか歌い終わり、逃げるようにトイレへ駆け込む。小便をしていると巨大な影が僕を包む。振り向けば小山さん。
「いやぁ、健一君。やらかしたねぇ。狙っていたのかい?」
膝を曲げて小便をしている小山さんがニコニコしながら僕に話しかける。
「いえ、なんというか、曲選びに失敗しました」
「ははは、でもあれは良かったよ」
「そう言ってもらえると助かります」
「ところで健一君」
手を洗っている僕に背中越しで話しかける。
「昨日、ほら、あの公園にいなかったかい?あの殺人事件の」
背筋が凍るとはこのことだろう。全身の毛が逆立つ。が、
「あぁ、昨日、バイトの帰りに、自転車で行ってましたんで、ちょっと気になりまして、帰り道のついでにふらふらと寄ってみたんです。小山さんあの時いたんですか?」
と、出来得る限り平静を保ち答えた。行っていない、と、しらばっくれることは出来ない。小山さんが僕を見間違えることなんて考えられない。ここはなるべく事実を言うしかない。それがベターだ。
「あぁ、ちょっと家族の方に用があってね。はは、あの時いたのかって、いたから君を見たんだよ」
いつもはふっくりしている小山さんの声が妙にはっきり聴こえる。
「そりゃそうですね」
「しかし、よくあの場所がわかったね」
「へ?」
ジャブジャブジャブ。手を洗いながら、以前小山さんに公園の場所を知らなかったフリをしたことを思い出した。
「ほら、前は知らなかったでしょ」
なんなんだ一体。僕に何か言わせたいのか。僕が…………。気が狂いそうになりながらも、
「まあ一応地元民ですから、大体の場所が分かれば。それに、あの、下世話な話、小山さんがあの話をしたあと地図で調べたりしましたから」
我ながら冷静な応えだ。
「では」
そう言ってトイレを出た。変な顔になっていないか、何度も手で顔を揉む。廊下に響く演歌。おじさんの声。やっぱり。襖を開ければ日常の戦場。普通にしているんだ、普通に、ただトイレに行って帰ってきただけだ。ただ小山さんとトイレで話しただけだ。
戻ってきた小山さんと目を合わす、と、決めた。顔を見ないなんて不自然だからだ。あれだけ目立つ人なのだから。
すうっ、扉が開く。準備万端。ばっちり顔を見てやった。が、小山さんがこちらを向くことはなかった。
僕は確信しなきゃならない。小山さんは僕を後輩殺しの犯人だと疑っている。被害妄想かもしれない。でも、小山さんに対して細心の注意を払わなければならないことに変わりはない。一生……?
宴会も終わりの時がやって来た。おじさんによる締めの挨拶。もう涙は無いが、やっぱりしんみりしてしまう。僕は相も変わらず「パグの飼い方」のことを想ったけども、短時間にやりすぎたのか、あまり効果がなかった。こんな時は風に吹かれるしかない。
レジに巨大な影、またか、会計を任されている小山さんだ。嫌だな、だけど今さら引き返すわけにもいかず、
「足りますか?」
なるだけ自然に話しかける。
「ああ、大丈夫。お釣りが結構あるよ。健一君はどうしたんだい?」
「いや、ちょっと外の風にあたろうかと、堅苦しい雰囲気になってきたので。苦手なんですよ、後片付けが」
「はは、後片付け、か。確かにね」
小山さんはにっこり笑い、
「ああ、そうだ」
と、ふっくりしている声で言った。わざとらしい言い方だ。